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    もちごめ

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    もちごめ

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    302死ネタの神ナギです。ハッピーではない。苦しい。タスケテ・・・

    #神ナギ
    amaterasuOomikami

    やさしいひと(読み:ざんこくなひと)『しょうらいのゆめ。‪✕‬ねん✕‬くみ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬‪✕‬。ぼくは、おおきくなったらはんたーになって、こまってるおおぜいのひとをたすけたいです』‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬

    かつて少年が作文用紙に綴った夢が、教室で読まれることはなかった。発表会の前日、彼は路地裏に招かれたのである。その夢は大人になった男の奥底に残されたまま燻っていった。

    そして、今日。男はひとつの真実を知ってしまった。かつて自分がされたように、己の愚行がある者の夢を切り裂いてしまった真実を。どうにもならない想いを抱えながら、男は夢遊病のように路地裏を歩いていく。闇に溶け込む直前に、あたたかい掌から受け取った封筒は地面へと落としていった。
     戻って来たのはいつもと変わらぬ廃ビルのはずなのに、纏わりつく空気が非常に重たい。先ほどまで空は晴れていたが、まるで男の気配を感じ取ったかのように、ザアアッと激しい雨がふりはじめた。
    ──辻斬りに斬られたあの夜以来! 描きたいものなど、何一つ無くなりましたので!!!
     一切迷いのないまっすぐな瞳は、まるでそれが当然であるかのように煌々と輝いていた。かつては漫画家になりたかった。警察に入ったのは夢のための腰掛だった。その続きを奪ったのは、まごうことなきこの自分なのである。そう知らしめられた途端、唐突に吐き気が自分を襲った。一体、何故。だって、今までの自分はそれでよかったはずなのだ。食いカスのその後など、気に留める必要もなかった。死のうが死ぬまいが、どうでもよかった。そのはずなのに。
     そこまで考えて、ある人物の姿が頭を過った。先ほどまで会っていた、やけに掌があたたかい神在月の姿だ。思えば初めて会った時から、あの男はおせっかいだった。雨に濡れて軒先にいた自分をアシだと勘違いして引き込んだかと思えば、タオルで頭をぬぐい、幼い頃の夢を思い出し嗤った自分に『まだ遅くない』と言ってくれた。その後、家に通うようになればいつだって歓迎し、傍に招きいれてくれた。今回だって、そうだ。退治人の修行を始めたという妄言を聞いた神在月は『応援してるよ』と笑ってくれた。ああ、そうだ。アイツはいつだって優しかった。へんにゃりと笑う顔も、かけてくれる言葉も。月のような瞳で見つめてくる姿も。全部全部、優しかった。それが故に罪の意識を思い出した。だからこそ辻斬りは、落ちぶれたのだ。捨てたはずのひとの心を取り戻してしまったから。こんな化け物がひとに戻れることなど、決してありはしないのに! 残酷なほどの優しさが、その心を呼び戻してしまった。
     もうあのふたりには会えない。会ってはいけない。そもそも辻田とは産まれてはいけない存在だったのだ。だが、それでいてもう辻斬りに戻ることもできないと男は悟っていた。だとしたら、今、この場所に存在している誰かは何者になるのだろう。辻田にもなれない、辻斬りでもない。そんな誰かのなれの果て。いや、違う。きっとそうではない。自分自身が、そのどちらでもありたくないのだ。ふつうのひと。そうだ。きっとこんな化け物になった瞬間から、自分が本当になりたいものはただひとつ。ふつうのひととして生きること。それだけだったのだ。
    (どうすれば、なれるのだろう)
     絶望に染められた頭で、それでも男は考えた。それから手のひらから血の刃を出現させる。存在を変える方法。まずは、そうだ。見た目から。ぼおっとする頭で彼は刃を自分の髪へと寄せていく。そして、ざっくばらんにその髪の毛を切り落としていった。この部屋には鏡はないし、そもそも自分は鏡に映らない。彼の手先は器用だが、今の姿はまるで何者かの襲撃を受けた後のようだった。
     だが、髪を切ったぐらいでは別の何かになれやしない。顔の皮でも剥げば。目玉でもくりぬけば、変わってくれるだろうか。馬鹿げているという自覚がありながら、そんなことを考えた。しかし、次第に本当に大切なのはそんなことではないと男は思い出す。この肉体を流れる忌々しい血。もしもこれを全部抜いて、他の何かと挿げ替えることができたら・・・そんなことができたら、自分は誰かから何かを奪われず。それでいて、奪うこともせずに生きられる普通のひとになれるかもしれない。
    (でも、どうやって)
     そんな方法がないことぐらい分かっていた。それでも、男は試みる。血の刃を最大まで引きだせれば、せめて己の血を抜くことだけならできるのかもしれない。そう考えた。男は己の能力をよく知らない。誰もそんなことは教えてくれやしなかった。死ぬかもれない。そうも思ったが、それすらももうどうでもよかった。今までにしてこなかったぐらいに、血の刃をひたすら体から伸ばしていく。最初は刃だったそれは、伸び続けることで重力に耐えられなくなったのか、どろどろと液体が垂れるように形を崩していった。だが、それでも男はそれをやめなかった。その時である。
    「・・・辻田、さん・・・?」
     誰かの声が、入り口から届いた。もうとっくに耳に馴染んでしまっている、優しい声。何よりもあたたかく、それが故に何よりも残酷な声が、耳に届いた。その手には、濡れそぼった封筒が握られている。男は焦点の合わぬ瞳で、黙ったまま愚かしいほどに優しいひとを見つめているのだった。

