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    まっつん

    どこにでも沸いてる悪趣味残念女子。節操がない。うちの子が好き。好きすぎて増えすぎた。創作、ポケモン(擬人化)を描いている。何かあればTwitterまで。(@mattun_ensiyupo)

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    まっつん

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    メーア(★ゲンガー♂)のネタ供養
    文章もポイできるなんてすごいよポイピク、ほんとに感謝

    #ポケ擬
    pocketComputerSimulation

    出会い


     グリンリーパが部下たちに呼ばれて駆けつけてみれば、小さな少年が墓の前で蹲っていた。痛んだ色素の薄い頭髪が、彼を捨て子であるかのように印象付ける。しかし少年は魂が形を成した、所謂モノノケの類であることをグリンリーパは予感した。この世界に迷い込んだ「行き場のない魂」を反転世界へ送り込むかどうか判断する役割を担ったグリンリーパには、こうした人の形を成した魂であっても、それがどういった都合で生まれたものなのか把握することができた。
     この少年は、どうやら別世界にあった複数の「ネコと子ども」の魂が突然変異によって融合し、形を成したもののようである。双方が結びつく要因となったのは他人に対する強い憎悪であり、少年の形となった現在もその憎悪が彼の心に渦巻いている可能性は十分なようだった。部下の一員として迎え入れるか、その感情を消化しなければ、この少年は反転世界に送らざるを得なくなってしまうだろう。
    「少年、顔を上げなさい」
     グリンリーパがそう告げれば、少年が膝に埋めていた顔を僅かに上げる。猫のような鋭い眼差しが、グリンリーパを射るように見つめた。
    「ここがどこか分かりますか? 私はこの墓地の主。その姿を取るに至った経緯は理解しましたよ」
     この言葉を聞いた形を成した魂というのは、大抵その強い感情をグリンリーパへぶつけるか、これからどうするべきかを彼に尋ね、彼の力に縋ろうとするものが多い。
     元々「死」という終末を迎えた別の世界の魂は、それが突然変異を起こして「モノノケ」になろうとも、魂一つが強い過去に縛られ生前の姿をとる「ゴースト」となろうとも、自身の「死」を自覚し自身の持つ「負の感情」が何であるかを理解して、「生前」を後悔したり懺悔したりする者が大多数である。
     ところが、この少年はグリンリーパのその言葉を聞くと一層目を細め、口を閉ざしたままであった。今までにないモノノケの行動にグリンリーパがたじろぐ。



    進化




     夜も更けた頃、慰霊塔の見回りをしていたグリンリーパの耳へ、カタン、と木製の物体が落下する音が飛び込んだ。咄嗟にグリンリーパの脳裏に浮かんだのは、3年ほど眠り続けていたゴーストの少年、「メーア」であった。
     身体の成長が止まってからと言うものの、彼の身体は本来必要としないはずの「睡眠」を求めるようになった。これは「進化」に時間がかかり、身体のエネルギーの大半を進化に用いてしまうことから起こる現象であり、つまりメーアが「進化」の時にあることを彼は察したものだった。しかし当の本人はと言えば、持ち前のちぐはぐな言動によって「睡眠は必要ない」と休息さえ取ろうとせずに何週間も目を瞑ることを拒み、やがてグリンリーパの部下から「メーアが倒れた」と耳にした時は安堵さえ覚えたほどであった。
     気絶するように倒れた彼はそのままこんこんと眠り続け、進化の可能性が確定したと考えたグリンリーパは彼を墓場にある休息用の棺に入れ、人気のない、死者のみが眠る慰霊塔に寝かせていたのである。
     慰霊塔で休息を取っていたのはメーア一人であり、メーアでないとなれば悪霊などの部外者の可能性が高く、むしろ危険な状況ということになってしまう。
     棺の並ぶ休息室を覗けば、やはり棺から起き上がったメーアが呆けている様子が見て取れた。ほとんど不死と言えるゴーストという存在にとって3年はそう長くはないが、やはり眠り続けていればそうでもないようだ。
     自分の掌をじっと見つめていた彼であったが、やがてグリンリーパの存在に気が付くと目を細め、溶けた記憶の底から拾い上げようとする姿が見て取れた。具合を聞こうと手に持ったランタンをメーアへ近づけるグリンリーパであったが、明かりの灯った彼の容姿を見て一瞬凍り付く。
     彼の痛んだ髪は、くすんだ菫色から黄土色のようなものに変わっていた。いや、それだけではない。目つきも以前から猫のように鋭いものであったが、瞳孔がそれを助長するかのように細く変化し、猫というよりも狐に似た印象を抱かせる。何より、この風貌を持つ「メーアではない」人物をグリンリーパは知っていた。
     そんなグリンリーパの心情に気づいているのかいないのか、メーアが悪戯っぽく笑って「誰だっけ?」と尋ねる。メーアにとって「久しぶり」に該当する言葉だと受け取ったグリンリーパは、別人のように変わってしまった彼に違和感を覚えながらも「不具合はありますか」と尋ねた。
     メーアが少し黙って、それから髪を触り笑顔で告げる。
    「グリンリーパ、俺忘れちゃったよ。……俺ってどんな奴だった?」
     どうやら自分でも違和感は覚えているようだ。そうですねぇ、とグリンリーパが返す。
    「君の記憶に間違いはないでしょう。……でも、どうしてそうなったのかは不明です」
     ふーん、とメーアの相槌が聞こえた。彼は棺から立ち上がるとフラフラと猫のように部屋から出ていく。
     後を追うグリンリーパを気にする様子もなく、彼が向かったのは慰霊塔内に一ヵ所だけ存在する洗面所であった。やがて洗面台の前へ設置された古い鏡を覗き込む。くつくつと小さく震えながらメーアは笑ったようであった。
     その鏡の傷や歪みが、メーアがしそうもない柔和な笑顔を作り出す。先ほどグリンリーパが思い浮かべた、「メーアではない」青年から切り出したような顔が、そこにあった。
    「……アハハ」
     メーアが鏡に額をつける。まるで鏡の向こうの人物を睨んでいるようにも見えるその表情は、しかし鏡の中では優し気なそれへと変わってしまう。
     その様子を見ていたグリンリーパであったが、やがて鏡を見つめ続ける彼を気遣うつもりで口を開いた。
    「メーア、成長を受け入れるまで時間がかかるかもしれませんが……」
    「メーア? へぇ」
     しかしその言葉はメーアによって遮られる。さも愉快気に、それでいて困惑を孕んだ表情で彼は言葉を続けた。
    「俺、ホントに長い間寝てたから、眠る前のことはあんまり覚えてないんだよね。ね、そのメーアってホントに俺のこと?」
     彼の瞳は依然として鏡へ向けられている。彼が何を言わんとしているのか、グリンリーパには分からなかった。
    「この顔の奴、俺は知ってるよ。独りで死んだ、間抜けの顔」
     その言葉でグリンリーパは思い出した。このメーアという少年が「ドッペルゲンガー」呼ばれる存在であることに。その存在を背負う以上、彼は誰かの「ドッペルゲンガー」であり続ける。
     恐らく、3年もの昏睡の間、彼の魂はその「オリジナル」を見つけ、彼は意図せずそれを模倣して進化を遂げてしまったのだろう。その間、オリジナルの意識と同調し、その存在を、「フーディン」の存在を知ってしまったのかもしれない。
     ガン、とメーアが強く鏡へ頭を叩きつけた。鏡の割れ目に沿って、まだ赤い彼の血液が流れていく。
    「……誰だよアンタ、なあ」
     彼らはまだ笑っていた。





