たまごかなケーキかな 卵を採るために飼育している、要するに雌鳥ばかりの集団だったはずなのだが。
ピヨピヨ鳴く可愛らしい声。
「こんなことってある?」
安定は小さなヒヨコを眺めながら言った。薄い黄色をした小さなヒヨコは足元をちょこまかと動き回っている。
「ニワトリってオスとメスで結構見た目違うはずなんだけどね……」
うーん、と清光は唸った。
どこで迷い込んだのか、騒ぎになった後で端から端まで探したがそれらしき雄鶏は見当たらず、みんなで首を傾げた。ヒヨコが生まれてしまったものは仕方ないので、相談して飼育できる環境を整えたのだった。
その甲斐あってかヒヨコは元気にピヨピヨピヨと。
「……可愛い」
清光は屈んで視線を低くする。手のひらを上に向けて差し出すと、ヒヨコは清光めがけて走ってきてちょこんと手のひらに乗った。
優しく撫でるとヒヨコはすぐに寝てしまった。
「やばい、可愛い……」
「同意」
安定がそっと触れてもヒヨコは起きない。
二振りが言葉もなく可愛さに浸っていると、
「やあ坊主ども」
陽気な声が沈黙に割って入ってきた。遠征帰りの一文字則宗だ。
「おかえりなさーい」
「おかえりー」
「ただいま。短刀たちから聞いたぞ、面白いことになったそうじゃないか」
へぇどれどれと則宗はヒヨコを覗き込む。そうしてすやすやと眠る様子を眺めていたが、チョンとつつくとヒヨコは目を覚ましてピィと鳴いた。
「起きちゃった」
「すまんすまん。なあ、僕にも触らせてくれ」
「いいけど……」
お椀の形にした手の上にヒヨコを載せる。しばらくピヨピヨと鳴いた後、ヒヨコは再び眠ってしまった。
「とんでもなく可愛らしいなぁ」
則宗はふわふわした羽に頬擦りした。それを見た清光が「……ふっ」と小さく笑いを漏らす。
「色が被ってる」
「色?」
「あんたの髪。ヒヨコと同じ色してるじゃん」
安定も「ほんとだ」と笑った。薄黄色のヒヨコと美しい白金の髪は、そっくりな色をしている。
「なんなら服もニワトリカラー……」
そう言われた則宗は自らの服に目をやった。真っ白と鮮やかな赤は、確かにニワトリも同じ色の組み合わせではあるけれども。
「ニワトリは初めて言われたなあ! この間は苺のショートケーキだったじゃないか。せめて丹頂鶴だろう」
「鶴はもう間に合ってるし」
「これからはニワトリ色だね」
安定もぶふっと吹き出す。清光はぷるぷると肩を震わせて笑っている。
「いーじゃん、綺麗だよニワトリも。ほら尾っぽの長いやつとかいるじゃん? 品評会に出るようなさ」
清光はスイッと尾の形を示すように指をすべらせる。
「……坊主が言うなら仕方ない。これからは鶏一文字になろう」
「日光もドン引きするやつじゃん!」
あははといよいよ大口をあけて清光は笑った。それにつられて則宗もうははと声を上げて笑う。
通りすがりの南泉に「僕はニワトリになった」と言ったら躊躇った末に「三歩歩くと忘れるってことかにゃ……?」と言われ、眠るヒヨコのために手を安定させてやりたいのにしばらく笑い転げて立ち直れなかった。