    ***

     マットレスに腰を掛けたまま項垂れた男の姿に、神在月は言葉を失った。それと同時に、自分の本棚に収納されたファイルのタイトルが頭に過る。つい先ほど話題になったばかりの者が目の前にいることを、すぐに理解してしまった。
     ずっと正体を隠していたはずの男は、驚きもせず、逃げようともしなかった。言葉を失ったままそれでも自分の目の前まで歩み寄ってきた神在月を一瞥し、口を開く。
    「どうして俺なんかに情けをかけた」
     それはひどく静かな声だった。神在月は何とも言えない表情のまま、視線を合わせるようにその場にしゃがみこむ。
    「お前があんな風に俺を迎え入れなければ、化け物のままでいられたのに。今じゃ俺は半端物だ」
     お前は、何よりも残酷だ。男は神在月の胸倉を掴む。だが、普段とは異なりその手には全くといっていいほど力がはいっていなかった。
    「俺は何者にもなれやしない。化け物にも、辻田にも・・・もう返れない」
     冷静だった声に、ゆっくりと水が含まれていく。もうどこにもいけないと、子どものような声が静かに響いていた。掴まれていた胸元から、指が滑り落ちていく。
    「俺は・・・おれ、は・・・奪われたくなかった。誰からも、奪いたくもなかった。そんなことをしていると、気づきたくもなかったのに」
     目の前で、迷子がさめざめと泣いている。これまでによかれと思ってやったこと。全てが本心からで、彼を大切にしたいと思った行動の数々。己の罪の重さを、神在月は静かに悟る。いつもの名前を呼ぼうとして、彼は思いとどまった。きっと今の彼にとって、それは自分の名前ではないのだから。だけどそれでも伝えたいことがある。名前は呼ばないまま、神在月はゆっくりと口を開いた。
    「僕は・・・無神経なことを、いっぱい言ってしまった。本当に、残酷なことをたくさん・・・したよね。君を傷つけて・・・きっといくら謝っても足りないと思う」
     その言葉すらも優しくて、男はギリと歯を強く噛む。きっとそうするだろうと神在月には分かっていた様子で、それでも目を合わせようとしない男をしっかりと見つめていた。
    「それでも僕は、君と一緒にいたい。エゴだって分かっているけれど・・・君のこと、手放したくないんだ・・・それだけじゃ、だめ・・・かな」
     男は、神在月が何を言っているのか分からなかった。なぜ。何故、この状況でそんなことが言えるのだろう。目の前にいるのは、おぞましい血の塊だというのに。それに今、男は彼のことを責めたのだ。お前が優しくしたせいで、こんなことになっていると。神在月は何も悪くないことぐらい、ちゃんと分かっているはずなのに。
    「ふざけるな。俺は、罪人だ。赦される訳がない。カンタロウも、他の奴らも・・・赦すわけがない。それに、俺自身だって・・・赦せない」
     だから男は、その優しさをまた拒む。
     ──誰にも赦されないというのなら、僕が・・・赦すよ。
     そんな男の姿を目の当たりにして、神在月の喉までその想いが出かかった。だが、その寸前で彼は思いとどまる。こう言ってしまいたい。罪悪感に苦しむ彼を、赦してあげたい。だけど、それは決してしてはいけないことだとも分かっていた。だって、自分だけは彼の起こした事件の当事者ではないのだ。そんな自分が赦すと言っても、余計に苦しめてしまうだけだろう。
    (・・・当事者、か)
     ふと、その単語がもう一度頭を過った。それから、神在月は・・・優しい顔つきをした。まるで愛おしいものを見るような顔つきに、思わず男もたじろいだ。神在月が、何を考えているのか分からなかった。そして、狼狽している相手の様子を知ってか知らずか、神在月は男を抱きしめてきたのだ。
     表面がどろどろに溶けているとはいえ、その内側にはいくつもの刃が存在している。抱きしめた拍子に、それらがいくつも神在月の柔らかい肌を突き破った。同時に男の内側に、薬品のような匂いの波がなだれ込む。男は目を見開き、あまりの衝撃に思考を停止させた。目の前で今、何が起きているか分からなかった。
    「大丈夫。俺は、何も奪われないし、絶対に君のことを忘れたりしない。忘れたり、してやるものか」
     そして神在月は、そんなことを口にするのだ。彼の内側で、かつて辻斬りについて楽しそうに話した自分の声が聞こえた。今はただ、あの頃の自分を殴ってやりたい。少し朦朧としはじめる頭で、そんなことを考えた。
    「・・・君が落ち着いたらさ、一緒に福井でも行こうよ。もう一生いらないってなるぐらい、ふたりでたくさん蟹を食おう。これからどうするのか考えるのは、その後でも遅くないから・・・」
     それから、まるで日常の話でもするように、神在月はそう笑うのだ。その体はどこもかしこも血濡れているというのに。男は言葉を失っていた。今すぐ、病院に運ばないとまずい。そう分かっているのに、声もでなければ、体も動いてくれやしない。まるで鉛になったかのような心地だ。神在月の優しい掌が、自分の背中をぽん、ぽんと撫でる。
    「大丈夫。大丈夫だから・・・前にも言っただろ? 人生、遅すぎることは無いってさ。君は・・・これからだって、なんにだってなれるんだ」
     呼吸が乱れ、視界が虚ろになりはじめても、それでも彼は笑いかける。残酷なほどの優しさで、それでも彼は諦めようとはしなかった。こんな状況でも、手を放してくれないのだ。この男は。
    「君自身が信じなくても・・・僕は、そう信じてるよ」
     最後に神在月はそう言った。そして、ぷっつりと糸が切れたように意識を失った。その腕は、未だ男を抱きしめたままだ。たまらず男は、神在月の背中に腕をまわした。その手はひどく強張っていた。外では煩いぐらいザアザアと雨音が響いている。それはまるで、神在月と初めて出会ったあの夜のような雨を彷彿させるのだった。
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    もちごめ

