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    Hokori_pfpf

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    Hokori_pfpf

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    メリークリスマス🎄
    関yのお話です。
    ちょっと荒削りですが祝いたかった気持ちで書き上げました〜!

    あなたに贈り物を、最高の一日を! ぎしりと床が微かに軋んで、俺は慌てて足を止めて息を潜めた。
     いち、にぃ、さんと頭の中で数を数えて、少し離れた場所にあるベッドの様子を伺う。
     すぅすぅと穏やかな寝息と、緩やかに上下する布団の山に、俺はほっと胸を撫で下ろした。
    「なぁ関口、サンタっていつまで信じてた?」
     せっかくのクリスマス・イヴだから、近くでフライドチキンでも予約しようかとヤノさんが俺に問いかけたのは今からちょうど一週間前のこと。
     どれにしようかとチラシを眺めていた時に突然飛び出したヤノさんの言葉に、俺はううん、と昔を思い出した。
    「小学四年、くらいまでですかね……?」
    「まじで?結構ピュアだったんだな、関口。いつ気づいたんだ?」
     確か、そのくらいだったと思う。気がついたきっかけはひどく簡単なもので、サンタを捕まえようとした俺と、夜に忍び込もうとした母親が鉢合わせをした、ただそれだけのことだった。
     サンタの正体が母親だった、ということ自体は嫌ではなかった。いや、幼心にはショックだったがプレゼントが貰えることは純粋に嬉しかったから、『誰から』貰う物だということはそこまで重視していなかったのだ。現金な子供だった。
     ヤノさんは俺の昔話にふぅん、と短く言葉を返すと、しばらく考えて口を開いた。
    「やっぱさぁ、プレゼントって靴下の中に入ってんの?靴下の中に入るサイズじゃねーと駄目だったの?」
    「いや、普通に靴下には入らないサイズだったんで、うちでは靴下に括り付けるように置かれてましたね」
     ふーん、とまたヤノさんは答えて……はた、と俺はとある考えに至った。
     ──ヤノさん、もしかしてサンタにプレゼントを貰ったことがないのでは?
     ヤノさんの家庭環境は複雑で、とにかく歪で壊れてズタボロで、家族として機能していなかったということは察している。
     それはヤノさんが今日みたいに時々漏らす言葉の節々に滲み出ていたり、または日常生活の中で行われる動作のひとつひとつにひっそりと感じられることが多かった。
     先程の言葉。『やっぱさぁ、プレゼントって靴下の中に入ってんの?』──やっぱさぁ、って何だ。『俺は貰ったことないからわかんないんだけど、やっぱさぁ』の『やっぱさぁ』なのか?『やっぱさぁ』って言うってことはそういうことなんじゃないか?
     ぐるぐると思考が回っていく。目の前のヤノさんが何か言っているが、よくわからなかったのでとりあえず頷いておいた。
     俺の反応を見たヤノさんは、少しだけ首を傾げたがまぁいいかと言いたげに机の上のペンを手に取ってチラシにでっかく丸を描く。
     あぁ、フライドチキンのサイズの話だったんですね。一番大きいので大丈夫ですよ、余ったら冷凍するんで……。

