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    sannomekun

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    類司/🎈🌟

    『元気にしていますか』

    誕生日になるとバースデーカードにその言葉が届く。

    差出人の名前は「神代類」

    #類司
    Ruikasa

    『元気にしていますか』

    誕生日になるとバースデーカードにその言葉が届く。

    差出人の名前は「神代類」

    見慣れた文字でその癖も分かっている。ただ、会っていない。カードを贈ってくる相手は、きっと一方的に。

    ーー歯がゆさは、いつもそこに起因する

    零時を回ると同時に司の携帯に通知が届いた。見れば同じ大学の同級生から祝うメッセージで、今日になった瞬間を狙って送ってくれたらしい。祝いのメッセージに続いて、スタンプが送られてくる。

    普段、友人が絶対に使わないようなそのスタンプは、きっと司に合わせてきたに違いない。心遣いに、小さく笑う。

    窓から見える風景には、まだ慣れない。

    去年ここに引っ越してきて以来、いい加減慣れてもいいと思うのだがこの場所に住んでまだ一年半ほどだ。

    湿った空気は、生暖かった。

    カーテンを閉めて電気を消す。瞼を閉じても、左目は、ちかちかと光を追っていた。

    司に初めてバースデーカードが贈られるようになったのは、今から四年前のことだ。

    とても綺麗な字で「元気にしていますか」とだけ書かれていた。 あれから四年。バースデーカードは毎年司のもとに届けられている。

    はじまりは、喜びだった。

    じきにそれは戸惑いになり、今はもう怒りに近い。郵便ではなく宅配業者に届けられたそれには、入学祝と印が押されたギフトカードも添えられていた。

    届いたカードに覚えたのは、悔しさと、安堵で、それを自覚した時にいよいよ末期だなと自信を嗤った。ギフト券のお金は使っていない。まるごとどこかに寄付をしようかと思ったけれど、結局使われないまま引き出しにしまったままだ。




    目を覚ませば、雨が降っていた。

    夢の中で雷の音を聞いたような気がするので、この雨は夜中から続いているものなのかもしれない。雨雲のせいでいつもより暗い室内は静かに何かを待っているようにも見える。

    閉めたままのカーテンを見ながら、鼻をすすった。

    雨が降ったせいで気温が下がっているのだろう。熱中症対策にと一晩中つけっぱなしにしていた冷房が、体温を思った以上に下げてしまっているようだった。

    腕をさすれば、皮膚がいつもよりも冷たくなっていた。

    今日は、友人が誕生日だからとお昼ご飯をごちそうしてやると約束をくれていた。大学はまだ夏休みなので駅で待ち合わせの予定だが、待ち合わせまでは随分と余裕がある。湯をはってゆっくり風呂に入っても大丈夫なくらいは。

    たまるまでにジュースでも飲もうかと部屋へと戻ろうとすると、玄関に見覚えのないものが見えた。

    それは、風呂場に入る前には、なかったものだ。

    ゆっくり、玄関に近づいて、それを拾う。

    封筒をひっくり返してあて名を確認し、そこをなぞる。指でなぞっても、ただの紙の感触がするだけだった。

    もう一度ひっくり返し、一つ、気付いた。

    本来ならあるべきそこに、切手も、宅配業者が使うような配送のシールも、何もない。

    表には、ただ『天馬司くんへ』とだけ書かれているだけだ。

    ならばこれは、誰かが直接玄関から部屋へ入れたということだ。

    咄嗟に玄関を開けた。開けながらも、もうきっと遅いだろうともどこかで分かっていた。案の定、扉をあけた先の廊下には人の気配は何も残っておらず、雨の音だけが響いていた。

    「……これは、やりすぎだろう。神代類」

    誰もいない廊下へと誰にも届かない言葉を落としてため息を吐く。せっかくの誕生日だというのに、まるで出鼻をくじかれたような心地がする。こんな一方的なものは司のために為されたものではなく、送り主の自己満足に過ぎない。

    ーーきっと

    そうだろう。
    そうじゃなきゃ、自己満足だと思わなければやっていけない。

    「ううっ、」

    目の前にいれば言ってやれるのに、近づくだけ近づいて、声も残さず、こちらに何もさせずに消えるなんて、何もしないより性質が悪いだろう。

    手に持った封筒を今年は見ずに捨ててやろうかと、ふと思った。それは一矢報いるという点でとても魅力的な思いつきに思えたし、実際、封筒をゴミ箱の上に持っていく真似事もした。

