離婚して再婚するやつ(仮)4 クロードが潜入捜査をしていた頃の相棒リシテアが自販機の前で立ち話をしている。相手は先ほどナイフを見せびらかした少年を担当した女性警官で、彼女の質問にいちいち答えていた。リシテアはクロードに気づいているが、噂通り本当に綺麗だったと言ってはしゃぐ彼女は黙って死角に立っているクロードにいつ気がつくだろうか。
ローレンツには署内で注目される理由がいくつかあった。近頃はめっきり少なくなったが黒魔法が使える者は住民票がある自治体の警察署に届を出し、講習を受けて免許を取得することになっている。おまけに彼の場合、その免許を見れば紋章保持者であることも分かってしまう。
だが署内の人々がローレンツに騒めく一番の理由はかつて出先の車内でクロードと二人、情熱的に過ごしていた際に職務質問をされたからだ。外側から車の窓を叩いたのは新人だった頃のリシテアで、説諭だけで済ませてくれた彼女にクロードは頭が上がらない。ローレンツはいまだに幸福な誤解をしているがいつ誰が誰を説諭したのか、はきちんと記録に残っている。
「俺の代わりに説明してくれてありがとな」
クロードがそう言って自販機にスマートフォンをかざすとリシテアがすかさずホットココアのボタンを押した。手間賃代わりに缶を渡すと彼女はリレーのバトンのように恐縮している話し相手に渡した。
「趣味の悪いあんたといえども自分のしくじりを何度も自分で再放送するのは苦痛でしょうからね」
趣味が悪い、は車の件と盗み聞きのどちらにかかっているのだろうか。
「二人とも通学路のこと、気にかけてくれると助かるよ」
「そうやって誤魔化すからあんたはダメなんですよ」
ローレンツと同じ紫色の瞳が冷たい目線を寄越す度にクロードの心は痛む。───君はそうやって僕を誤魔化すのか───泣きながら、そう問い詰められても全く感情が揺さぶられなかった当時の自分が我ながら恐ろしい。リシテアと組んだ長期の潜入捜査が理由でクロードはローレンツから愛想を尽かされている。完全に病んでいたのに警察官組合が派遣したカウンセラーを丸めこんでしまったことが決め手となった。
差し出された手を取らずに弄んだ贖いとしてクロードはローレンツが守ろうとしている子供たちの安全を確保するしかない。