    介抱


     夜中、自然と目が覚めたことにメーアは疑問を抱かなかった。すっかり習慣化しそうなその「時間」は、いつも丑三つ時にやってくる。
    「今日は三人」
     愛想のない、低い男性の声の主を霊界の神である「アノン」のものだと理解すると、メーアは床に敷いただけの布団から起き上がった。返事はいらない。この行為に拒否権が存在しないこと、存在していたとしても自身は受諾するであろうことをメーアは理解していた。
     無骨なログハウスの中に黒い線が浮かび上がる。やがて死人のように白い手が覗けば、メーアを細長い指で示した。立ち上がり服を整えていたメーアに黒い影が伸び、彼の姿が闇に包まれ見えなくなったかと思えば、その影から孵るようにゆっくりと白い服装に身を包んだメーアが現れる。
     神であるディビナの力を「人」に分け与え、神の代行として地上の秩序を守らせる試みが各地で起きていた。メーアもまた、アノンの指名によって「彷徨った魂を反転世界へと葬る」仕事が与えられている。
     彼の瞳はアノンのそれと同じように黒く濁り、アノンの外套を羽織ったせいか腕は消滅し、不自然に浮かんだ手の平だけが、彼に感覚を訴えることができた。また足も膝から下は溶け落ちたように存在せず、黒い雫が滴り続けている。これらはメーアの身体に異様な感覚をもたらしていたものの、痛みに訴えてくることはなかった。そう、つい先日までは。
     宙に浮かんだ手で空を切れば、ただれるようにゆっくりと大きな穴が空間に開いていく。それに怯える様子もなく、メーアが飛び込んだ。するとすぐに彼の視界は開け、月光に照らされた森の風景が現れる。場所はそう離れていなかったようだ。
     気配を感じて振り向けば、青白い炎が3つ宙に漂っていた。メーアが跳躍し(厳密に言えば跳躍するように宙へ浮かび上がって)ここに来た時のように空を指でなぞる。
    「ハイ、もうおしまい」
     ドロリと開いた闇が炎を飲み込んでいく様子を見送り、アノンに知らせようとメーアがそう呟く。返事はない。メーアがやってきた穴も、炎を飲み込んだ穴もゆっくりと閉じていく。まるで赤子が咀嚼するようにも見えるその空間の先にいるであろう神は、依然として姿を見せない。
     ぱた、と雫が落ちる音がメーアの耳に届く。気が付けば足から滴っていた黒い雫は地面を黒く染めていて、それに拍車をかけるように、浮かんだ手首の断面も少しずつ黒い液体を流し始めたようであった。身体に熱っぽさが広がり、しまいには眼前に見えるはずの手首の感覚さえ失っていく。それでもメーアの口から出るのは乾いた笑い声だけだった。
     やがてその笑い声は過呼吸のような喘鳴に変わり、彼の両手が意図せずに穴を作り出す。抑えた僅かな焦燥を覚えながら、降下する視界とバケツを逆さにしたような水音を耳にすれば彼の意識は黒く塗り潰された。


