【瓶底の澱】 玄関先、インターホンが鳴っている。何のことはない呼び鈴がいやに鼓膜を揺らした。宅配便は頼んでいない。もちろん、ピザも。となると来訪者の心当たりはただ一人しかいなかった。
急かすかのよう続け様にベルが鳴る。仕方なく重い体をベッドから起こす。重力に抗えば頭蓋の内が痛んだ。体を引きずり何とか立ち上がって控えめにドアを開ければそこには予想通りの人物が立っていた。
俺はそっとドアを閉じる。しかし無礼な訪問者は扉が閉まり切るより先に僅かな隙間に靴の先を差し込み、阻んだ。
「おい! 閉めるな」
「なんで来た……」
「お前がそんな状態だからだ」
それなのにどういうつもりだと言いたげな赤い瞳が鋭くこちらを睨んだ。それは少なくとも病人に向けられるべき視線ではなかった。
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