警官零プレがイチャイチャするだけ「ねぇ零夜くん!」
とある世界で、一人の女の子が声を掛ける。女の子の声に振り返ったその人は……私の初恋の人だった。
「やぁ、プレイヤー。どうかしたかい?」
「あのね、不思議な夢を見たの」
「不思議な夢?」
私によく似たその女の子は、うーんと唸りながら言う。
「警察官の零夜くんと、私によく似た女の子が幸せそうにしてる夢なの」
「……」
「これってもしかして、別の世界線なのかな?」
女の子が訊くと、零夜くんは薄ら笑って頷く。
「あぁ、きっとそうだね。元気そうだった?」
「うん!そっか、私も見れるようになったんだなぁ……別の世界の私を……」
もしかして、それって……
そう気づいところで、
「はっ」
目が覚める。
相変わらず、私は夢を見ている。パラレルワールドの私の夢を。
「そろそろ準備しなきゃ」
彼……今の私の彼氏、零夜さんと親密になるきっかけになった世界の夢を。
あれから何事も無く、平和に三ヶ月ほどは経った。
零夜さんは忙しいから、週に一回とかしか会えないけど……でもきっと、彼の職業のことを考えたら多い方だ。
私との時間を作ってくれてるみたい。
それがとても嬉しいし、電話もメールも頻繁にくれるから、特に不満ってことは無かった。
相変わらずいじめられるしからかわれるしドSなのは変わりないけどっ!!
「……ここ、だよね」
私は今、零夜さんが住んでいるマンションの前にいる。
け、結構大きいな……零夜さん、こんな所に住んでるんだ。流石……
下で待っててって言われたけど……
「あっ」
「……やぁ。やはりこの時間に来たね」
一週間ぶりの彼の姿に胸が高鳴る。抱き着きたい……けど、また子供みたいだと言われそうだから深呼吸して落ち着く。
「零夜さん、こんにちは!暑い中待たせてすみません!」
「構わないよ。ほら、こっち」
零夜さんに連れられてマンションの中に入る。
よ、よし!上手くいった……!
何故零夜さんの家に来ることになったのか、それは数週間前に遡る。
付き合ってからというもの、私と零夜さんの関係は前とさほど変わらなかった。デートには行ったし、眠くなるまで話もするけど……零夜さんはやっぱり真面目だから、私を門限通りに家に帰してくれるし、あまり夜中まで電話もメールもしないのだった。
不満ではない、けど……恋人らしいことがしたいなとふと思ったのだ。
そしてズバリ!思いついたのは、私の家に零夜さんを呼ぶか、零夜さんの家に私が行くかだったのだ。
私の両親にはもう挨拶は済ませてある。2人共びっくりしてたけど、零夜さんの本気さが伝わってたみたいで、最後の方には笑って快く認めてくれた。
零夜さんは一人暮らしで両親はいないっていうから、特に挨拶なんかはしなかったけど……
なので私の家には一応呼べはする。でも、流石にハードルが高い!と思ったので、勉強を教えてもらうという名目で零夜さんの家に行くことにしたのだ。
カフェでだってできるだろう、なんて言われると思ったんだけど、案外あっさり了承してくれたから驚いた。
別に成績にはさほど困ってはないけど、零夜さんはきっと頭が良いから、これを機に色々教えて貰えたら得だし。
何より……い、イチャイチャとか、できるかもだし……?
し、下心とかじゃないけどっ!でも恋人だし、期待しても……いいんだよね?
