我が地方には、成人である16歳に奴隷を飼うという風習がある。
その風習に倣い、ぼくも誕生日に両親から送られた。
大きな鉄格子ごと運ばれてきたそれはニンゲンだった。
「さぁシルヴィちゃん!ここに血を塗りつけて!契約するの!」
ぱっちり大きな瞳で興奮気味に話すのは、ぼくの母。
ぼくの名前はシルヴァだが、"女の子みたいに可愛い"と女性用の愛称で呼ばれている。
奴隷契約には主となる本人の血液が必要だ。
それを奴隷の首輪に塗りつけることで契約が成立するらしい。
父から渡されたナイフで指先を切って塗りつけると、これで立派な大人ねと母が大喜びしていた。
「これ、後で読んでね」
渡されたのは彼の証明書。
名前、性別、そして魔力ランクSSの文字が。
魔力持ちのニンゲンは希少であり、高値がつくという。
ましてやSSランクなんて、弱小貴族である我が家にそのような大金があるのだろうか。
「うふふ、お買い得だったのよ!シルヴィちゃんに似合うのは彼だ、ってビビっときちゃった!」
「訳ありだったからね」
穏やかな父の言葉に下のほうへ目を走らせると、返品2回の文字が。
1回目は奴隷契約の首輪を破壊、2回目は主人の婚約者を誘惑と奴隷らしからぬ文言が並んでいた。
そういえば、腕にも鉄枷が嵌められている。
魔封じの腕輪だろうか。
奴隷の首輪は滅多なことでは壊れない。
主人の死亡か、契約解除時にしか外せないものだと言われていたのだが、膨大な魔力を流し込むと耐えきれずに壊れてしまうらしい。
いや、らしいではなく実際にあったのだ。
その対策に、と腕輪がされているわけだが、外さない限り魔力は発動できない。本末転倒である。
婚約者を誘惑、については婚約者などいないぼくには関係のない話だろう。
さて、明日から立派な成人として、奴隷の主人としての生活が始まるのだ。
気を引き締めていかなくては。
***
「ねぇ、あなた。シルヴィちゃんに似合いそうなコいたかしら?」
「そうだなぁ、彼女はどうかな?」
「うーーーーん、違うわね」
愛する息子、シルヴァの誕生日に奴隷を贈るべく夫婦ふたりで選んでいたのだが、彼女のお眼鏡にかなう奴隷はなかなかいない。
かわいいシルヴィちゃんに釣り合うコがいい、と情報を見つけてきては『違う』と唸っている。
「見た目が良くて、シルヴィちゃんを守ってくれそうなコがいいわね」
そんな奴隷高価なんじゃ、と今から胃をキリキリさせつつ、試しに魔力A以上と指定して検索する。
「あ!!彼、彼がいいわ!シルヴィちゃんにきっと似合うわ!」
視線の先にあったのは魔力ランクSSのニンゲンのオスに訳あり値下げ中の文字。
息子に似合うかはさておき、見た目も良いほうで弱小貴族でも手が出せる値段だった。
気になるのは訳ありの中身なのだが、既に購入しており時すでに遅し。
証明書を確認して違う意味で胃をキリキリさせるのだった。
獣人くん×ご主人様の身分逆転if
『弱小貴族獣人年下主人×凹ゲイ面食い年上奴隷』前編
解説メモ:2回とも主人は令嬢だったため従う気がなかった(2回目は男の婚約者がいたので襲って食った)
本編では両親いないけどいたらたぶんそう呼ばれてると思う。
2023/07/09