今日この日。江澄は顔も知らない相手のところへ嫁ぎに行く。
真っ赤な花嫁衣装に身を包み、漆黒の髪を金で出来た赤い宝石のついた簪で飾り立て、江澄は生まれ育った蓮花塢を出ていく 。
嫁ぎ先は、姑蘇。
深雲不知処。
お相手は、最も誉れ高い龍の一族、姑蘇藍氏。
その若宗主、藍曦臣に、今日この日をもって、江澄は嫁に行く。
事の始まりは数カ月前、一通の文が届いたことだった。
***
その日、いつものように門弟達と鍛錬に励んでいた江澄は、急に宗主である父、江楓眠に呼び出された。
普段より温厚で、怒ることなど滅多にない父ではあるが、急な呼び出しに江澄は何事かと緊張していた。急ぎ足で廊下を進み、父の執務室の前に立つ。一度深呼吸してから扉を二度ほど叩いた。
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