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    ラジオデアドラの第一話から第三話まではここです。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13857111
    第四話
    https://poipiku.com/1455236/6698868.html

    ラジオデアドラ第五話 マリアンヌはガルグ=マクの士官学校を出て軍で数年過ごし人間関係に躓いて除隊している。軍にいた頃にも軍用放送は聞いていたが音楽ばかりだったので大して印象に残っていない。だが軍を辞め何となく働いていたダイナーが一日中ラジオを流していた。そんな些細なことがマリアンヌの人生を変えている。自分のしくじりや店にやってきたおかしな客について様々な番組宛の手紙や葉書に書いて出してみるとそこそこ読まれた。士官学校時代も軍にいた時も話下手で共感してもらえることなど滅多になかったのに全く違う。初めて社会とつながることが出来たような、そんな気がした。

     怠け者のアシスタントディレクターのヒルダ、としていろんな番組でしょっちゅう名前が出てきていたので女性のスタッフがいることはラジオデアドラのリスナーなら皆知っている。だが目の前にいるピンク色の髪をした小柄な愛らしい女性がそのヒルダであると言われても俄に信じがたい。それに怠け者だというのにマリアンヌが今までラジオ局に出した葉書や手紙を読み込んで推理して働いているダイナーを探し当てていた。呆気に取られて渡された名刺とヒルダの顔を何度も見比べてしまう。

     そして僅か数年とはいえ軍にいたマリアンヌはあることに気がついた。

    「もしかしてゴネリル少佐のご親族ですか?」
    「あー、そっか元軍人だって葉書に書いてたもんね。ホルストは私の兄なの」

     見るからに明るそうな彼女も兄と同じ道へ進まなかった程度には優秀な兄に対して何か思うところがあるらしい。マリアンヌが兄の名を出した時に髪とお揃いのピンク色の瞳にほんの少し失望が浮かんだ。言うべきではなかったのかもしれない。こう言うしくじりを積み上げていった結果軍を辞めることになったのに人間の本質というものはつくづく変わらないらしい。

    「とは言っても私が一方的に存じ上げているだけですが……それよりラジオデアドラの方が私に何の御用でしょうか?」
    「引き抜きにきたのよ」

     具体的な労働条件はお世辞にも良いとは言えなかったが最後にいつか女性だけで番組を作るのが夢だ、と言われマリアンヌはその場でダイナーに辞表を書いた。ダイナーで客の頭にジュースをこぼしたり皿を割り続けるよりずっと良い。物心ついた時から陰気なたちで発言で人を笑わせたことはない。だが書いたもので顔も知らない誰かを笑わせることが出来た。そんなことが自分にできると夢にも思わなかったのに。

     最初の数年はヒルダと共に様々な番組の下働きをしていたがマリアンヌがレオニーという最後のピースを見つけた結果、深夜三時から五時という時間帯ではあるがヒルダの夢を叶えることが出来た。まともな生活を送っている者には到底聞けない時間帯だがそれでも構わない。番組の聴取者を解析し調査することさえできればマリアンヌは彼らが喜ぶ台本を書くことができる。

     マリアンヌは放送作家として台本を書くため担当している番組の放送日には基本的に放送局に常駐しているが取材に出ることもある。今日はデアドラ港を訪れていた。現在、日雇い労働者である沖仲士たちは労働条件の改善を求めて組合を作り船会社と荷役会社相手に激しい交渉を行なっている。交渉しなければ荷役会社から足元を見られて賃金は下がり食い詰めてしまうから仕方ないのだがそのせいで社会的なイメージは悪化し彼らから番組に寄せられる葉書や手紙は社会から除け者にされたという思いで満ちていた。彼らの仕事は船の入港時間に左右される。いつ仕事が始まりいつ仕事が終わるのか誰にも分からない。定時で終わる仕事についている者と親しくなるのは無理だ。だがマリアンヌは彼らと社会を結びつけたい。

     労使交渉が行われている荷役会社のオフィスの前には仲間を応援しようと沖仲士たちが屯している。だが腕っ節の強い荒くれ者と見られたがる彼らが今回求めているのはロッカーとシャワーだ。マリアンヌは上着にラジオデアドラの腕章を付け屯す強面の男たちに声をかけた。

    「失礼ですが……お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

     身内しかいないはずの交渉の場に場違いな女性が現れたので荒くれ者たちの目に動揺が浮かんだが左腕の腕章を見て納得がいったらしい。長引く交渉が終わるまでのいい暇つぶしになったのか皆マリアンヌに協力的で手帳一冊分のメモが取れた。

     レオニーの番組は深夜から始まるのでマリアンヌは夕方までに放送局に入ればよい。深夜12時までに台本を仕上げてヒルダに内容を確認してもらいレオニーに渡す。

    「粉シャンプー派か液体シャンプー派かって……こんなしょうもないこと聞くためにわざわざあんなに揉めてる現場まで行ったのか??葉書でよくないか?」

     レオニーはマリアンヌが渡した台本に一通り目を通すとそう叫んだ。ラジオには爪弾きにされている人々と社会を結びつける力があるとマリアンヌは信じている。だから労働争議の場へ敢えて関係ない話を山ほど聞きに行ったのだ。
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