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    pixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに

    #fnaf

    過去ログ3お化け屋敷には不釣り合いな光が満ちていた。赤とオレンジの光が溶け合い、お互いの身体を舐めるような炎が立ち上っている。あまりにも大きすぎる火の手に圧倒されスプリングトラップは一歩二歩と後退した。
    ―――一体ここで何が起こりやがった?
    すっかり歩き慣れた薄暗い廊下はパチパチと火の粉が上がりスプリングトラップの毛並みに小さな焦げ付きを残していく。これだけでは済まさないとでも言いたげに火の手は確実にスプリングトラップを絡めとろうとしていた。
    直接火に触れずともその熱は堪え難い。バネが弾ける音がする。熱に耐えきれなかった内骨格の補強に使われたバネが断ち切れる音だ。スプリングトラップがこの音を聞くのは久しい。だがそれは生々しく耳に残っていた。スプリングトラップの中に潜り込んだ男は、だ。
    四肢を内骨格に押し潰され、内臓に梁が突き刺さり、ワイヤーが皮膚もろごとミンチにし、丁寧なことに細切れになった内臓が裂かれた腹から零れ落ちた感触も未だに残る身体は、熱を吸った内骨格によって焼かれようとしていた。肉体の大半はカラカラに乾き失われていた。だが申し分程度にワイヤーに引っかかった肉片や骨が鉄で作られた内骨格に焼かれているのだ。

    「ちく、しょう―――!何で、こんな……」

    天井に設置された監視カメラを白く濁った目で睨みつけた。
    ―――今すぐそこに行ってとっておきのハグしてやるよ。ダーリン
    投げキッスでもくれてやりたい気分だった。しかし実際にスプリングトラップができたことはたった一つだけだ。何かに取り憑かれたように警備室を目指す。それだけがスプリングトラップに許される唯一だった。

    火の手はあちこちに回っていた。老朽化が進んでいた元ピザ屋は炎と熱い抱擁を楽しんでいる。布製のガワを着込んでいるスプリングトラップが焚き付けられないようにするのは至難の業だった。スプリングトラップが歩いた先から火の手が回り背中を焼こうと迫ってきている。
    だがこれの裏を返せば警備室に引きこもっている警備員の逃げ道が断たれていることを表していた。

    「ハハ……ハ…、テメーも道連れだ」

    警備室の回りまでは目立った火の手は回っていなかった。だがそれも時間の問題だ。何より火の手より早く、スプリングトラップが迫ってきていた。足音を立てながら、錆び付いた内骨格を軋ませながら警備室の一面に張られたガラスを覗き込んだ。ぎょろっとした血走った目が警備員を捉えた。あまりの自体に混乱と恐怖に陥っているのだろう。スプリングトラップと目が合った警備員は今にも卒倒してしまいそうなくらい血の気が失せていた。呼吸もままならないのだろう。苦しそうに呼吸を乱して喘いでいた。
    かわいそうなくらい怯えていた。スプリングトラップと炎と板挟みになって、この警備の仕事を請け負ったことを、それこそ死んでしまいそうなくらい後悔している不憫であまりにも無力な警備員。
    ―――かわいそうにね。こんな仕事を任されたばっかりに
    残忍な愉悦にほんのひと時スプリングトラップは己の身に振りかかる苦痛を忘れられた。炎に背中を押されてガラスから警備室を覗きながら入り口に回り込んだ。ここに扉が取り付けられていないことを後悔して欲しかった。スプリングトラップが束の間の幸せを味わえるほどの絶望を感じて欲しい。

