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    あめお

    @am_mio57

    清光世界一かわいいよ

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    あめお

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    七夕の話

    #一文字則宗
    oneText
    #加州清光
    californiaClearLight

    あいたい 役目を終えた笹の葉の隙間から細く煙が立ち、間もなく炎が顔を覗かせた。パチパチと音を立てながら色とりどりの短冊に次々と火が移っていくのを、加州清光はじっと見つめていた。
    「なかなか簡単に燃えるものなんだなぁ」一文字則宗はそれを興味深げに眺めている。
    「採ってきてからだいぶ経つからね」
     採取した日の瑞々しさを失った笹はすっかり枯葉の様相を呈していた。短冊や華やかな色紙で華やかに飾られて、七夕の笹としては大往生ともいえるだろう。
     本丸の皆が思い思いに書いた願い事が煙になって、空に上っていく。
    「ちゃんと届くといいな」清光はぽつりと呟いた。
    「お空の上のお星様に。天気は雨だったけど、これなら大丈夫かな」
    「こちらから出向くわけだからなぁ。織姫も追い返すわけにはいくまい」
     則宗が言うと清光の憂い顔がほころんだ。
    「いやぁしかし、不思議なものだな。星というのはどうしてこう、願いを寄せたくなるんだろうか。流れ星を見ると願わずにはいられないだろう」
    「え、じじいもあんの、そういうこと」
    「あるさ」驚いた様子で振り向く清光に則宗は言った。「ちゃんと三回繰り返したぞ」
    「それってできるもんなの?」
    「僕にかかれば造作もない。——まあ一晩に幾千、幾万の星を数えた時だ。何しろ初めの星が消える前に次の星が流れるからな」
    「なーんだ、ズルじゃん」丸くなっていた柘榴石の瞳は疑い深げに眇められた。「盛りすぎだし」
    「まさか。本当だぞ? 放棄された世界でな。あの晩は凄かったぞ。雨のように星が降るし人間たちも混乱に陥って騒がしかった」
    「それは……大変だったね」
     放棄された世界。則宗が政府の刀であった頃の話だ。茶化す雰囲気ではないと思ったのか、清光の声のトーンが落ちる。
    「なかなか見られるものでもないからなぁ。願い事はしっかりさせてもらったさ」
     則宗は当時のことに思いを馳せる。
     審神者に調査を命じ監査官となるにあたっての、平たく言えば下見だった。変えられてしまった歴史の修復を諦められた世界で、時の流れはただただ淀み、濁り、人々は狂っていた。ひっきりなしに流れる星々を眺めながら、空までもがおかしくなってしまったのかと哀れんだ。
     しかし、その光景はあまりにも美しくて。
    「……その願いって叶ったの?」
     遠慮がちに問う清光に、則宗はニヤリと笑いかけた。
    「その後すぐにな」
    「なんでそんなドヤ顔?」
     怪訝そうな顔で「まあ何よりだけど」と、清光は炎に視線を遣る。短冊はほとんど燃えてしまって、もう文字を判読することはできない。
    「星のお陰か、そうなる運命にあったのかは分からないがなぁ。幸運であったことは確かだ」
    「ふーん?」
    「どんな願いか気になりはしないか?」
    「べつに、興味ないし」
    「なんだ。つれないな坊主は」
    「大体そういうのは他人に教えたら駄目なんじゃないの。お星様だけが知ってるくらいでちょうどいいんじゃない?」
     再び清光の瞳が則宗を映す。違う? とでも言いたげに小首を傾げる清光の姿に、則宗は「ふはっ」と息を漏らして笑った。
    「……ああ、そうかもしれないなぁ」
     
     昨日の雨模様とは一転、本日は快晴だ。日が沈めば今夜こそは星空が拝めるだろう。
     天の川を隔てて恋焦がれる彼らに、どうか天帝の情けあれ。
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