優しい嘘(なんてつけない) 狡噛があえて俺につく嘘に気づいたのは、彼と関係を持ってしばらく経ってのことだった。それはほとんどが家族のことだった。母親との関係を彼は口にせず、俺に黙っていた。授業参観って年でもないから俺は彼の母親とすぐには会わなかったが、時折行く狡噛の家で二人並んで撮られた写真を見ることはあった。狡噛と同じ色の目をした、さっぱりとした女の人に見えた。けれど彼は俺がそれを見ていると知ると写真たてを隠そうとしてしまうのだ。多分、母親の話題になることを避けて、なぜなら俺の母はユーストレス欠乏症で寝たきりだから、だから俺は母と喋ることも出来ない可哀想な子どもだから。最初のうちは狡噛にそんなこと気にするなと言った。俺の父は潜在犯だったし、それは皆が知っていたし、今さら気遣われてもどうにもならないと。でも、狡噛は何度も俺に嘘をついた。母さんとは最近話してないな、なんて、手ずからの料理を食べさせてもらいながら、そんなふうに俺を優しく拒絶した。
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