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    u_miyu_u

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    u_miyu_u

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    丑巽さんと童の要くん ※本体くんは「ひめる」表記で双子設定です ※ここから要巽にしたいんだけどやり方がわからなくて放棄した。

    要の生まれた村において、双子は忌み子とされていた。
     村に災厄をもたらす呪われた存在。幸い両親は不吉な言い伝えを迷信と笑い飛ばす人たちで、父は村の有力者の長男であったため、要とひめるは迫害も受けることなく育ったが、家によってはどちらか片方が捨てられてもおかしくなかった。
     表立って手出しはされずとも、陰では色々言われていたのを知っているし、母は祖父母に遠慮しがちで、母子三人は屋敷の離れでひっそり暮らしていた。
     幼少期より利発で元気いっぱいだった要とは違い、ひめるは病弱な体質で、引っ込み思案な性格であった。要に言わせれば、ひめるより純粋で心優しい人間はこの村にいなかったが、同年代の童には弱虫と嘲られ、外に出ること自体怯えるようになった。父は情けないとため息を吐いたが、要との扱いで区別をつけるようなことはしなかった。
     双子の兄弟だが、先に生まれたのはひめるの方だ。要は学問を究めて、将来は片割れの補佐をしたいと願っていた。
     ――けれど、祖父母は受け答えのしっかりした要ばかりを贔屓した。自分がいるせいで、家を継ぐはずのひめるが肩身を狭くする。いくら早熟であろうと、要はまだたった十の童に過ぎなかった。大好きなひめるの役に立ちたくて、そのためなら自分がいなくなるのが一番だと思いつめた。
     もちろん、命を粗末にはしない。村を出て自活するつもりであった。屋敷の誰かにばれたら止められるから、手伝いすることで得た駄賃を貯め、路銀として蓄えていた。
     陽が沈んで辺りが暗くなり、体力が尽きてしゃがみこんだ途端、不思議な声に呼び止められた。
    「おや、迷い子ですかな?」
     だいぶ遠くまで来た気でいたが、実際は村から一里と離れていない湖のほとりに着いたに過ぎなかった。童の脚でも四半刻もあれば一周出来るさほど大きくもない湖は、これまで見たことのないほど透明で澄み切っていた。今は夜だから黒いけれど、朝になれば空の色を映して綺麗な青に染まるのだろう。
     風が吹くたび、水面が揺れて細波を立てる。なんだか胸がざわつく光景だった。
     要を呼んだのは珍妙な格好をした青年だった。年の頃は二十にも届かないであろうに、佇まいに謎の貫禄がある。地主の家でも祭りの日にしか着用しないような上等な布で出来た薄緑の着物に、漆黒で縁取られた朱い打掛を羽織っている。
     柔らかな髪の下には要と同じ耳があるのに、頭の両側から角らしきものが生えている。造り物にしてはやたらと精緻で、何より纏う空気が異様なまでに聖らかだった。
    (ばけもの……にしては襲ってこないな)
     要は金縛りに遭ったように動けず、自分を観察する何者かの顔を凝視した。瞳も髪も変わった色をしており、この世のものとは思えぬほど美しい。
    「もういちどお訊きします。君は迷子ですか、お家はどこに?」
     要はそっと視線を伏せた。
     家族にひどいことをされたわけじゃないけれど、あそこにいたら何より大事な片割れの邪魔をしてしまうと思った。ひめるは病を得やすく内気なだけで、跡継ぎとしての器量は充分持っている。なのに祖父母は要の方を優遇したがる。争いが起こる前に、自分がいなくなれば解決だ。
     ……違う。ひめるに嫌われるのが怖かった。大好きな彼や優しい両親が、自分のせいで顔を曇らせる日が来るなんてあってはならない。
     堪えようとしたのに涙が溢れて、しばらく喋れなかった。青年は咎めもせずに見守り、泣きじゃくる要に果物を与えた。その辺の木から無造作にもいだ果実は、要がこれまで見たことのない種類のものだったが、熟していてとびきり甘くて美味しかった。
     小さな実をひとつ食べただけなのに、満腹感が凄い。湖の水を掬って飲もうとすると、「それは駄目です」と止められた。何か彼なりの基準があるらしい。
    「帰る場所はもうありません」
     先刻の問いの答えをようやく返すと、青年はこともなげに首を振った。
    「嘘ですね。俺の故郷はとうに滅びましたが、君には心配してくれる人たちがいる。……要さん、呼ばれているのがわかりますか? 水面に映っています――君にそっくりな子が、必死で君を捜しているのが見えます」
     指示された通りに水面を覗きこむと、離れから滅多に出ない片割れが、村中駆けずり回って要の名を叫んでいる。履き慣れない沓のせいで足から血が流れて痛そうなのに、ぜんぜん止まろうとしない。
     続いて、別の場所を捜索する父が映った。離れに留まり天を仰ぎ無事を祈る母の姿も。
    「ここは、ヒトには異界と呼ばれるところ。君のようなさまよえる魂は、本来なら捕食対象なのですが――別に、食べなくたって困りませんし」
     さらりと恐ろしいことを言われた。
    「攫ってしまうことは容易いですが、今日のところは無事に帰してあげましょう」
    「待って、ください。――あなたの、名前は?」
     目の前の綺麗な男は、どうやら異形のものであるらしいが、身の危険は感じない。要を害するなら見つけた段階でしているだろう。相変わらず手足は動かせないが、声は出せるので、せめて会話をしようと頑張った。このまま何もせず家に帰るのではあまりに不甲斐ない。
    「俺の名前は巽、です」
     たつみ。舌で転がすように要がその名を呟けば、青年はやけに眩しそうに瞳を細めた。まるで、久方ぶりに誰かに呼びかけられたかのような。
    「それでは要さん、お元気で」
     急に視界が暗転した。深い穴に吸い込まれていくような感覚。
     ……瞼を開くと、要は隣村の空き家に横たわっていた。
     湖のほとりで過ごしたのはほんの僅かな間だったのに、こちらの世界では二日以上が経過していた。あちらとは時の流れ方が異なるのかもしれない。
     父母とひめるにはさんざん怒られた。童の頭でいくら計画を練っても、一晩越すのさえ難しいことを要は学んだ。
     やるならもっと成長してから。それから、事前にひめるにだけは教えておくこと。無断で出て行くと、倒れるまで捜索されてしまうことが判明したので。翌日からひめるは高熱で半月寝込む羽目になり、要は献身的に看病した。
     考えてみれば、要だってひめるが行方をくらませば同様の反応をするだろう。嫌われるなんて杞憂もいいところだった。
    「俺は、要の方が跡継ぎに向いてるんじゃないかって思うけど、要はこんな小さな村で一生を終えるのはもったいないことだよ。町の大きな学問所へ入って、自分の可能性を試してみなよ。それで帰りたくなったら、いつでも戻ればいいからさ」
     ひめるが熱心に後押ししてくれたおかげで、渋っていた祖父母も認めてくれた。十四の春、親類の伝手を頼って単身町へ出た。多くを学べば村の発展に活かせそうな気がしたし、要の最終目標はひめるの傍に居て彼を支えることだった。
     その夢が揺らぐことなどないはずだった。

