通過儀礼この富永総合病院に勤めるにあたって、言っておかねばならないことがある。
静かな会議室でそう言ったのは外科の瀬戸先生だった。その隣には内科の堀田先生が居る。新人イビりか何かだろうか、とモブ太郎はごくりと生唾を飲み込む。
「これより富永院長ファンクラブ入会手続きを行う」
……………………………………なんて?
「まず第一に、当たり前だが自身が医療従事者であり、患者の事を優先に考えること。ここからはみ出した奴ァ院長及び俺らファンクラブの会員全員の敵になると思え」
「ちょっ」
「第二に自身の健康を考えて行動することです。健全な精神状態でなくては正しい診察など出来ませんから」
「ちょっと待って」
「第三によく勉強すること。これに関しちゃ俺らもサポートしてやるから遠慮なくな」
「ちょっと待ってください!」
ファンクラブ入会手続きだなんて言っておきながら、読み上げられる入会規約(?)は医者として当たり前の心構えだった。あっ、もしかしてこれイビりとかじゃなくてこれからの勤務に対する激励会とか?新しいスタイルだな……。そんなモブ太郎の肩を叩いたのはモブ川先輩だった。
「お前が戸惑うのも分かる。俺もそうだった。けど今に分かるから!!」
「答えになってない!」
モブ太郎の戸惑いは瀬戸の「続けるぞ」の一言で流された。
瀬戸は資料の中から一枚の写真を取り出し、ホワイトボードに貼り付けた。わお、イケメン。だけど……マント?
「こちら院長のパートナーにしてファンクラブ名誉会員の神代一人先生だ。年齢は院長より少し上だがこないだ握力測らしてもらったらりんごくらい軽く握り潰せるから気を付けろよ」
「パートナー……?」
「ぶっちゃけ旦那さんよ」
「それも写真のめちゃくちゃ美形でめっっっちゃくちゃすごい腕前のスーパードクター」
「一回二人のオペに携わらせてもらったけど、早すぎて付いていけなかったくらいやべえぞ。今ならもうちょいマシだと思うけど、どうだろうな……。やっぱ自信ないな……」
「何それ羨ましい」
いや旦那なにやってんの?夫のファンクラブにわざわざ入ってんの?
「院長を推すなら院長に曇らすことなくマナーを守って推し活をしましょう。以上、解散です」
そんな感じで一応入会式は終わった。まあ院長の考え方や医療体制や現場の理想と現実に真っ向から向き合う姿勢、そしてその院長の人柄が滲み出る院内の雰囲気が良くて就職を決めたもんな。あれ、オレ結構院長のこと好き?でもファンクラブて(笑)
――ってなってた数ヶ月前のオレよ。お前は何も分かっていない。