Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    妖怪ろくろ回し

    ほぼほぼネタ箱。
    夜叉姫は先行妄想多々。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 33

    妖怪ろくろ回し

    ☆quiet follow

    三人娘

    ##半妖の夜叉姫

    *


    「思い出せなくたっていいよ。ううん、思い出さなくたっても、かな」
    「……突然何を言う」
    「もろはと話したんだ。これからのこと……っていうか、これまでのこと、かな」
    「そーそ。夢の胡蝶は探すし、せつなの記憶と夢が戻るならそれに越したことはねぇけど」
    「……」
    「せつなぁ、そんな顔すんなって。とわ説得するの大変だったんだからな」
    「話が読めん。説明しろ」
     バイオリンの手入れをするせつなの元にやって来た二人は突然そんなことを口にした。
     夢の胡蝶に近づける手がかりはなく、行く先々で血の繋がりはあれど記憶のひとかけらも残っていない実父(らしい)・殺生丸の娘どもと難癖をつけられる日々を送ることにももう慣れた。胡蝶に追いつけないことへの苛立ちはあれど、結果として三人が妖怪退治をすることによって救われるひとたちの笑顔を見れば遠回りも徒労ではない、なんて思い始めた矢先。
    「説明もなにも、そのまんまの意味だぜ」
    「だから、それがどういう意味だと聞いている」
    「……私たち、もう仲間 だよね」
    「……そうだな」
     些細な違いはあれど、おおかた同じ目的を志す旅の道連れ。
     せつなととわは退治屋に、もろはは屍屋に身を置きはするが、気づけばいつも妖怪の元に三人は集う。運命の作為か、それとも何者かの作為か。ここまで偶然が重なるとは到底思えないが、今はどうだっていい。
     こうして夜明けの光が差すなかで足を組んで座り込んで頭を突き合わせて話を交わす、それが事実。
    「私……せつなに思い出して欲しい、とは思うんだ。でもさ、過去がなくたって、思い出せなくたってもう私たち仲間だし、友達だ。だからもう……こだわるのはやめたんだ」
    「……とわ」
    「あぁえっと、もう胡蝶探すのはやめる! とかじゃなくて、その……なんて言ったらいいんだろう。記憶がなくたって、過去がなくたって、『今』のせつなはもう、『今』の私やもろはと仲間で、友達。それは……どんな過去があったって 変わらないだ」
    「……なんだ、そんなことか」
     改まってきたかと思えば、気が抜けるようなことをとわが口走るものだからせつなは手にしていた弓を置いた。
    「なんだってなんだよ!」
     ぷん、とわざとらしく口を尖らせて怒ったのはもろはだ。「せつなに過去の記憶がないのは私のせいダー! って言うとわを、この、アタシが、説得してやったってのにさぁ! ちょっとは労うとか、もうちょっとないわけぇ?」と言いながらも、どこか口調は嬉しそうなそれ。
    「ちょっともろは、それは言わないでって!」
    「とわも。言った通りだろ? せつなはもうそんなこと分かってるって」
    「!」
    「……もろはに気を遣われたというのなら心外だが、さっき言った通りだ。今更『そんなこと』を言葉にして確かめる必要があるのか?」
    「あ……」
     バカらしい。
     せつなは強烈に差し込んでくる東の空に目を細めた。もっと眠っていればいいものを、と彼女もまた、もろはと同じように口元に笑みを浮かべながらわざとらしくため息をついて見せた。
    「逆に問うぞ、とわ。お前はまだ、私たちが双子だからという理由だけで共に行動しているのか? もろはの父と我らの父が兄弟であるから……血縁を理由にこうして共に妖怪を追っているとでも言うのか?」
    「っ そんな訳ないだろ! そりゃあ、きっかけはそうかもしれないけど……」
     従姉妹とか、双子とか、夜叉姫とか。
     目に見えない血の繋がりが繋いだ縁であるやもしれないが、今三人を結びつけるはきっとそんなものではない。過去のない少女からしてみれば二人との邂逅は白紙へと心に色鮮やかに絵筆で彩られて行く旅模様。身に流れる血の半々を人間と妖怪で分けた半妖であり、胸に抱く想いは異なれど、歩む道は同じ。
    「ならわざわざ言葉にする必要はないだろう。それとも、私はそんなに薄情だと思っていたのか」
    「……もしかしてせつな、怒ってる?」
    「怒ってない!」
    「あ、怒ってる! とわ、せつなの奴怒ってるぜ!」
    「黙れもろは、そこに直れ!」
    「やなこったぁ! だから言ったろぉとわ……って、お前裏切ったな、こら! 離せー!」
    「せつな、やっちゃえ!」
    「覚悟!」
     手のひらを貸したようにとわに羽交い締めにされたもろはは両手両足をじたばたと振り回すが、体格で負けるとわの腕からは逃れられない。
     やめろぉ、やめろって! とギャアギャア騒ぎ立てるもろはの細い脇腹に手を伸ばしたせつなは──くすぐるのではなく、ぎゅう、と背後のとわごと抱きすくめるように腕を伸ばす。毛皮に圧迫されてやはりもろはは「うっぷ」と声を上げはしたものの、今度はとわが背側から腕を伸ばせばもうもろはは逃げられない。
    「な、なんだよ なんだよ二人とも!」
    「へへっ もろは、いつもありがとね!」
    「……お前がいないと張り合いがない」
    「…………二人とも……」
     ぐすん。
     双子に挟まれぎゅうと抱きしめられた小柄な少女は鼻をすすり、それから小さな声で「ありがとう」と囁いた。


