50.宮城・上
ドゥドゥーはどうやって宮城の内部を調べたのだろうか。入り込んだのか中で働いている者から聞き出したのか。宮城に何度も行ったことがあるというフェルディナントによると説得力があるという。
「だが誰かに騙されている可能性は?ヒューベルトならやりかねない」
「私のようについていけない者も少なからずいるのだろう。クロード、この情報はすぐに皆に教えるべきだ」
玉座の間への入り口は三箇所で全て施錠されている。ベレトは皆に地図を見せてとんでもないことを言った。
「リシテア、ワープで俺とクロードとヒルダをエーデルガルトの前に送ってくれ」
「はぁ?!何考えてるんですか?」
「えっそんな無茶な!勝算あるのかよ?!」
「エーデルガルトちゃん怖いから近寄りたくないのにぃ!」
敵軍の兵士たちもベレトの副官として彼にぴったりくっついて斧を振るうヒルダには近寄りたくないだろう。
「既に一戦交えた後だ。長丁場に皆耐えられないだろう?何度も言うが全滅させる必要はないんだ。まあ可能な限り早く鍵を探して玉座の間に皆も来てくれ」
理屈は合っているが博打のようだ。せっかく大将戦まで持ち込んだのに何かあれば取り返しがつかない。クロードはローレンツの顔をちらりと覗き見た。彼もヒルダと同じく反論せねばならない、という顔をしているがベレトは気にしていない。
「話を続けるぞ。今回はアネットに出てもらう。フレン、ドゥドゥーを見かけたら遠慮なくレスキューでこっちに引き寄せるんだ。アネットはフレンの護衛。フォートレスやグラップラーは合流したドゥドゥーに何とかしてもらってくれ」
それまであまり出撃することのなかったアネットにベレトが声をかけた。
「先生…!ありがとうございます!ねえ皆、あとでドゥドゥーとアッシュにお料理作ってもらって一緒に食べようね」
ドゥドゥを探す部隊の一員にという声がかからなかったシルヴァン、フェリクス、アッシュは少し不満そうだったがベレトに異議を唱えなかった。フォートレスやグラップラーそれにウォーロックだらけのところへ行くので魔防が高くレスキューが使えるフレン、それにフォートレスやグラップラーをアローの一撃で倒しウォーロックとの魔法の撃ち合いに勝てるアネットという人選は正しい。
そんな訳でクロードたちはいきなり大将戦に挑むことになった。
「クロード、ビショップは任せた」
「いきなり特攻するのか?!」
突然現れた敵兵に帝国軍の兵士たちも唖然としていた。少なくとも鍵を奪われるまでは時間が稼げると思っていたのだろう。一気に走り込んでいくので副官を務めるヒルダもついていくのに必死だ。仕方がないのでクロードも言われるがままに弓を構える。フェイルノートはもったいないので普通の鍛冶屋で直せる弓だ。
玉座の間には魔獣もいて一斉にこちらに向かってやってくる。クロードは後続のローレンツたちが待ち遠しくて堪らなかった。追い詰められた時に真っ先に思い出すほど信用している。きっと彼も死に物狂いで正面扉を突破してくるだろう。
一人目のビショップは完全に攻撃されていることに気づいていなかったのでクロードも仕留めるのは簡単だった。二人目のビショップは我が身よりエーデルガルトを回復することを優先したのでやはり簡単に仕留めることができた。癪な話だがベレトが正しいのかもしれないと思えてしまう。
ベレトは左右から襲いかかる近衛の者を無視してエーデルガルトと対峙している。近づきつつある魔獣がクロードとヒルダは恐ろしくて仕方がない。
「師……貴方は今、きっと、私に勝てると思っているでしょうね。けれど、私は絶対に諦めない。手足をちぎられようとも、前に進む。偽りの女神を、それに従う者を打ち倒し、世界を取り戻すために戦う!」
天帝の剣と切り結ぶような最終局面に至ってもまだエーデルガルトは独り言しか言わない。ペトラの方がよほど何を言いたいのか理解出来るとクロードは思った。やがてベレトはエーデルガルトから言葉を引き出すのを諦めたのか風薙ぎを使い始めた。その背に炎の紋章が浮かんでいる。クロードも弓をフェイルノートに取り替えてエーデルガルトに向けて矢を放った。
「もう、やめようぜ、エーデルガルト!俺たちは、お前を殺したいわけじゃない!」
「私は、貴方たちを殺したいわ。殺さなければ、正しい世は訪れない!だから、全力でかかってきなさい。……これが、最期なのだから!」
クロードとは違う過去の記憶を持つローレンツはミルディン大橋で死ぬ寸前に彼女がこの戦争を利用して紋章を持つ者たちをこの世から消すつもりであると察した、とクロードに話してくれた。当初、クロードはローレンツの推論が些か誇大妄想的であるという印象を持った。しかし今回の大乱でも戦場に仕掛けた罠についてエーデルガルトはベルナデッタ、リンハルト、カスパルに伝えていない。
先ほどの彼女の言葉で紋章を持つ者たちそして彼らに権威を与える教会に対する悪意が本物であることがわかった。しかし何故そこまで彼女が悪意を募らせたのかという謎は残っている。
最後の最後まで対話は成立せず天帝の剣はエーデルガルトの身体を貫いた。