巡り重なり続く噺 たとえどんな世界に流れ着いても、この眼は君を見つけ、この耳は君を聞きつけ、この鼻は君を嗅ぎつけ、この手は君を掴み、この口は君を味わうだろう。
微かな物音に、その生き物は何時間かぶりに身動ぎする。無視しても良かったその音に意識と視線を向けたのは、そこに人間の悲鳴が混ざっていたからだ。
その声が、妙に気になったのだ。
「──あれ」
あまりにも端的な言葉。ともにぼんやりと時間の経過を感じていただけだった片割れは、下から上へ瞼を閉ざすだけの緩慢なリアクションのみで動かない。
「なぁ、人間って空飛べたっけ」
「魔法使いはな」
「それ以外は?」
「飛べへんやろ」
ほんなら、あの人間落ちてしまうやん──と考えながら巨体を僅かに動かしたその生き物は縦に長い瞳孔で人間の姿を捉える。
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