    「もろは、貴様鼻水をつけるでない!」
     当然、ただでは転ばぬ四半妖の娘はすぐさま表情を変え、けらけらと笑いながら怒り始めたせつなの緩んだ腕からすぽりと頭を下げて抜け出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING弥勒と翡翠*


    「ほう! これはまた、久方ぶりのものを……」
    「知っているのですか、父上」
    「あぁ。昔はよく、旅すがらいただいたものです。この背徳的とも言える味、いやぁ 懐かしい限りです」
     サク、サク。
     せっかくだから少しお父さんと話していきなよ、これでも食べてさ。
     そう言ってとわがくれたのは翡翠が今まで見たこともない異国の菓子であった。きっちりと封をされているはずの袋を裂いて開ければあら不思議、濃厚な匂いがあたりに広がった。
    「奇怪な味だ」
    「なれど癖になる。いやはや思い出しますなぁ。こうしてよく、他愛のない話をしながらつまんだものです」
     隣には雲母を膝に乗せた珊瑚がいて、かごめがいて、七宝と犬夜叉が最後の一粒を取り合って。
     甘ったるい果物の汁を分けあって飲んだこともあった。口内に弾け飛ぶ刺激の強い、薬のような味のする甘い汁を飲んで犬夜叉が大暴れしたこともあった。とわが持っているものと似た、やはり大きな背負い袋を抱えた異国人のかごめがこうして菓子を広げてくれて──様々な飲食物を勧めてはくれたが、弥勒は知っている。この菓子を持ち込めるのは限りがあって、貴重なものだということを。
     仲 1338

    妖怪ろくろ回し

    MOURNING殺生丸と両親*


     殺すも生かすも心次第。
     然れど、いつ如何なる刹那であろうとも、殺そうとも生かそうとも忘れてはならぬことがある。命を愛でよ、それが殺すべき息の緒であれ生かすべき玉の緒あれ、分け隔てることなく。
    「皮肉な名前をつけたものだ」
     故に、殺生丸と。
     命を尊ぶ者になってほしいという願いと祈りの込められた赤子はしかし、そんな父の想いなど我知らず。とんだ暴れ馬となったものだ。気の食わぬ者は妖怪であれ人間であれ毒爪の餌食とし、ころころ玉遊びのように他者の命を奪うかつての可愛らしい赤子は、今まさに母の膝上で寝息を立てていた。
    「元気がよいのは結構だが……もう少し父としては慈しみの心があってもよかったと思うが……」
    「慈しみ、のう。闘牙さまの目は節穴か」
    「むぅ」
    「弱き者を苦しまずに殺してやるのもまた、慈悲の心だとは思いませぬか?」
    「……まぁ、下から数えれば……そうなるやもしれんが」
     少なくとも今はまだ相手を嬲り殺すような遊びを覚えてはおらぬだけよい。
     そんな言い方の佳人に闘牙王は大げさなため息を零したが、見目麗しき細君は気にした様子もなく笑みを美しい唇に浮かべたままだ。
    「それに、 1429

    recommended works