    「やめろ!やめろって……!やめて…くれ―――!」

    スプリングトラップが警備室に足を踏み入れた瞬間、警備員は泣き出しそうに顔を歪め壁の隅へと逃げ込んだ。壁に同化してしまいたいとでも言いたげに身体を極限まで縮こまらせる。
    この光景にスプリングトラップは既視感を覚えていた。そうだ。スプリングトラップの中の男の記憶だ。あまりにも血腥く、ピザ屋という場所からかけ離れたサディズムと猟奇の記憶。
    壁も炎の熱に当てられているのだろう。熱さと恐怖に呻きながら警備員は身体を震わせた。
    警備服に付けられた名札には『ジェレミー・フィッツジェラルド』と書かれている。だが名前なんて無価値だ。死んだ人間の名前を敬愛を込めて呼ぶことはない。
    ……スプリングボニーも同じだ。彼と同じようにジェレミーの名も無意味と化そうとしていた。ジェレミーへと足が踏み出され、伸ばされた五本の指がジェレミーの髪を掴み上げようとした瞬間に廊下でブザーが鳴った。
    火災警報機だ。まさか今更鳴るとはジェレミーも予想外だったのか、ビクッと身体を震わせた後に廊下に視線を送った。
    その視線に釣られるようにスプリングトラップの足が廊下へと向かう。

    「っざけんな!クソが!止まれ!止まれってんだよ!」

    口汚く罵っても身体は言うことを聞かない。スプリングボニーの肉体が与える呪いだった。音に忠実なシモベの音声認識だけは狂うことなく顕在していた。ブザーが鳴り止まない。ビーッビーッと耳障りなサイレンが天井まで舐める炎を震わせるようだった。
    その隙に警備員が部屋から飛び出した。スプリングトラップとは反対方向の出口へと向かっていく。
    だが出口の扉が開くことはなかった。熱で壁か扉かが歪んでしまったのかいくらジェレミーが体当たりをしても開く気配すらない。思わず笑みが零れそうだった。
    神様はいるのだ、と確信めいたものが生まれる。あの子ども達を殺すことこそが天命で、自分が檻のような人形にすり身にされたことが間違いなのだ。だから自分はあの警備員を殺して鬱憤を晴らすことも許されると。
    ついに炎の熱の許容を越えたのか警報機が口を閉じた。
    やっと自由になった身体をギシギシ軋ませながらジェレミーに向かわせる。廊下の奥へ追い詰めてやろうとした矢先のことだった。
    急に足が重たくなってきた。油が切れたかのように動かない。

    「…―――……」

    口が勝手に動く。だが言葉の意味を持たない呻きにしかならなかった。まるで久しぶりに発声するかのようにぎこちない。

    「ニ、…―――」

    その声はノイズがかかっていた。たった一言発するのも困難なほど質が悪くなってしまった合成音声が震えていた。

    「逃げ、て―――」

    砂利をまぶしたような声がジェレミーにははっきり聞き取れたのだろうか。驚愕の表情を顔に張り付け胸に付けられた名札を握った。

    「早く……その、ダクト―――」

    スプリングトラップの意志はなくダクトを指していた。ダクトは回りがコンクリートで一面を覆われている分だけ火の回りは遅いだろう。その上、示したダクトは入り口近くまで続いている。もう既に廊下は火の海だ。ここを生身の人間が無事に抜けれるとは到底思えない。
    そんな情に満ちた感情がワイヤーと梁とコードが突き刺さった脳に流れ込んできていた。もちろんそれはスプリングトラップの中の男の意志ではない。

    「―――急いで」

    それだけ告げると足が軽くなった。今のが一体なんだったのかスプリングトラップには説明しようのないものだった。今のは間違いなく、かつてのスプリングボニーの……
    はっと我に返ったジェレミーがダクトに駆け寄った。ダクトの金網を外し、中へ潜り込もうとしているのを見てようやくスプリングトラップの足が動いた。だがそれは一瞬だけだった。身体が壁に叩き付けられた。古くなった内骨格がひしゃげるほどの勢いに身体が付いていかない。
    再びジェレミーに飛びかかろうとしても、身体がもう一度壁に叩き付けられる結果に終わった。スプリングボニーの意志だ。ジェレミーを逃がそうとしていた。この暴虐の炎と人形の呪縛から。
    ついに炎の先がスプリングトラップを捉えた。穴だらけになった右腕に火が移る。

    「何してるんだ!早く―――!早く行け!」

    焼き尽くそうと襲う炎に悲鳴すらスプリングトラップはあげられなかった。代わりに叫んだのはジェレミーを案ずるスプリングボニーの言葉のみだった。炎が肩へにまで食指を伸ばしていた。あまりの熱と苦痛に、今度はスプリングトラップは明確な意志を持って身体を壁に叩き付けた。しかし炎は消える気配すらない。”中身”だけでも炎から遠ざかろうとしているかのようにスプリングトラップは両手で口を大きく開かせた。中に潜んだ邪悪な”中身”が覗く。