     親類の家に居候し、学問所でも秀才の誉れ高かった要の元に、故郷が未曾有の大災害に見舞われたとの報せが届いたのは、要とひめるが十七になった年である。
     村にもっとも近い川が、雨が続いたせいで氾濫を起こしたこと。大規模な洪水に、村人は高台に避難して生き延びた、沈んでしまった家も多く、倉に貯蔵していた収穫物の大半が流されてしまった。
     命を繋げただけましなのかもしれないが、納める年貢には到底足りず、村人たちの食い扶持を減らして対応することになった。これから厳しい冬が来るのに。
    (このままでは、体力のない年寄りや子どもから死んでいく)
     ひめるからの書状は、「要は何も気にせず勉学に励んでください」と結ばれていたが、自分だけ安全圏で暢気に過ごすのは心が痛む。その日のうちに学問所に事情を話して、里帰りの許可を貰った。
     微力でも手を貸せたらと、三年ぶりに故郷の土を踏んだ要は、予想を超えた惨状に目を瞠った。
     修理せず放置されたあばら家に、荒れ果てた畑、立派だった倉が倒壊した地主の屋敷。生家はかろうじて無事だが、離れは人の気配もなくしんとしている。
    「……やっぱり帰って来ちゃったのか」
     背後でため息を吐いたのは、己と同じく十七に成長した片割れだ。瓜二つの容貌ながら、ひめるは別れた日からる影もなく痩せていて、顔色も白く幽霊みたいだ。
    「うちは日頃からしっかり備蓄してたから、損害はほとんどなかったんだけど――父様も母様も、困ってる村の人たちに惜しみなく米や芋を分け与えて、自分たちは食べなくても平気だとか強がるんだ」
     十条家は代々の当主が人望を集めてきた一族であり、父もひめると要も質素な食卓に慣れ親しんでいた。余った収穫物は足りない家に回し、翌年に備えるのが通例だった。けれどお人好し過ぎるきらいがあり、困っている人を放置しておけない。その点でひめるは要よりよっぽど跡継ぎに向いていた。
     非常時は滅法頼りになるが、長期間その体制を続けるといずれは底が尽きる。収穫の季節はとうに終わっているのだ。