悶々と考えていたら、いつの間にか部屋に到着していた。
「どうぞ」
「お、お邪魔しますっ!」
カードキーで開いた部屋に入らせてもらうと……
「わぁ……」
とても綺麗な、物が少ない零夜さんの部屋とご対面だ。
ここが……零夜さんの部屋……
「そんなにじろじろ見てもおやつなんて出てこないよ」
「私が常におやつのこと考えてるみたいな言い方しないでくれます!?」
「あれ?違うのかい?なら、君の為に買っておいたフルーツタルトは同僚にでもあげようかな」
「あっあっ!食べます!欲しいです!!」
「ふふ……必死すぎ」
「なっ!?うぅ〜っ……!」
ぽかぽかと胸を殴ると、それを軽く受け流して「さっさと入って」と言われたので入る。
寝室のミニテーブルの前に座って、勉強道具を広げる。冷えた麦茶を出してくれた零夜さんにお礼を言いつつ受け取って、一口。はぁ……冷えた麦茶ってどうしてこんなに美味しいんだろう。
「それで、何を教えて欲しいんだい?」
「えっと……数学が不得意なので、数学をお願いできますか?塾でもやってるんですけど……中々手強くて」
「ふうん、数学か。いいよ。やろうか」
零夜さんに参考書を見せながらわからない問題を訊く。既に距離が近い……!凄くドキドキする……
しかし。特に何も無いまま数時間後。
「そっか!こうやって解くんだ!」
「へぇ、理解が早いね」
「こう見えて勉強はできる方なんです。解けたら楽しいし!」
「……その頭の回転の速さを日常生活でも活かせるといいのだけれどね?」
「むっ……!十分活かしてます!」
零夜さんが教えるのが上手いのと解ける楽しさで最初の目的を忘れて楽しんでしまった。
これなら次のテストいい点取れるかも!?ついでに他の科目も教えてもらおうかな〜!
と、油断していた私に。
「へっ?」
零夜さんが手を重ねてきた。
「れ、零夜さん?」
「……気にせず、続けて」
「は、い……」
気にせず、と言われても……零夜さんの手の、皮膚越しに伝わる体温のせいで集中できないし……
っていうか、なんか、恋人繋ぎになってない……?
「零夜さん、あの、その……」
「ん?」
「……手が、えっと」
「……嫌?」
「嫌とかじゃなくて!な、何でかな〜って……」
恥ずかしさを誤魔化すように訊くと、零夜さんが近くでふっと笑った気がした。
「大方、こういう事をしたいが為に勉強という名目でここに来たんだろうと思ってね」
「えっ!?」
ば、バレてる!?
「全く……来たいなら来たいって言えばいいじゃないか」
「で、でも……なんかその……下心あるみたいじゃないですか……そういうことしたい、みたいな……」
口篭りながら言うと、零夜さんは「へぇ」と呟く。
あれ、この「へぇ」はヤバいやつじゃ?
「したくないの?」
「へ」
「君の言う、そういうこと」
「……!?」
ボッと顔が赤くなるのを感じる。それを見て零夜さんはくすりと笑った。
「何を考えているんだい?変態だね」
「へ、変態じゃないですっ!そんなこと、かかっ、考えてないですからっ!!!」
ヤケになって叫ぶと零夜さんがふと耳元に唇を寄せた。
「え」
「……僕は君が変態でも構わないよ。寧ろそっちの方が都合がいい」
「……!? つ、都合が、いいって……?」
ドキドキしながら訊くと、零夜さんは私の顎を掴む。
「教えてあげようか」
「っ……!?」
それが何を意味するのかをわかった瞬間、固まって動けなくなる。
零夜さんの顔が、段々、近づいてきて……
恥ずかしくてぎゅっと目を閉じる。
…………。
「いたっ!!」
やって来たのはキスの柔らかい感触ではなく、おでこの痛みだった。
零夜さんにデコピンされたのだ。
「期待した?」
「っ〜〜〜〜!!零夜さんのばかばかばかばかーーーーっっっっ!!!!!」
再びぽかぽか殴ると、零夜さんはまたそれをはいはいと受け流す。
「ほら、気が済んだなら勉強に戻って」
「うぅ……乙女をからかうのは良くないですよ!」
「そうだね。あんなに乙女な顔をされた後だと、その言葉にも説得力があるよ」
「忘れてくださいっ!!!!」
「忘れられないよ、あんなに可愛らしい顔」
「へっ……!?」
「…………ふっ」
「!! も〜〜〜〜っっっ!!!!」
結局からかわれただけで終わって、あっという間に時間が来てしまった。
靴を履いて、零夜さんの方を振り返る。
「お邪魔しました。勉強、教えてくれてありがとうございました!次のテスト、期待しててくださいね!」
「あぁ、楽しみにしているよ」
「……」
「? どうかしたかい?」
言わなきゃ……
ここですぐに帰ったら、後悔するから……!