    ーーけれど、結局、できないのだ

    できないことを、知っていた。

    身の内にあるものを、天馬司はよく自覚している。

    あるのは贈り主への怒りと、悔しさと、痛みと、そして、ぬぐい切れず捨ておくことがどうしてもできない、愛おしさだったから。

    「うう、っぐ、」

    結局この封筒だけが縋る藁なのだ。手の中で白い封筒がぐしゃりと歪む。厚みがあるのにどこか柔らかい封筒は、きっとそこいらの百均などで売っているものとは違う、上等なものなのだろう。

    歪んでもなお封筒がもつ静謐な空気は損なわれず、この手紙は大事なものだと言葉無く司にそう訴えている。

    吸った空気を鼻から思い切りだして、封を破った。直接手であけようと力をこめれば、封がしっかりとされているせいでちっとも開けられない。

    それがまた悔しくて、中の手紙ごと引き裂く勢いで指で封筒を引き裂けば、開け口が白い上等な封筒には似合わないずたずたなものになってしまった。

    それを見て、司の留飲はほんの少しだけ下がってくれた。冷えすぎた冷房をきってベッドへ腰かける。上等な封筒はぽいと床に放り投げて、中に入っているいつものバースデーカードをめくった。

    そこにあるのは、一言だけだった。

    いつもと、同じじゃない。一言だけ。

    『会いに行くよ』

    とても、とても、丁寧な文字で、それだけが書かれていた。




    昼過ぎになっても雨は止まなかった。

    友人が奢ってくれたご飯はとてもおいしかったし、友達とのお誕生日会というものは照れくさくて思い描いた幸せそのものだった。

    司は友人に何度もお礼を言って手をとって感謝をのべたが、友人にはどこか上の空だと分かってしまっていたらしい。

    別れ際には体調でも悪いのかと司の身体の心配までさせてしまい、悪いことをしたと心の底から反省をしながら、ずっと雨を見ていた。

    午後からバイトがある友人は、ここは払っておくからとレシートをもって先に店を出てしまっている。司はそんな友人に精いっぱいの気持ちを込めて手を振り別れてから、店を出ることもせず、ずっと雨を眺めていた。

    カフェの窓際の席は雨のせいか、司以外誰も座っていなかった。そして外も、雨のせいかほとんど人が通らない。皆、移動は駅の地下街を使っているのだろう。おかげで気兼ねなくぼんやり外を眺めることができた。

    ぽつぽつと落ちる雨は、どれだけ見ても飽きない。

    ぼんやりしながら雨の音を聞いていた。

    雨は、時間を狂わせる。

    ゆっくり時間を流しているようにみえて、時折、あっという間に時間を盗んでしまう。

    ゆっくり瞼を下ろすと、目を強く瞑る。じんとした熱を目の奥から身体の奥へと落として、瞼を上げる。

    ーーその瞬間、ふと、影が落ちた

    「……ここ、いいかい」

    雨音のように静かで穏やかな声に、頬杖をついた手が震えてしまった。

    司はもう一度、強く目を閉じて息を吸った。

    吐く息が震えぬように、
    つよく、
    つよく、
    胸に力を入れる。

    「遅いぞ、類」

    そう言って顔を上げれば、穏やかな目を持つ知りすぎた顔がそこにあった。

    「類、」

    名を呼ぶ声は、気をつけたのに震えてしまった。

    「お誕生おめでとう。司くん」



    神代類からのバースデイカードはまさしく祝福だった。彼が間違っているわけではなく、そして司も間違えているわけではないと教えてくれるものだった。

    ーー祝福だった

    「お前からのカードは、」
    「うん」
    「憎くて、悔しくて、悲しくて」
    「うん……」
    「言ってやりたいのに、お前はいないから」

    言えば、すっきりした。
    胸がすっとしたまま、笑う。
    ちらりと見た隣の類は困った顔をまたしていて、その顔に笑ってやった。

    ーーちゃんと会えた
    ーー会いたかった

    鮮やかな世界で色の消える日々を送ったその先で、ようやく、会えた。

    ちゃんと会えるのだと、あの頃に教えてやりたい。

    笑いながら、泣いていた。

    愛おしいのも、美しいのも、当たり前だというように、切ないほどに優しいままに。

    「……誕生日、おめでとう」
    「ああ!」

    笑った拍子にまた涙が出た。

    今日が誕生日だ。
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