    ダクトから音が遠ざかっていく。ここの警備をしていたのだから彼ならきっとダクトを抜けることができると信じるのはスプリングボニーだった。
    炎の勢いは失せる気配がない。スプリングトラップの身体を焼き焦がし、内骨格を炙る。スプリンクラーが申し分程度の水を撒き散らす。
    ここは地獄だった。スプリンクラーの水はスプリングトラップに移った炎を鎮火させたが、囁かな雨程度の水は言葉通り、焼け石に水だ。
    何もかもが焼けていくのをスプリングトラップは見ていた。身体の内側からショートの音が聞こえる。劣化に加え急激な熱と水と、アニマトロニクスが壊れる札は一揃いだ。
    ―――全部全部燃えてしまえ。こんな場所、何もかも焼き尽くしてしまえ
    破壊的な感情がショートした回線を巡って身体の隅々に行き渡る。
    子どものために作られたスプリングボニーに存在するはずもない衝動と感情に泣き出したいような気持ちだった。

    「僕は……ただ皆に笑って欲しかった。皆に幸せだって…ここは楽しい場所だって、思って欲しかった」

    スプリングトラップとして存在していた男の残忍な意志は潰えた。
    そうなるまでスプリングボニーが起こした配電のショートは思った以上の効果をもたらしてくれていた。
    スプリングボニーは炎に巻かれながら自由になった身体で警備室へと歩き出した。かつてはステージの上に立ち、ベースもお手の物だった頃の気持ちで。
    ようやく自由になれたのにスプリングボニーは孤独だった。誰も彼を待つ者はいない。ステージも、メインホールも、もう何もない。
    孤独感に打ち拉がれながらもスプリングボニーは倒れた椅子の傍にある壁に近づいた。
    青いボタンはライトの点滅を繰り返していた。そこに映るのは監視カメラの映像だった。ダクトを必死に這うジェレミーが映る。咳き込みながら、熱と煙に苦しみながらも彼は生きようとしていた。
    命に固着するその姿に、スプリングボニーは食いるように見つけていた。ダクトを映していたカメラから画面が切り替わる。モノクロの砂嵐のようなノイズが画面に走る。そこにはフライトの入り口が映っていた。
    今にも消え入りそうな画面が最後に映したのは、ジェレミーが扉を開け、ここから出て行く姿だった。
    足を引きずり、背中を丸め……でも、彼は生き延びた。彼は生きてここから出て行った。
    それを見届けたとき、スプリングボニーはこの上ない安堵感と喜びを覚えた。
    スプリングボニーが最後に課せられた使命は終わった。もうできることはない。
    ズタボロになったコードが支える、今にも千切れてしまいそうな首で振り返ると、そこは火の海だった。ここまで火の手が迫ってきていた。
    トイシリーズが雑多に詰め込まれた箱にも火が移っている。ガワだけになった人形達は悲しいほど簡単に燃えていく。

    「……ごめんね」

    警備室の入り口から覗くフレディのガワが燃えていく。明るい炎に包まれて火の粉を巻き上げながら燃えていく。光の塵のような火の粉はまるで彼の魂が天へ昇っていくように見えた。

    「君を、君たちを……苦しめてごめんね」

    スプリングトラップとなったきっかけを作った男が手掛けたのは人形だけではない。殺された子ども達とフレディ達に許しを乞いながらスプリングトラップは背中を壁に預けズルズルとへたり込んだ。
    剥き出しになった足の内骨格が炙られる。足に巻かれていたバネが弾けて炎の海に飛び込んでいくのを虚ろに見つめていた。痛みはない。熱さも感じない。スプリングボニーが感じたのはただただ、虚無感だった。全てが終わりゆく気配に心穏やかだった。

