希求【オル相】希求 【オル相】
「何言ってんですか」
開口一番相澤くんは、私の相談を不審者を見る目つきで返した。
「う、いや、その」
「この職業柄、畳の上で死ねないだろうことは確定してますけどね。あなたに関してはそれはもういいでしょう」
「わ、わからないよもう私に力はないのだし、そこら辺で子供を庇った拍子に敵に刺されてあっけなく、なんてことだってあり得るだろ」
「可能性としてゼロじゃありませんけどね。俺としちゃオールマイトさんはしわくちゃの耳も聞こえないくらいヨボヨボのじいさんになるまで長生きして、柔らかい布団の上で弟子に見守られながら大往生してもらわないと困るんですよ」
相澤くんがお出しして来た未来は私の想定を遥かに超えた先にあった。穏やかな日差しの差し込む部屋の、大きなベッドの上で年老いた自分が眠っている。
きっとずっと最期はひとりだと思っていた。だから、最後の最後に少しだけ欲を出してみたのに。
「……まあ、許されるなら俺もその場にいたいと思いますが」
「ほんとう?」
「まさかさっきのはプロポーズとか言いませんよね 看取って欲しいなんて、介護の依頼かと思いました」
「ど、どっちもかな、なんて……」
「本気なんですか?」
「本気だよ」
困惑の表情は直ぐに思案に落ちて解を探し始めている。 少し突き出した唇の下に人差し指の腹を押し当て伏せ目がちの宙を見る眼差しがどんな答えを湛えて私を見上げるか。それがどんな色であったとしても彼の目が綺麗なことには変わりない。
希くば、曇らない黒でありますように。