     そして、今日。というか、今。クリスマス・イヴに俺はヤノさんの部屋に忍び込んでいる。

     なぜ?という問いかけについては逆に問いかけたい。なぜ、あの言葉を聞いてヤノさんの部屋に忍び込まないのか。なぜ、ベストを尽くさないのか。
     冬の冷え込む夜の空気の中、そろそろとヤノさんのベッドの側へと忍び寄る。
     そーっと腕を伸ばして、ベッドサイドに置かれた棚の上にそっと袋を置いた。かさりと微かに音がして、それがやけに大きく聞こえて俺は息を潜めてじっとベッドを見つめた。
     ふわふわに膨らんだ羽毛布団から、ヤノさんのツンツンした黒い髪がぴょんぴょんと飛び出ている。顔は見えないが、恐らく寝ているだろう。というか、頼むから寝ていてくれと内心祈りながら俺はそっとベッドから離れていく。
     静かな部屋の中で、俺の馬鹿みたいに暴れる心臓の音だけが煩くて、耳障りだった。
    開け放したままだったドアの隙間を通り抜けて、そっと廊下へと身を滑らせる。
     音を立てないように細心の注意を払ってヤノさんの部屋のドアを閉めた時──どっと、安心感とか達成感とかそういった様々な感情が溢れて小さく息を吐き出した。
     無意識のうちに、呼吸を抑えてしまっていたようで、冷たい空気がすっと肺の中に沁み渡る。
     明日の朝、枕元に置かれたプレゼントを見てヤノさんはどんな反応をするんだろうか。
    「何だこれ?」って首を傾げるだろうか。
    「馬鹿にしてんのか!」って怒るだろうか。
    「サンキュー関口」と喜ぶだろうか。
    「何してんだお前」と笑うかもしれない。
     一通りのパターンを頭の中に浮かべて、どれでもいいなと俺は小さく頷いて自分の部屋へと戻った。
     どれでもいい。どんな反応でも嬉しい。怒ってもいいし喜んでもいいし笑われてもいい。
     『やっぱさぁ、プレゼントって靴下の中に入ってんの?靴下の中に入るサイズじゃねーと駄目だったの?』なんて言葉をもう言わなくてもいいように。
     朝起きたら枕元にプレゼントが置かれていた時のあの感覚を、
     プレゼントがある!と母親に伝えた時のあの感情を、
     少しでも貴方に贈ることができたらそれでいい。

     とはいっても、俺が置いたことは分かるだろうからやっぱり喜ぶとかそういうのよりもまず笑われそうだな……と俺はベッドの中で一人考えて、そっと目を閉じた。




     翌朝、肌寒さに目が覚めて微睡む思考の中ごろりと寝返りをうつ。
     今は何時だ?もう起きるべきか?
     ううん、といつも枕元に置いているスマートフォンに手を伸ばす。
     かさり、と何か固いものが手に触れて音を立てた。何だ?
     のっそりと体を起こす。ぼやける視界の中で薄らと見えたのは赤い塊で、んん?と俺はひとり首を傾げて眼鏡をかけた。
     赤い袋だ。緑色のリボンがかかっていて、手に取ってみるとその大きさに反して思ったよりも重くない。袋の下敷きになっていたスマホよりもふた回りほど大きい。
     何だこれ?じいっと袋を見つめて、緑色のリボンを見つめて、よくよく見たらリボンと一緒に袋に飾られていたカードを見つけて、そこに描かれた言葉を見て俺はぱちりと目を開いた。
    『メリークリスマス セキグチ!』


     リビングの扉を開けると、先に起きていたヤノさんがこちらを見てにっこりと笑った。
    「関口ィ、随分とシャレたマフラーつけてるじゃねーか」
     コーヒーの湯気を揺らして側にやってきたヤノさんが、俺の首に巻かれたマスタード色のマフラーを指先で弄ぶ。
    「……そういうヤノさんこそ、随分素敵なお洋服ですね」
     と、俺もヤノさんがパジャマの上に羽織った、えんじ色のカーディガンにそっと触れて呟いた。やっぱり、思った通りふわふわと肌触りがとても良い。
    「驚いたことに、昨日サンタが来てたみたいでな」
    「奇遇ですね、俺のところにもサンタが来たんですよ」
     わざとらしく口を開いたヤノさんに、俺も同じように言葉を返して自分の分のコーヒーを淹れる。
     静かな室内に、マグカップに粉を入れる音と、お湯を注ぐ音だけが広がる。
     俺はコーヒーを口に運ぼうとして、隣で静かに肩を震わせているヤノさんに気がついた。ヤノさんはしばらく震えていたが、そのまま耐えきれずにブフッと吹き出して笑いだした。
    「お、おまっ、サンタが…きたって、はっ、それお前だろうがあはははは!」
     ひぃひぃと机に片手を置いて、ヤノさんは蹲って震えている。
    「……ヤノさんだってサンタじゃないですか」
    「あはははは!」
     あまりにもヤノさんが笑うので、なんとも言えない気持ちになってぽつりと言葉を溢したが、その言葉を聞いてさらにヤノさんは笑い続ける。
    「笑いすぎですよ、ヤノさん」
    「はぁ、はっ、ふふっ、だって、なぁ!俺の話聞いて用意したんだろ、これ、ふふっ、可笑しくて、うれしくて、いい歳して馬鹿みてーだけど、」
     笑いすぎて溢れた涙を指で拭いながらヤノさんは口を開いた。
    「ありがとな、関口ィ」
     眉を下げて笑うヤノさんを見て、俺も笑って答える。
    「こちらこそ、ありがとうございました。ヤノさん」
    ──あなたにプレゼントを、贈ることができて。
    ──本当に、ありがとうございます。




