尾月原稿「俺は一生獣のままでいい。俺にもあの血が流れてるんだ。きっと誰かを傷つける。誰かと心を結び付けて人間になるより、一人で獣でいた方がよっぽどいい」
それは紛れもない月島の本心だった。いつかのベッドで見上げた、鶴見の翳る美しい顔を思い出す。結局自分もあの獣と同じだった。自分に与えられた運命が受け入れられなくて、誰かを傷つけてでも安心したかった。誰かを傷つけてまで得られる安寧に、何が救えるというのだろう。
「……俺も。俺も、獣ですよ。一人ぼっちの獣です。弱肉強食の理に縛られて、屈服させられて、強い種であるという点でしか評価されず。いつも蚊帳の外で、人間たちを眺めてる」
尾形はベルトをなぞる指先を真っすぐに下ろし、鬱血痕が無数に散らばる鎖骨をなぞり、そして胸の真ん中に辿り着かせた。丁度、心臓があるところ。布越しに僅かに伝わる鼓動に目を細めて、言った。
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