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    mtn_sidem

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    人間輝×人魚薫の輝薫

    泡沫に溶ける月あの日は満月にもかかわらず、綺麗な星達が濃紺を美しく飾っていた。
    瞬く星を眺めながら夜の海岸を歩く。静かな波の音に耳を傾け、ゆったりと心を落ち着かせていた。
    サクサクと砂を踏みながら歩き続けていると、その波の音にほんの少しだけ、月光が差し込むような麗しい旋律が滲んでいるのに気がついた。どこか寂しげで、今にも消えてしまいそうな、そんな音色。
    導かれるようにその音の方へ向かうと、大きな岩の上で満月の光に神々しく照らされた影がゆらりと動く。俺のことには気づいていないようで、美しくも寂しげな旋律を紡ぎ続けていた。
    そっと岩の麓に腰を下ろし、歌声を聞いていたらいつの間にか眠ってしまっていたようで、目を覚ました時には歌声は止んでいた。
    もういなくなってしまったのだろうかと岩の上を見ると、影はまだ岩に座っており、その影からはキラキラと月光に照らされた雫が滴り落ちている。
    「……泣いてるのか?」
    思わず声をかけてれば 影はビクリと肩を揺らしてこちらを向いた。美しい黒髪から覗く青い双眸には涙が浮かんでいる。薄いカーディガンのような羽織の裾をギュッと掴み、怯えた顔を見せた。
    「君は……、いつからそこにいたんだ」
    「お前が歌ってた時から」
    「……っ、お願いだ、僕のことは誰にも喋らないでくれ」
    「どういうことだ?」
    「人間に捕まえられてしまうから」
    「は?」

    どういうことだ、お前も人間じゃないか。 そんな疑問を投げかける前に、動いた彼の足元が人間の足じゃないことに気がついた。魚のような、所謂人魚の姿。そのにわかには信じられない光景なのに、何故か自分の中にストンと落ちたような感覚があったのは、彼の目を見たからかもしれない。
    「じゃあさ、代わりにお前の歌もっと聞かせてくれよ。お前の歌、俺好きだな」
    そう言うと彼は驚いたのか、目を丸くして少し頬を染めた。
    「君は驚かないのか?これでも一応人魚なんだが」
    「うーん、なんかしっくりきたというかなんというか……」
    「変なやつだな」
    「だって……」
    「……僕がここに来れるのは満月の日だけだ」
    「また来ていいのか?」
    「口止め料だ」
    「口止め料……。あ、そうだ名前は?俺は天道輝、よろしくな!」
    「テンドウ……」
    彼は噛み締めるように俺の名前を復唱した。まるで誰かの名前を呼ぶことが初めて、または久しいかのような素振りで。
    「お前は?」
    「……サクラバ、カオル」
    「カオル、よし覚えたぜ!」
    「カオル呼びはやめろ」
    「なんでだよ」
    「なんでもだ」
    プイッとそっぽを向いてしまった彼の耳が赤く染っていた気がしたのは気のせいか、それとも現実か。

    あの日を境に月に1度満月の夜、サクラバに会いに海岸へ赴いた。 俺が行くとサクラバはいつも先に歌っているから、静かに腰を下ろして歌声に酔いしれる。最初と違うところはカオルの隣に座っているということだ。寂しげで優しい音色が胸にじんわりと染み渡る。人魚の言葉か、はたまた外国語なのかわからない言語だったが、その歌が美しいことに変わりはない。
    サクラバは歌っている間、ずっと満月の方を見て、静かに涙を流していた。俺はサクラバが涙を流す理由を知らない。涙を拭ってやりたいけど拭ってやれないもどかしさ、それに相反するように涙を流すサクラバの、浮世離れした美しさを好む自分もまた存在した。
    サクラバの歌を聞くとふわりと体が宙に浮くようで、気がついたらカオルに寄りかかって寝てしまう。けれどサクラバは嫌がらず、むしろ俺の髪を優しく梳きながら歌を歌っていた。
    俺が目を覚ますと、薄く微笑み、ぽつりぽつりと人魚の世界に伝わる御伽噺を聞かせてくれる。その中に人魚が人間になるお話があった。こちらの世界でいう人魚姫のお話。この話をする時だけ、サクラバの表情に影がチラついた気がした。

    サクラバと出会ってもう1年が経った。毎月欠かさず会いに行き、歌声と御伽噺を聞いた。俺も少しだけ人間界について話したりした。あとはたわいのない、穏やかな会話。
    ……何も問題はなかったと思う。

    満月の日、今日もサクラバに会いに行こうと海岸へ出向いたが、歌声が聞こえない。まさかと思って岩まで急いで駆け寄った。
    案の定そこに彼はおらず、ただ岩が座しているだけで。
    律儀に毎回同じ場所で歌っていたはずなのにいないなんて、何かあったのかもしれない。けれど人魚の世界がどこにあるかなんて分からないし、そもそも長時間潜り続けるための機材なんてこの辺ではレンタルできない。
    俺にはどうすることも出来ないことは明白だった。
    岩に登り、サクラバがいつも座ってる位置に腰を下ろす。今日は1人で。
    何回も聞いたあの歌は俺の心にしっかりと根付いていて、意味はわからなかったが歌うのは容易かった。独りぼっちで、海に向かって歌を歌った。サクラバが気づいてくれるかもしれないから。

    ……結局サクラバは現れなかった。

    その後、数ヶ月カオルは現れず、俺はただ岩の上で歌い続けた。まだ残っている記憶の断片を拾い集めながら。
    あまりにも突然消えてしまったから、もしかしたら夢だったのかもしれないと思い始めてしまう自分が嫌になる。