「……あの、零夜さん」
「?」
「また……勉強、教えて貰ってもいいですか……?」
「!」
「また、ここに、来たいです……!」
呆れられるかな、それともまたからかわれるかな、そう思いながら下を向くと。
「へっ……!?」
ぐい、と手首を掴まれ引き寄せられて。
「……!?」
唇に柔らかい感触が訪れた。
……沈黙が流れる。
しばらく、といっても数秒だけど……その時間がやけに長く感じられた。
唇が離れると……零夜さんは穏やかに笑った。
「またおいで」
「……!?!?!?」
私は恥ずかしさのあまり、「お、お邪魔しましたぁっ!!!!」と言って音速で扉を閉めマンションの下まで走ってきてしまった。
「はぁっ、はぁっ……!!」
する気なんて、ないと思ってたのに。
あ、あんなの、あんなのっ……!!
「ずるいよぉぉぉぉ……………」
「……」
彼女が去った後の部屋は、やけに寂しく感じた。
玄関に座り込んで、片手で顔を覆う。
「……狡いじゃないか。そんな可愛いことを言ってくるなんて…………」
知っている。彼女がずっとここへ来続けたら、いつかきっと我慢できなくなって手が出るって。
今日だってずっとずっと我慢していた。本当はキスもハグもそれ以上のことも、したくてしたくて堪らなかった。
なんなら、ここに閉じ込めてしまいたいくらいなのに……
だが、ダメだ。彼女のことは大事にしたい。
彼女から許可が出るまでは……手を出すわけにはいかない。
(……今日の夜も長くなりそうだな)
それから何度か家にお邪魔させてもらって、勉強を教えてもらうことが増えた。おかげで成績はうなぎ登りで、両親も零夜さんに凄く感謝してるみたいだった。
「またお礼しないとね!でも……お泊まりする時は一言言うのよ?」
「っ!? し、しないから!!」
母がふとそんなことを言う。また、学校の友達も……
「えー!?まだキス止まりなの!?隣のクラスの子最後までしたって言ってたよ?」
「さ、最後までって……でも……私まだ高校生だし、あっちは警察官で……」
「それは二人の話だし、公にしなきゃいい話じゃん!もっと親密になる為にも絶対進めるべきだよ!」
などと言ってきたり……
考えないこともなかったけど……お泊まり、お泊まりかぁ……
また別の日。付き合ってもう一年になろうとしている時だった。
今日も零夜さんの家で勉強を教えてもらうことになっている。
「……」
「ん?どうかした?」
しかし、テスト終わりなこともあって私は勉強する気になれず。早々にノートを閉じた。
そして零夜さんの方を向く。
「零夜さん!」
「?」
「私……」
そこですぅ、と息を吸って……覚悟を決めた。
「今日は、零夜さんに甘えたいです!」
「……甘えたい?」
「い、いつも甘えてますけどそうじゃなくて!なんかこう、その……イチャイチャ、とか……したい……です……」
急に恥ずかしくなってしまって声がどんどん小さくなっていく。うぅ、やっぱり言うんじゃなかったな……
と。
「いいよ」
「……え?」
「テストも終わったし、頑張ったご褒美だ。たまにはいいだろう、甘えるだけの時間があっても」
「……!」
「おいで」
そう言って腕を広げてくれた零夜さんの胸に飛び込む。私と同じくらいの細さで、でもしっかりした男の人の体……その温もりと零夜さんの匂いをまるごと抱きしめるようにぎゅっと腕に力を込める。
「えへへ、零夜さん……」
「……」
今、零夜さんはどんなことを思ってるのかな……
友達はあんなこと言ってたけど、そもそも零夜さんは私みたいな子供っぽい彼女と、そういうことしたいって思ってるのかな……
いつも私がここに来てる時、何を考えているんだろう……?