     次に目を覚ました彼の目に映ったのは、薄暗い森の風景であった。月光はほとんど届いておらず、鬱蒼とした木々の隙間から直線となって伸びる光は幻想的であった。
     どうやら彼はとても狭い、横から穴の開いた円柱のような空間でその壁に寄りかかって座っているようだ。意識を失う直前のように手首の感覚はなかった。それどころか視界に映る自身の両足でさえもが、まるで別人のものであるかのように感覚を失っている。そのせいか彼の身体は微塵も自らの意思では動かすことが叶わなかった。
     視界に映った自身の服装は、普段暗殺組織として仕事を行うものと同じであり、気絶している間にアノンが外套の回収を行ったことが分かった。
     虚無感に身を任せてぼうっと森の光を眺めて居れば、視界の隅にある中と外を隔てる影から、白い髪の女性が顔を覗かせた。
    「おお、目覚めたか。少年」
     彼女の登頂部には見慣れない三角形の獣の耳があり、時折ぴくりと動いて偽物ではないことを証明していた。更に彼女の背後にかけて白く太い毛束のようなものが9本動いている様子を見て、メーアは彼女がただの人間ではないことを悟った。服装も着物に近く、その姿は都を思い起こさせる。
     口を開こうにも自分が動かせるのは眼球のみであり、彼女をじっと見つめることしかできなかった。いつも通り様々な感情を殺して、自身の胸に「めんどくさい」という感情が湧きあがると同時に、眼前の女性は笑ってみせる。
    「はは。なんだ、そう言うな」
     一瞬のメーアの焦燥も彼女は見逃さない。テレパシーなんて珍しいものでもないさ、と告げるとメーアの視界の中央へ寄り、その表情を覗き込んだ。
    「お前、随分と身体に無理をさせたもんじゃないか。そら、身体がお前を拒絶してしまった」
     女性の手がメーアの頬をそっと撫でる。案の定、メーアは何も感じ取ることができなかった。どうやら、身体への過剰な負荷によって感覚が失われてしまっているらしい。
     女性はメーアの額にそっと口付けをすると彼の視界に彼女の全身が収まるところまで下がってから丁寧にお辞儀をしてみせた。
    「私はペクトム。お節介な婆さ。ここに帰ってくる途中、偶然お前を見つけてね。放っておけないから連れてきてしまった。敵意はない」
     婆と名乗った割に、彼女の身体に老いは見られなかった。30代半ばにも見えるその外見のペクトムは、メーアの瞳を見て頷く。
    「そうさ、メーア。私はただの人ではない。ちょいと力の強い老いた狐でね。婆の身体はリスクが多くて、この姿をしているのさ。……ああ、お前の名前とそうなった理由と、ある程度の未来はお前を見れば分かるんだよ。そう驚くことでもない」
     そしてペクトムは、メーアの左腕を掴んで袖を捲った。見れば、一年中長袖を着ていて日焼けを知らないその真っ白な肌に、黒ずんだ痣のようなものが浮かび上がっている。
    「これはお前が力を使う対価だ。あと一度でも力を使ってみろ、お前の身体は本当にお前を見捨てる」
     元のように袖を戻して彼女が告げた。別にいいけど、と心の中でメーアが自嘲した。
     心の底で、彼はいつも「ドッペルゲンガー」に怯えていた。同じ顔のそれは、彼が眠る度に彼の夢へ現れ、怒りに震えた様子でメーアへ詰め寄る。慰霊塔で眠っていた時間、彼はずっとその夢を見続けた。それからというものの、メーアは自分を偽物と意識することが増えていった。自分はどうせ、あの夢に出てきた青年の「ドッペルゲンガー」であり、「レプリカ」なのだ。
     その思いがメーアのチグハグな言動を形成し、やがてはメーア自身さえも分からなくなるほど彼の心を覆ってしまったのだ。メーアはその事実から目を逸らし続けていた。
    「よくない。お前は微塵も良いだなんて思ってないだろう」
     ペクトムがそう告げる。心を読まれることがこれほど不快なものだと彼は思っていなかった。咄嗟に、微塵も動かなったはずの口が、ゆっくりと動く。
    「さあ、どう、だろう? お前の、想像、だよ、ね」
     ほう、とペクトムが笑った。まるで悪事を働かんとする狐のように弧を描いたその瞳は、普段メーアが目にする自身の笑顔とよく似ている。
     面白い、とペクトムが呟いてまたメーアの視界に近づく。
    「だったら、婆のお節介に付き合ってもらおうか、メーア?」
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