    「あ……?」

    炎に閉じ込められた向かい側の壁に何かが見えた。最後に目に焼き付けようと目を凝らす。
    そこに見えたのはゴールデンフレディだった。

    「待ってて……くれたの…?」

    スプリングボニーと同じ体勢で、壁に背を預けながら座り込んでいた。彼は何も語らなかった。だが待っていてくれた。スプリングボニーが皆と同じところへ向かうのを。
    癒された孤独感に炎より温かなものを感じながらスプリングボニーは目を閉じた。もう二度と目覚めることがないように願いながらかつてのパートナーと共に炎に呑まれていった。

    「ありがとう……」



    フライトの扉を開けたとき、ジェレミーが感じたのは明け方のシンとした冷たい風だった。
    熱に甚振られた身体を一気に癒してくれるような優しい空気にその場で気を失ってしまいそうだったが、何とか持ちこたえ足を運ぶ。ここまで逃げて倒壊に巻き込まれでもしたら人形に詰められるのと代わりないミンチの死体になってしまう。
    肺一杯に新鮮な空気を吸い込んだ。涙が次から次へと零れた。燃えかすがこびりついた頬を涙が洗い流す。
    ジェレミーは生きてた。
    生きてこの悪夢を抜け出した。
    涙が止まらなかった。恐怖のせいか、それとも生きていることの感謝かは分からないが、ただ胸に込み上げる感情に涙腺が壊れてしまったようだった。
    静かな明け方の空気を震わせるような雄叫びが喉から振り絞られる。血の通った悲痛な叫びだ。
    膝をつき地面を這い、路地へと出た。
    そしてジェレミーは振り返った。血塗られた場所は地獄に引きずり込まれるかのように燃え盛っている。
    もうここに戻る日はないことを至らしめるように炎の柱は、紫色の明け方の空にそびえ立っていた。

    「ここにあるものがサルベージされたもの全てですか?」

    悲壮感を漂わせたオーナーが問うた。眉間に刻まれた皺が濁りきった苦悩を表している。
    その感情はもっともなものだった。何せ体調を崩し療養している間に火事が起き、開店前の店舗が全焼してしまったとなれば泡を吹いて卒倒しないだけでも冷静な方だ。

    「そうです。そして…この人形なんですが―――」

    サルベージの仕事を担当にする消防隊員が業務的に口を開き、薄っぺらい書類をオーナーの前に差し出した。そこに書かれているものはサルベージされた一覧表と…

    「貴方が見つけ出し、ここに設置されたこの”スプリングボニー”という人形の中にですね……」

    「ええ…まさか”中身”が詰まっていたなんて気が付きませんでした」

    眉間に刻まれた皺を親指で押し潰すとオーナーが目を光らせた。根っからのオカルト気質か変態なのだろう、と侮蔑の視線を投げかけると薄気味悪そうに肩をすくめた。

    「この人形は警察へ引き渡し、中の遺体を検問にかけます」

    「その後は?」

    「始末します。まさか、流石に死体が詰められた人形なんていらないでしょう?」

    スプリングボニーの全体図の写真が書類に張り付けられてた。その写真を名残惜しげにオーナーは見つめると小さく溜め息を吐いた。

    「分かりました。では人形の処分はお任せします」

    取り繕った愛想のいい笑みを浮かべると消防隊員は小さく敬礼をして頷いた。早くこの場を切り上げたかったのだ。こんな場所にも、こんな気持ちの悪い会話など続けたくはない。
    その隣では今まさにスプリングボニーが運び出されようとしていた。誰からも愛された人形が乱雑にストレッチャーに乗せられていく。
    朝日が昇り始めた空にスプリングトラップは初めて晒された。あんなに待ち望んでいた解放は事務的であっけなかった。
    それを見ていたのは、ジェレミー・フィッツジェラルドのみだ。少し離れた場所から毛布にくるまりながら一連を見つめていた。その視線はもの言いたげで少し悲しげだった。
    その視線にアピールするかのように、あちらこちらで沸き起こる音にスプリングボニーの指がかすかに動いたが、それを見る前にジェレミーの視線は下へと落とされてしまっていた。
    まるでスプリングボニーの冥福を祈るかのように、ジェレミーは俯き目を閉じていた。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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