離婚して再婚するやつ(仮)2　単身者用の官舎に戻る手続きは簡単だった。警官の離婚率は高い。同僚たちは皆、なんとも言い難い表情を浮かべてから二言三言の軽口を叩き、そのまま受け入れてくれた。どうか彼らの家庭は円満であって欲しい。
　結婚生活は破綻してしまったがクロードはローレンツと暮らしていた部屋が今でも大好きだ。民間企業に勤めている友人たちに話すといつもあんな家賃の高い物件にどうやって、と驚かれる。
　全てはクロードとルーツを同じくする市長が予算不足由来の官舎不足を解消するため強引に制定させた条例のおかげだ。ディベロッパーがマンションを建てる際はその地域で働く看護師、警察官、消防官、公立校の教師向けに低価格の部屋を総戸数の一割提供せねばならない。クロードたちは警察官と公立校教師のカップルであったのでもちろん対象となった。だが半地下で窓に格子が嵌っている、まるで百年前の使用人部屋のような粗末な物件を提供した業者も存在する。そのニュースを目にしたローレンツはひどく怒っていた。
「お互いの職場からも近いし川沿いをジョギング出来るのはいいな。そう思わないか？ローレンツ」
　クロードは敢えて指摘していないが部屋数こそ少ないものの内装もディベロッパーが本来の客に向けた物と変わらない。
「どうやらこの物件のオーナーは慈悲のなさを自慢するような人物ではないようだ」
　貴族然とした迫力のある彼がいうと名家の者が小金持ちの振る舞いを講評しているかのようだ。この国の階級制度は崩壊して久しいが。

　ローレンツはすぐに業者を手配し単身者用の官舎に送ってくれたがクロードはまだ荷解きを終えていない。ずっと対外的には紛争ではない、ということになっていた。それなら何故ある程度大きなビルにはセキュリティゲートがあるのか。二十年ほど前に合意が結ばれたことをきっかけに投資マネーは注入され続けている。だが紛争の残した傷跡は深く、麻薬や酒の問題を抱えている人々は多い。
　大好きなあの部屋にまともな時間に帰れなかったのは今も昔もクロードが不条理な働き方をしているからだ。クロードはまだ荷解きを終えていない。箱の中では時が止まっていて、ローレンツと二人で割れないように緩衝材で包んだワイングラスはまだ幸せな夢を見ている。