時のかけら みるからに粗末な香炉から白い煙が細くのぼり、衣装掛けに無造作にかけられた襦袢に染み込んでいく。襦袢は雲深不知処近くを流れる渓流のように青く清々しい。
なぜか恩師が好んでよく着ている青い衣を若者は思い浮かべた。
立派な髭をたくわえた美しい青年は、素っ裸の身を起こして寝台から下りた。頭をすっきりさせる香が薫る襦袢をひっかけて鏡台の前に座る彼女に近づく。
濃い緑にもみえる豊かな黒髪をとかしている情人もまた、素肌に白い襦袢に細い帯をまきつけているだけだ。襦袢は床に裾をひきずっている。その白い襦袢は若者のもので帯は抹額だった。
抹額の意味は教えていたから、情人のいたずらにうぶな若者は思わず頬を赤らめて鼻を肩にうずめた。
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