人魚の涙(※未完成鶴鯉月)─お前は、人魚の涙を見たことがあるか?─
幼龍は、上官である死神から突拍子の無い質問を受け、硬直する。
人魚。
日本各地に人魚伝承は残っているが、あくまでも伝承。実話かもしれないし、大衆を楽しませる目的で創作された物語かもしれない。其の真意は、目撃者、記述者のみぞ知る。
─………私は、見たことがありません…─
幼龍は、震える声で答えを絞り出した。
死神は無表情と無言を貫き、鋭い視線で幼龍を凝視する。其の姿に、幼龍は徐々に圧され、底知れぬ恐怖と緊張が心身に纏わり付く。
激しく脈打つ鼓動、額から流れる一筋の汗、への字に歪む唇。
己の答えは、可笑しかったのだろうか…
「…そうか。そうだろうな…変な質問をして済まなかった。」
870