残り香(プロット)【オル相】『残り香』
寮生活中、オールマイトが出張で一週間雄英を離れることに。
数日前、オールマイトが寮内でスキンシップを取ってきたことを強く注意した手前もあり、相澤は出張の事実を告げられても「そうですか」とそっけない返答になってしまう。
オールマイトがいない数日を何事もなく、だけど少し物足りなく感じながら過ごしていた相澤は、そばにいてもあんなに頻繁に送られてきていたメッセージがぱったりと止んでいることに気が付いた。
強く言いすぎたこと自体は悪いと思っていても、寮の中でそういうことはしないという取り決めを守らなかったのもオールマイトで。
好きだよ相澤くんと微笑んで囁かれ髪を撫でて唇で触れる仕草を思い出しては上がる体温と正気を保てない自分をまだ受け入れられるほどにもなっていない。
それでも、思わぬオールマイトの欠落に耐えられなくなった相澤は貰った合鍵でオールマイトの部屋へそっと忍んだ。
明かりもつけず真っ直ぐベッドに向かい、倒れ込んで呼吸をする。これが安らぎだと感じるくらいにはこの匂いに慣らされている。
「……ハァ」
せめて帰ってくる前に言い過ぎたと謝るべきか。
迷う相澤の耳に、ガチャガチャと鍵を開ける音が聞こえた。オートロックだからドアが閉まった瞬間にまた鍵がかかったことは正常なのだが、問題は「誰が開けようとしているか」だ。
オールマイトの帰寮予定は明日のはず。
相澤はベッドから飛び起き、簡易キッチンの隙間に隠れる。
ドアを開けて入って来たのはオールマイト本人だ。纏う気配は穏やかでもなければ剣呑でもない。
(オールマイトさんに気付かれずに部屋を出られるか?)
あんなに怒った手前、まさか不在時に部屋に忍んでベッドで匂いを嗅いでましたと言えるわけがない。
相澤が冷や汗を掻きながらなんとか脱出のための算段を練っていると、キッチンの前を通り過ぎ部屋の中まで歩いて鞄を置いたオールマイトは言った。
「相澤くん?いるんだろ?」
(は)
「かくれんぼは得意だぜ。見つけて欲しいかい?」
オールマイトの声に遊びはない。
「……」
相澤は観念して立ち上がる。
素直に降参した相澤にオールマイトはいい子だと微笑んだ。
「……何でわかったんですか」
「君の匂いがしたからさ」
勝手に部屋に入ったことを謝罪する相澤にオールマイトはそんなこと気にしなくて良いのに、と答える。雰囲気は和らいだのに近寄ることは許されない圧を感じ、先日のことをどう謝るべきか言葉を詰まらせる相澤の肩をオールマイトが掴んでくるりと背を向けさせる。
「さ。お帰りはあちらだ」
「オールマイトさん」
「なあに」
「……この前は言い過ぎました。すみません」
「魅力的な君を前にすると自重ができない私の問題さ。さあお休み」
「怒ってますよね」
「怒ってはいないよ。これでも、一週間ぶりの君の匂いに結構理性がぐらついているのさ。だからあまり煽らないでくれよ」
ドアの前。
開けて出ればいつもと同じ夜。
相澤は動けない。
偉そうなことを言ったくせに触れられた肩から全身に飛び火する熱と、その先を求める欲。
「約束を違える気はありません」
「うん。君はそれでいい」
「……」
「形骸化を恐れるなら、全部私のせいにすれば良い。君のその迷いすら愛おしいのだから」
ドアノブを回せない相澤が苦渋の決断で振り返り、苦悩を包み込む気のオールマイトがそっと身を屈める。
「禁じられた方が燃え上がるものだろう?」
したり顔で寄せられる唇に反論できる手持ちの札がなく、相澤は消極的な同意に黙って目を閉じた。