夜空に半月が浮かんでいる。
十日夜、というのだろうか?
三日月とも満月とも違う、その中間くらいの月齢のそれは、なんとも中途半端な月だと思う。
かく言う私も中途半端だ。目がよく見えないくせに、感覚が鋭いおかげで問題無く見えているように振る舞ってしまい誤解を生む。どっち付かずの自分のようだと、この月を見ながら思うのだ。
「いい月ですね」
隣りの不死川からそんな言葉が聞こえてきた。残業帰りに二人、家路に向かう途中にある公園に差し掛かった時だった。
返答しないでいると、
「……ああ、夜空に雲ひとつなくて、月の光がキレイなんですよ。ちょうど満月と三日月の真ん中くらいなのかな。半分くらいのお月様でね」
見えないかもと気を遣ってくれ、月の様子を説明してくれた。目を眇めると微かに見えた。流石にちょうど半分なのかはわからなかった。
すると隣りの不死川がそわそわとし出した。
視線をそちらに向け話すよう促すと、恐る恐るというように口を開いた。
「笑わないで聞いてくださいよ? 俺ね、この月を見ると……」
ごくりと唾を飲み込む音がした。
「——オムレツが食べたくなるんですよ」
「……」
「かーちゃんが『オムレツのお月様だね』って小さい頃言ってて、その後本当にオムレツを作ってくれたんですよ。牛乳とバターたっぷりの。アレを思い出して食べたくなるんですよね」
今日帰ったら作ってもいいですか?、と声の調子が跳ねた。
「——ははっ」
思わず声が出てしまい、不死川の気配が変わる。顔を赤らめたようで、その辺りに熱を感じた。
「〜〜ちょっと! 笑わないでって俺言いましたよね! ヒドイですよ!!」
ふんすと息巻く様子に、すまないと両手を上げてハンズアップ、降参の意を伝える。
作って上げませんからね、と言われ、それはたまらないと嘆願する。
十日夜に感じることもこんなにも違う。結局、一つの事柄は人によって受け取り方は違うのだ。だから人は一人では生きていけないのだと考える。互いに感じる悪い考えを、一緒にいる相手によって良い方へと覆しながら共に生きていく。それが人生なのかもしれない。
悲鳴嶼とって、やはり不死川はなくてはならない存在なのだ。先程のオムレツのように沢山のことを救われている。そして逆に彼を救う存在になりたいと願っている。
そんなことを考えながら、十日夜の月の光を浴びつつ不死川を追いかけ家路へと歩みを進めた。