当日をお楽しみに
「なー、新」
「駄目だ。どうしても欲しいなら自分で購入しろ、止めないぞ」
いや、侘びしいからそこは止めてくれよ。
スーパーの一角に出来たバレンタイン特設コーナーでは寄り集まった女の子たちが品定めをしている。
遠目にいいなと思っても、制服を来た男子高校生が近寄ることはまず許されない風潮が恨めしい。カゴを片手に素通りする新のブレザーの裾を掴むが、耳も貸さずに買い物を続行する。漢だ。
「本来貰う立場なのにどうして君に渡さなくちゃいけないんだ……」
「俺が欲しいから?」
「じゃあこれで」
「それ材料」
新が事も無げに手渡してきたのは手作り用の板チョコ。ずいぶんと味気ない。素材のまま食えないこともないが、せっかくだし出来れば別のチョコがいい。売り場に戻そうかカゴに入れようか迷って、ふと同じパッケージをカゴの中に見つけた仁は目をしばたかせた。
これを選ぶ理由はそう多くない。夕飯には不釣り合いだし、美味そうなお菓子なら他にいくらでも並んでる。これは当日に期待してもいいのか?
「レジに行ってくる」
仁の何か言いたげな視線に乗ることもなく彼の様子は素っ気ない。手に持った板チョコを売り場へ戻し、代わりに缶ビールをカゴに放り込んだ。
遠ざかろうとした小柄な背中が足を止め、振り返る。眉間に寄せた眉を隠そうともしない友人に惚れ惚れする笑みを持って返した。
2015.12