    空っぽの靴下にはありったけの贈り物を。
    寒空に凍える体には温かいお布団を。
    大切な人と過ごす大切な時間を。

    寒空の下に輝く満月も、
    ハラハラと宙を舞う紙切れも、
    チカチカと揺れる赤いランプも。

    今までにあったどんな思い出も、何度だって良い思い出に塗り替えちゃいましょう。

    あなたと、この先もこうやって過ごして行けたら。

    ハッピー メリー クリスマス!








     ──はっ、と目を覚ます。
     今は何時だ?とスマホを見ると、朝八時ごろ。いつのまにかうたた寝をしていたようだ。何だか変な夢を見ていた気がして、ぱちぱちと数回瞳を瞬かせる。
     見張りのためとはいえ、さすがに車中泊も連日続くと体が痛んでくる。
     車から降りて、わずかに痛む肩をぐるりと回すとぽきぽきと肩が回る音がした。
     目の前に建つ倉庫を──いや、正しくは倉庫の中にいる十億円を握るイマイとかいう男のことをぼんやりと考える。
     今朝は随分冷え込んだなと、白い息を吐きながら倉庫の扉をガラガラと開いて中を覗いた。
     イマイは逃げられないように柱に繋がれたまま、毛布に包まって横になっていた。規則正しく毛布が上下しているのを見ると、どうやら寝ているらしい。
     俺が言うのもなんだが、よくこの状態で眠れるなこいつ……。
     ポケットに入れたスマホから呼び出し音が鳴り響く。俺は慌ててスマホを手に取ると、相手もろくに見ずに通話状態にして耳元へとスマホを寄せた。
    『おはよーございます、ミスター関口。イマイくんは元気か?生きてるか?』
    「おはようございます。ヤノさん。イマイなら寝てます」
    『生きてるならそれでいい。生きてないと価値がない10億のためだから死んでたら意味がねーよなここまでの努力疲労ぜんぶ無駄になっちゃうからな、はーヤダヤダ』
     三十分後に迎えに来いよとヤノさんは言って、こちらの返事を待たずに通話は切られてしまった。
     俺は一瞬イマイを連れてお迎えに行った方がいいのかと迷ったが、知らない奴に家を知られるのは嫌がるだろうなぁと思って寝ているイマイはそのままに車に乗り込んでエンジンを動かす。
     ふと、車のモニターに映った今日の日付にぱちりと瞳を瞬かせた。
    「……ああ、今日はクリスマスだったのか」
     そう意識してみると、窓から見える街並みもどこか華やいで見えてくる。
    「……今年のクリスマスプレゼントは十億円ですね、ヤノさん」
     まだ誰も座っていない助手席に向けて、俺はぽつりと呟いた。
     今日という記念の日に、今日という勝負の日に、十億円をあなたのために手に入れて見せます。ヤノさん。
     俺は改めてそう決意すると、ぐっとハンドルを握る手に力を込める。
     十億円を手にして、ボスにも褒められて、勝負に負けたドブさんは俺たちの前から消えて。

     今日は俺たちにとって最高のクリスマスですね。
     そうですよね!ヤノさん!


      
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