アキレウス×男夢主 カルデア解散のおはなし※ゲーム本編がこの場面に至っていないのもあり、独自設定で書いています。ふわっとお楽しみ下さいませ。
人理漂白の危機は去り、世界は元通りになった。
今は後片付けの期間。カルデアに集った数多の英霊は順々に座に戻り、カルデア自体も極々少数のスタッフを残して解散するらしい。
「マスターはどうするんだ?」
「うーん……悩んでますけど……時計塔に戻る、でしょうか。勿論、有事の際はここに駆け付ける気ですけど」
「ん、そりゃあ行動的だな」
わしわしと小さな頭を撫でつつ。
――そうか、これももう少しでできなくなる……っていうか俺も座に戻るのか……?
俺は他の英霊と少し違う。フジマルではなく、俺のマスターと一対一での契約関係にある。
とはいえ。魔力はマスターから供給されているが、カルデア式召喚を通した契約ではあるし、カルデアの魔力源からもバックアップを受けている。だから結局は同じなのかもしれないが。
つっても、座に戻るってのも実感が湧かないな……。
マスターのマイルームに戻ると、俺はベッドに座り、足の間に座らせたマスターの頭に顎を載せ考えた。
気付けばこの部屋も片付けが始まっている。元のカルデアからノウム・カルデアに持ち出せた荷物は多くはなかったが、それらが分類分けされ、段ボールや鞄に既に収められているものもある。
「アキレウスさん……?」
マスターの心の内では別れが進んでいるようだ。表に出してこなかったから、俺が意識するのが遅れてしまった。
一見小心者で、おっかなびっくりマスターをしているように見えて、ちゃんと魔術師で自立した人間なのだ、と思い知らされるというか。
「――――」
あー、ダメだ、チクショウ……思考が染みったれていく……。
「――マスター」
「――アキレウスさん」
まさか声を出すタイミングが同じだとは。
「ん、マスターからでいいぞ」
何せ俺はやや低い声、マスターは決意の籠った澄んだ声だったのだから。不機嫌だと思われていないか、気分を害していないか少し心配になる程には、しまった、と思っている。
「ありがとうございます。じゃあ、俺から」
俺の心配を他所に、マスターはすっくと立ち上がり、俺の正面に向き直った。
その気迫に、逆に俺は内心たじろぐ羽目になる。
「今まで本当にありがとうございました」
――――は?
何だ、これじゃあ、まるで。
「スタッフの一人に甘んじていた俺がマスターになれて、カルデアの――世界、なんて大き過ぎるものを守る一端を担えたのも、アキレウスさんが召喚に応じてくれたからです。アキレウスさんからは多くを教わり、人間としても魔術師としても成長できたと思っています」
おい、待てよ、マスター。なに勝手に一人で気持ちの整理をつけていやがるんだ。
「――――」
何か言いたい。言わなきゃならないのに、言葉が出てこない。それ程に俺はショックを受けて――
「――それで、ですけど。アキレウスさんさえ良かったら、俺との契約を続けてくれませんか?」
「――――――――!!!?」
「アキレウスさん?」
「お、おう……」
いつもの調子に戻ったマスターに顔を覗き込まれる始末である。
「はは……マスターの方がよっぽど肝が据わってるなぁ……」
降参だ。
「アキレウスさんのお陰です。貴方の言葉がいつも真っ直ぐで力強いから、俺も強気になることができました。――!?」
ふふ、と笑むマスターに、不意打ちのキスをお見舞いしてやった。
「ああ、マスターだけの英雄になってやるよ。男前になっていくアンタを見届けてみたいしな」
そして、俺達の研究が始まった。
やる事は言葉で言えば簡単、カルデア式召喚から切り離し、純粋に俺とマスターの間での契約とする事だ。
「実は……独自で研究を進めていたんですけど」
「それでこそだ。我がマスターよ」
に、と悪戯が見付かった子供のような笑みを浮かべるマスターに、俺も同じ笑みを返す。
俺も魔術を学んだ身として手伝う事になった。普段ケイローン先生から出される課題は嫌々やっている部分もあるが、今回のコレは大仕事で楽しいってもンだ。
とはいえ、食堂にたむろしていたらケイローン先生から課題を山積みにされる、なんて場面ももう無いのかと思うと寂しさはあるが。
***
「原理としては、これなら……!」
「何だかんだ編み出せるもンだなぁ」
数日で俺達は術式を作り出した。完成形には程遠いかもしれないが、まあ完成度がどうあれ、初めての試みで一か八かには変わりが無いだろう。
新所長達から許可も得た。「なにィ、契約形式の変更ぅ!? いや、そんな事だろうと思っていたがね」とあっさり許可は下りた。
ある種カルデアの所有物である俺ではあったが……いやまあ誰に所有されてるつもりでもないがな!
誰も彼も魔術師らしからぬ物分かりの良さというか、人の良さというか……そんなに俺とマスターは普段から見せ付けていたか? いたかもしれんが……。
サーヴァントは別れの済んだ者から続々退去していっている。そんな中、俺達は術式を執り行う。ダ・ヴィンチ達も手伝いこそすれ、殆んどは俺とマスターの腕にかかっている。
カルデア式召喚と俺を切り離していく。そもそもがカルデア式召喚を用いた契約で、それから断ち切る事が如何なる事態を起こすのかが不安だった訳だが。
一見大した変化も無く、マスターだけとの契約になった。
と、パスにノイズが走る。霊基情報がぐにゃりと歪んであやふやになるような。
カルデアの霊基バンクとの接続が切れたから、か。とか冷静に状況分析できたものの。
カルデアで、マスターと過ごした俺と云う記憶が、曖昧になっていく。まるでただの一記録のように、遠い存在に思えてくる。
「っっ、~~~~!」
全てが歪んだ世界の中で、上擦った詠唱が聴こえてきた。
そうだ。マスター。我がマスター。
こうなる事を予期して、術式を準備していたのだった。
用意していた詠唱を唱えるマスターに続き、俺も詠唱を開始し、自らの魔力をパスに集中させる。まあ俺ってば分割思考ってヤツを使える訓練を受けているしな。
「――――安定した、か?」
「アキレウスさん、俺のこと、分かりますか?」
「大丈夫だ、安心しろよ」
慌てるマスターが面白可愛くて、思わず頭を一撫で。大事なのに、と苦言を洩らして来そうな眉の皺をつついてやる。
へにゃ、と泣きそうな笑みを浮かべてくるマスターが愛おしくて、思わずその唇に己のそれを重ねた。
『こらー! まだイチャつかないの!』
通信機越しにダ・ヴィンチの怒声が響く。バッと離れていったマスターの顔は真っ赤に熟れていて、見飽きない。
ああ、うん。忘れる事はないのだろう。
カルデアでの騒がしくも楽しかった日々を。己の生きた時より遥か後の人の世を救った戦い、生前なら肩を並べる事のあるはずもなかった面々。
おいそれと記録に昇華できるような記憶ではない。
目の前のマスターが全てを共有しているのだし。
っと、ここまでは人理を守る為の戦い。
俺は、これからは俺のマスターの為に在る存在だ。
「改めて、宜しくな、我がマスター」
「はい、宜しくお願いします。俺のアキレウスさん」
どこか堂々と言い放つマスター。慌てたり、大英雄のマスターらしかったり振り幅があるのが、それでこそ我がマスターらしい。
俺達は何度目か分からない、不敵な笑みをし合うのだった。