「……」
それを探るべく、零夜さんの顔を見ると。その顔は愛しい者を見る目だった。私の頭を撫でながら、微笑ましそうに口元を緩めている。
(あ……)
その時、なんとなくわかった。
この顔は、私にしか見せない顔だって。
それが何だか嬉しくなって自然とはにかむ。
「何だい、人の顔をじろじろと見て」
「何でもないです〜」
「……あぁ、そう」
ふと、零夜さんの手が私の頬を撫でる。顔を上げると、視線があった。
そのまま流れるようにキスをする。
(キスの先って……何なんだろう……?)
そんなことを考えてしまう。知らない訳では無いけど、それもイメージのようなもので、ぼんやりとした知識しか無かったから、具体的に何をするかときかれたらきっと答えられない。
……零夜さんは知ってるのかな?そういうイメージあんまりないけど…………
男ならえっちな本の一つや二つ隠してるから探してみたら?って友達が言うからこっそり探したりもしたけど、全然無いし、スマホの中も特に何も無かった。
やっぱり……興味無いのかな?
それとも私の色気が足りない!?そっちだったらショックだな……
「……あの、零夜さん」
「ん?」
「私、その……まだ子供っぽいですか?」
きいてみると、零夜さんは少し固まった後に、「どういうこと?」と聞き返してきた。
「……色気とか、ないのかなぁって……だから、キスの先は無いのかなとか……」
「……」
「……零夜さん?」
返事がないことに不安を覚えて見ると、零夜さんは何故か片手で顔を覆って深くため息をついた。
「え!?わ、私何か変なこと言っちゃいました!?すみませんっ、忘れてくださ」
「あるよ」
「……へ?」
「十分、君は色っぽいさ」
「……え!?」
想定外の返事に驚く。ま、まぁ、人並みの体はしてると思うけど……思っててくれてたんだ……
「だから……これでも結構、我慢してるんだよ」
「え?がま、ん?何の……?」
「……君の言う、キスのその先のことだよ」
「……!?」
ちょっと、待って、それって……?
私が固まっている間に、零夜さんは私と手を合わせてきゅっと指を絡ませる。もう片方の手で腰を抱いて。
「君の香り、君の表情、君の体……温もりも、透き通るような白い肌も、その唇も……見る度全て飲み込んでしまいたくなるくらいさ。今は何とかスキンシップまでで留めているけれど……あんまり刺激すると、歯止めが効かなくなるから。まぁ、わかっているね?」
意味深に細められる目。その妖艶さにゴクリと生唾を飲み込む。
踏み込んではいけないとわかっていながらも……好奇心が勝ってしまった。
「……わから、ないです」
「……」
「どう……なるんですか……?」
そう訊くと、零夜さんは少し悩むような仕草をした後に。
……緑色の瞳をギラりと光らせた。
「…………経験した方が早いね。少し教えてあげよう」
「っ!?」
ドサ、と。床に倒される。倒れた私を見つめて、零夜さんはニヤと笑った。
どうしてか、視線が逸らせない……妖艶な雰囲気を纏った零夜さんから、一度も目を離せなかった。
見つめ合っていたら、段々零夜さんの顔が近づいてきて……
ちゅ、と口付けられる。
「……んっ…………!?」
しかしそれは普通のキスじゃなかった。唇の隙間から差し込まれた舌がゆっくりと私の舌に絡んで、歯列をなぞり、口内を舐る。
「ん、ん……れ、ん、んぅ……んーっ……!」
キスされながら横腹を撫でられ、その手がやがて下へ伸びていき……スカートの上から太ももを撫でる。
「ん、んっ……!ん、ん……!!」
くすぐったくてもがこうとするけど、全く離れてくれないし、押し倒されているせいで身動きが取れない。
唇が離れると、零夜さんはふーっ……と息を吐く。
「っ、零夜さ、ひゃっ……!?」
今度は耳たぶを甘噛みされて、ビクリと体が跳ねる。なぞられるように舐められ、耳環にちゅ、と吸い付かれる。
「だ、め、零夜さ、耳、やぁっ……!」
「……やっぱり耳、弱いんだね?」
「!?」
急に囁かれて、零夜さんの声が響いて体が熱くなる。
「おや?どうしたのかな、そんなに膝を擦り合わせて……」
「零夜さんっ、そこで、しゃべっちゃ、だめ……!」
「っふふ……可愛い」
「っ!?」