わかっていると君は言う(大丈夫、じゃない) ギノは物分かりがいい。俺が何も告げずに数日消えても、全て任務だと思って一言も聞こうとしない。ギノは物分かりがいい。俺が口元を赤い口紅で汚しても、ため息をついて飛行機の備品のクレンジングで洗ってくれる。ギノは物分かりがいい。俺が誰かの香水の匂いを移しても、そのまま抱かれてくれる。けれど俺は寂しくなる時がある。そんなに何もかもを誰かに捧げてしまって、お前は本当に幸せなのかと。
「ん……狡噛、まだ朝早いぞ」
「急に任務が入ってな。そろそろ出なきゃならないんだ」
母との面会を詮索されたくなくて、俺はそんな嘘をついた。母は先日から出島にやって来ていて、俺が取ったホテルで暮らしている。仕事を始める前に会っておきたかった。ただそれだけのことなのに、俺は彼に言えないでいる。
954