    DONE過去に書いたタビヴェンの短編3種です。支部にあげているものと内容も同じです。
    ちょこっとタビヴェン【バースデーケーキにロウソクふたつ】
    ※2021年タビコちゃんお誕生日おめでとう
    ※靴下ハントはじめて2年目設定
    ※家庭事情捏造あり

     それはいつも通り靴下ハントを終えて帰宅した時のことだった。今日は随分と不猟な方で、帰宅途中のタビコはあまり良い気分ではなかった。だがそれは、玄関のドアを開けた瞬間、変わることとなる。
    「・・・帰ったか」
     そこにはいつものようにエプロン姿のヴェントルーの姿があった。頭にはこれまたいつもと同じようにきっちりと三角巾が結ばれている。ただ違うのは、机に置かれた代物ひとつである。普段と同じく食事が用意された机の真ん中を、小さなホールケーキが陣取っていたのだ。
    「手を洗ってこい」
     素っ気なくそう言うヴェントルーだったが、その表情にはどこかそわそわとした落ち着きのなさが読み取れる。タビコは靴を脱ぎ、その男の顔とケーキを交互に見た。ちょうどふたり分ぐらいのサイズのケーキは、買ってきたものではないだろう。その証拠に、シンクには泡だて器が入ったままのボウルが置かれている。それを認識した途端、にまーっとタビコの口元には緩いカーブがつくられた。そして、再度手を洗うように促されて、はいはい、と手を洗って戻ってくる。
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    もちごめ

    PROGRESS※10月10日の神なぎて3で出したいと考えている神ナギ原稿の進捗です
    ※ポンチ吸血鬼によってシンデレラの世界に飛ばされる神ナギ
    ※シンデレラを魔改造しまくりです
    ※『いつもの神ナギ』と『王子のシンジ×灰かぶりの辻子(女体化/四月馬鹿関係無し)』の2組が存在する設定
    ※281死に初登場のキャラが出ます
    灰かぶりと山羊目の王子/神ナギ ここは魔界都市新横浜。ここでは今日もいつものようにポンチな吸血鬼が現れ、ポンチな術を撒き散らかしているのだった。
    「我が名は吸血鬼 童話の世界大好き!諸君らにはおとぎの世界に旅立ってもらう!お前も、お前も・・・おおっと!今、目があったそこのふたりにもだ!」
    そう高らかに笑う吸血鬼が目をつけたのは、偶然にもヴァミマから出てきたばかりの神在月。それと、そのアシスタント兼恋人であるナギリだった。彼らは事態を把握するよりも先に、素早い相手の術中にハマってしまう。そして、訳も分からない内に、ふたりの意識は得体の知れないものにぐんぐんと引っ張られ、どこかへと飛ばされてしまったのだった。

    ***

    「いてて・・・」
     意識を取り戻した神在月は、瞬きを数回繰り返した。どうやら先ほどの吸血鬼との遭遇後、しばらく気絶していたらしい。すぐさまナギリに声を掛けようとした神在月だったが、それよりも先に目の前に広がる光景にあっけにとられた。どこまでも広がっていそうな雄大な森の姿がそこにあったのだ。だが、振り返って自分が背中を当てていた硬いものを見れば、彼の驚きは一層に増していく。そこにあったのは石を組み合わせて作られた建物。ゆっくりと視線をあげていけば、それが巨大な城だということに否が応でも気づかされる。西洋の写真や絵本。映画や漫画の中でしか見たことがないものが、今、目の前にあるのだ。友人のあだ名にもなっている某ネズミーなテーマのパークにある建物で代表格ともいわれるものが、確かにそこに存在していた。
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