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    111strokes111

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    ラジオデアドラの第一話から第三話まではここです。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13857111
    第四話
    https://poipiku.com/1455236/6698868.html

    第五話
    https://poipiku.com/1455236/6864178.html

    第六話
    https://poipiku.com/1455236/7416118.html

    ラジオデアドラ第七話 ヒルダは放送局全体を巻き込むべくチャリティ企画を立てた。番組内でレオニーがマリアンヌを元軍人の、と言って散々弄っていたし半年以上レオニーの番組を聴いているリスナーならマリアンヌのアパートで火事があったことは皆知っている。その上で職務質問されがちなリスナーと警察官の距離を縮めるような企画を、と提案したらえらく受けが良かったのだ。
     昔から木を隠すなら森の中という。我々の暮らしを支える公安三職つまり軍人、警察官、消防官に感謝を込めて彼らの詰所の休憩室にラジオを贈呈しようというのがヒルダの立てた企画だった。一度繋がりが出来ればその後どうなったのか等いくらでも好意的な第三者を装って接触することができる。
     レオニーがマイクのスイッチを入れた。目の前には構成作家のマリアンヌが用意したベルと箱が二つ置いてある。どちらの箱にもリスナーからの葉書が入っており三通ずつ読んだらどちらの箱がよく出来たウソでどちらの箱が道端で寝ていた時に本当にあった話なのか当てねばならない。正解すればマリアンヌがベルを鳴らしフレスベルク電機提供のラジオが贈呈される。

    「茶色の箱三通目!"一週間前、競馬場前の広場で目が覚めた時、一面に広がる割れた酒瓶の欠片に日の出の光が当たってキラキラと美しく輝いていたので感動して泣いてしまいました"一週間前のレースってあれかとんでもない番狂せがあったやつ?」

     レオニーの目の前に座っているマリアンヌが無言で頷いた。馬券は買わないがマリアンヌは馬が好きなので競馬にそこそこ興味を持っている。レオニーがいう通りレースが荒れたので乱闘があった。酒瓶を割る者がいてもおかしくはない。

    「む、今ので分かったぞ!茶色の箱が本当にあった話の箱だな?乱闘があったのにすやすや寝てるのは大物の証拠じゃないぞ。耳鼻科に行って耳を診てもらえ」

     マリアンヌが真顔でベルを鳴らした。これでヒルダはデアドラ西消防署にラジオを届けることができる。火災の捜査は警察ではなく消防が行う。マリアンヌが前に住んでいたアパートはデアドラ西消防署の管轄だ。番組はつつがなく終わりいつもとは違いダイナーからコーヒーや食べ物を取り寄せた。
     出前はしてくれない店なのだが目の前であること、早朝でまだ店が混んでいないことが重なりヒルダのおねだりが通っている。マリアンヌたちを前にしてレオニーが顔を顰めながらコーヒーを啜っていた。壁の地図を凝視していたベレトがドーナツを一山食べ切ってしまったからではない。

    「報道機関は捜査権はないが取材が出来る」
    「報道されなかった小火騒ぎの話も聞きたいですね。火災防止週間のような理由があれば聞かせてもらえると思います」
    「こんな話、どうやって私たちの手のひらにおさまるような大きさにするんだ……」

     壁に貼ってあるデアドラ市の大きな地図は印だらけ物騒な書き込みがされた付箋紙だらけになっていた。

    「柄じゃないのは分かってるってば〜!」
    「だが対象がもっと広がったら厄介だ。学校で異端狩りのことは習っただろう?」

     ヒルダは先端技術に関わる人々を狙う連続放火犯がいると予想している。単独犯なのか複数犯なのかは分からない。

    「ええ、暴動を抑え死人の数を最小限にするためにも迅速に誰かを火炙りにせねばならなかったとか……」

     火炙り、という単語を口にしたマリアンヌは腕をさすった。感じた寒気は体感温度とは関係ないのだがすかさずヒルダがマリアンヌに後ろから抱きつく。

    「どうやって収束したのかは知っているか?」
    「そもそも何であんなことが始まったのか私知らないわ」

     マリアンヌの背中ごしの回答から察するにヒルダはとりあえずテストを凌げればいい派であったらしい。

    「あの時代は疾病のせいで社会が崩れかけた。不安に駆られた人々が集団で起こしたヒステリー発作と言われているが収束した理由と同じくはっきりしない」
    「啓蒙思想の信奉者が裁判官の多数派になって無罪を言い渡すことが増えたからだという本を読みました」

     面白そうな本なので題名を教えて欲しい、とせがんだベレトはヒルダとマリアンヌの間にするりと入り込んでいる。彼女たちが付き合っていると知った男性は負け惜しみを言うことが多いのだが彼は微塵もそういうところがない。レオニーの見たところ自分たちに近づくを男性を警戒しがちなヒルダが珍しくベレトそしてラファエルには心を許していた。二人とも邪心がない。

    「同調圧力に逆らえる者が増えたからだ。俺はこの番組が同調圧力に抗う者が集う砦になると思う」
    「荷が重い!こっちは言われるがままマイクの前で話すだけで精一杯なのに!」
    「レオニー、砦を守るのは人だ。そして君たちを守るのが俺の仕事だ。俺もひとつ仮説を立てた。立証するのを手伝って欲しい」

     ヒルダの推理もかなり尖った代物だがベレトの仮説は更に尖っていた。
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