白司書ハロウィン「トリックオアトリートなのだよ」
北原白秋は帝国図書館分館の片隅煮る特務司書の少女に声をかけた。彼女はハロウィンドレスを着ていた。ハロウィンドレスはハロウィンカラーである橙や黒を基調としたドレスだ。
「白さん」
「今日は君が特務司書になった日だ。物思いにふけっていたのかい」
図星だったらしく、白秋に向かって彼女は首肯した。十月三十一日はハロウィンだが、
この帝国図書館が本格的に対侵蝕者の前線基地として動き出した日でもある。彼女が特務司書に任命されたのが十一月一日だが、徳田秋声や織田作之助が転生したのは十月三十一日だ。
「早いんだよ。六年ぐらい?」
「そうだね……君はよく頑張っているよ」
「賑やかになってゆるっと侵蝕者を倒して」
「たまに勢いが必要なときもあるが、そうだね」
六年は経過している。文豪も増えたし戦況は今のところ安定しているけれども、戦いは続いている。
「ハロウィン、面白い?」
「面白いよ。君は」
「日本に来るまではそこまで祝っていなかったけれど楽しいよ」
日本語が流暢だが彼女は異人だ。白秋は煙草を口に加える。火はつけないよと言っておく。管理者たちは聞いているだろうとはなった。
「よいことだ。ところで、返事を聞いていないよ」
「返事?」
「トリックオアトリート」
「……防御用にもってたんだけどなくなってるな」
ハロウィンの時期、お菓子は防具である。
なければ悪戯をされるのだ。特務司書の少女はお菓子を持っていたのだが、あげつづけていたら亡くなったらしい。口に加えていた煙草を白秋は離す。
彼女を抱きしめて、耳元に唇を寄せる。
「――後でたっぷり悪戯はするのだよ」
軽く唇に口付けてから白秋は軽く手を振り去る。
「……白さんってば」
照れている彼女の声を後ろに白秋はパーティの喧騒へと戻る。彼女もお菓子を補充したらまた来るだろうと想って。