    サクラバがいなくなって半年が経った日の満月の夜、俺はいつも通り海岸へ行った。
    さざ波の音に紛れてサクラバの歌声が聞こえた気がして、ついに幻聴が聞こえだしたのかと頭を抱える。
    けれどその美しい旋律は、記憶の中よりも鮮明で、胸が締め付けられる音色だ。
    もしかして、と俺は急いでいつもの岩に向かった。そこには半年ぶりに姿を見せた影が揺れていた。
    「サクラバ!!」
    驚いて振り向いたサクラバは、こちらを見るなり申し訳なさそうに目を伏せた。
    「テンドウ、その、……すまなかった、こちらが約束を破ってしま、っ!?」
    サクラバが言い終わるよりも先に、気がつけば俺はサクラバを腕の中に閉じ込めていた。
    「て、テンド」
    「よかった、お前になんかあったのかと思って俺…俺…」
    「おい、泣くな、僕はここにいるし元気だ」
    サクラバが無事だった安心感から涙が止まらない。泣くつもりはなかったのに、サクラバの顔を見た瞬間、もうダメだった。
    サクラバは耳を赤くしながら、ソロソロと俺の背中に腕を回した。
    「毎月俺、ここに来てサクラバが歌ってたやつ歌って待ってた」
    「……知っている。君が僕の名前を呼びながら歌っていたのを、海の中で聴いていた。すぐにでもそちらに行こうと思ったんだ、けれど僕はもうこれ以上君といることはできない。だから、今日は別れを……言いに……」
    そう言って俯くカオルの顔はひどくやつれていて、寂しさと孤独の海に沈められたかのような瞳をしていた。
    「なんでそんな辛そうな顔しながらそんなこと言うんだよ……!俺、なんかしたか?お前と一緒にいるこの時間が楽しくてさ、大好きで、だから」
    「すまない、本当にすまない……」
    サクラバの美しいサファイアの瞳に水の膜が張る。
    「なあ、せめて理由教えて……?」
    「………」
    「お願い」
    口をパクパクと開閉しながら、理由を話すかどうか迷ってる素振りを見せたサクラバが、ギュッと口を結び、それを開いた。
    「……僕には姉がいたんだ。姉は、ある人間に恋をして、薬を使って人間になろうとした。けれど薬を使う前に病気で亡くなってしまったんだ。姉は死ぬ前に『カオルにも運命の人がきっと現れるから、私の分まで幸せになってね』と遺して、そのまま息を引き取った。」
    声を震わせながら、過去の辛い経験をぽつりぽつりと話すサクラバの表情には影が差していて、ああ、サクラバの悲しみはお姉さんのことだったのかと気づいた。
    けれど、パッと顔を上げたサクラバの顔は、先程よりも赤みが増している。
    「僕は運命の人に出会うことなどないと思っていた。
    だが君と出会って、初めて姉以外と心から楽しいと思える時間を過ごすことが出来たんだ。
    だから、君と会ううちに、君が運命の人だったらいいのにと思うようになってしまった。けれど君は、僕にそういう感情を抱いていないだろう?それに、人間になる薬は脚を得る代わりに声を失ってしまう。君が好きだ褒めてくれた声を失いたくない、だから人間にもなれない。僕は欲張りだ、どれもこれもと手を伸ばしたくなる。
    ……だが君に迷惑をかけたくない、ここに記憶を消す薬がある。だから君はこれを…」
    「飲まない」
    飲むわけがないだろう、こんな熱烈な告白を聞かされて。
    「なぜだ!こんな我儘な人魚に好かれて嫌じゃないのか」
    「嫌なわけないだろ!俺だって、俺だってサクラバのことが好きだ!そうじゃなかったら半年もここに通い続けねぇよ……。
    人にならなくていい、今のままの"サクラバ"が好きなんだ。運命の人、俺じゃダメか……?」
    サクラバをこれでもかというほど強く抱き締め言ったこの言葉は、震えてしまって格好なんてついたものじゃない。でも、全部本心だ。歌声を聴いたあの日から、きっと俺はサクラバが好きだったんだ。
    「本当に僕で、いいのか」
    俺に答えるサクラバの声も、か細く震えていた。
    「お前じゃなきゃ嫌なんだ。もう、居なくならないでくれ……」
    サクラバの額に自分の額を合わせ、至近距離で見つめ合う。サクラバの長いまつ毛はふるふると揺れ、少し水滴が付いていた。揺れるサファイアの瞳には俺だけが映っている。
    「好きだよ、サクラバ」
    そっと、薄く柔らかなその唇にキスを落とした。

    初めてのキスはちょっぴり潮の味がした。
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    そんな書き出しから始まるツイートをいくつか見かけた。赤と金色で縁取られたネイルでタップしてハートを飛ばす。それな、とマスクの下で歯を噛み締めていると、目の前のパソコンが通知を鳴らした。仕事の催促のメールだ。テレワークで済むご時世、わざわざ出勤させて何かと思えば納期の変更。メールですみませんでしたか?と苛立ち混じりの言葉はえぇでもぉ、だってぇ、と甘ったるい声でかき消される。
    緩く巻いたパーマはそろそろ取れてきている。現場がないとどうにもやる気が出ない。定期的に通っているネイルだけは保持しているけれど、もう数ヶ月新しい化粧品を買っていなかった。ファンミくらいやってくれてもいいんじゃないか、と思った矢先に、昨日のあの配信だ。

    『こんばんはー!DRAMATIC STARSでーす!』
    顎髭を蓄えた男が似つかわしくない笑顔でニコニコと笑いかける。画面向かって右隣にはほんわかとした雰囲気の柏木翼くん、中央から左側には眼鏡をかけてむっすりとした顔の桜庭薫。マジで自担のソロ配信してほしい、と思うのは多分こいつのせいだ。
    ドラスタの不定期配信ーーは、いいんだけど、自担である 1098