一人遊び 絹のように滑らかで艶やかな金の髪が歩調に合わせて揺れる。
歩く。ただそれだけの仕草で美しさを体現し、周囲の者に強い存在感と畏怖の念を抱かせる女性の名はリリス。アダムの最初の妻にしてルシファーの妻でもある彼女は、ビスクドールのように表情を持たぬ面持ちで真紅の絨毯の上を歩み、一つの扉の前で歩みを止めた。ドアマンをつけていないその扉の奥からは、苦悶が滲むくぐもった声が聞こえる。その声を耳にしたリリスは微笑し、ゆっくり扉を開けた。扉の先には部屋があり、部屋は紫と黒を基調にしていて灯りは点いていない。だが、部屋の奥では何かがぎこちなく蠢いて息を漏らしている。リリスは暗がりに潜む存在を一瞥すると、灯りを点けた。一瞬にして照らされたそれは光に眩んだ目を強く瞑り、立ち上がっていた耳を寝かせて小さく鳴いた。その声は小鹿の鳴き声に似ていた。リリスはそれに歩み寄ると、首輪から続く鎖を掴んで引きせ寄せ俯く顔を上げさせた。すると再び小鹿のような鳴き声が部屋に響き、リリスを見上げる真紅の双眸が潤む。その様子を見たリリスは目を細めて鼻で嗤うと、身を屈めて囁いた。
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