    (俺が、不思議な湖のほとりに迷いこんだのも、真冬じゃなかったか?)
     童の頃の朧気な記憶をたどれば、空にはちらほら雪が舞っていたような気がする。だからこそ発見された時、凍死するところだったと雷を落とされたのだ。
     学問所の図書室で調べたところ、要の故郷の周辺地域には古来より丑神伝説があって、村でも遠い昔は生贄を差し出したりしていたらしい。ほとんど効果がないので取りやめになった風習だが、生贄にはよく肥えた家畜や、幼い子どもを選んだ年もあったとか。当時の人は、そんなものが豊穣をもたらすと本気で考えていたのだろうか。
     要もひめるも、丑神信仰の話は聞いたことがない。しかし言われてみればたしかに、あの角は丑っぽかったような――
    (巽が、「丑神様」?)
     湖のほとりで一度会っただけの青年は、捕食だの何だの恐ろしいことを言っていて、明らかに異形だった。もっとも、神とは本来人間の理解を越えた存在であり、要を帰したのも単なる気まぐれだったのではないか。あの場で童ひとりを食べてしまうことくらい容易かったはずだ。
     ろくに会話をしなかったから、巽のことは名前しか知らない。ずいぶんと優しげな顔立ちをしていたし、果物をくれたり家族の様子を教えたりと親切だったが、神様だから弱い人間に手を差し伸べてくれたのだろうか。
     再びあの地へ赴くことが叶って、村の窮状を訴えれば、もしかしたら助けてくれるかもしれない。何もせず全滅を待つよりは、砂粒みたいな望みでも縋りつきたい。
     果物ひとつとっても、小さな実を口にするだけでお腹が膨れたのだ。あれを籠いっぱいに詰めて持ち帰れば、ひと冬くらいはしのげそうだった。
     村人全員とは言わない、譲ってばかりの父母の分だけでいい。あいにく要は聖人君子ではないから、すべてを救うのは無理だろうと割り切っている。せめて身近な人たちの命を守りたいのだ。
     けれど、成長して村の外に出かけるようになっても、あの不思議な場所への行き方はわからなかった。巽は「さまよえる魂」と表現したが、悩みを抱えた者のみがあそこへ迷いこむのかもしれない。
     今、要は切実に丑神の力を必要としている。祈る心が天に届くなら、もしかしたら――僅かな可能性に賭けて、隣村との境目を歩く。もちろん、空っぽの籠を携えて。
     思いつめた表情でうろうろしている姿がよほど憐れだったのか、途中からひめるも付き合ってくれた。暗く静かな道も、独りじゃないというだけで心強かった。
     こんなのは現実逃避に過ぎないとわかっている。朝になればちゃんと地に足着けた解決策を考えるから、夜が明けるまでは許して欲しい。今夜は不安に苛まれて眠れそうになかった。
    「要がいなくなった時は、俺も父様も母様も生きた心地がしなかったんだけど、そんな不思議な場所に行ってたの? いいなあ、俺も行きたい」
    「……夢とか幻の類だったかもしれないぞ」
     体力が尽きて隣村の空き家で倒れていた間に見た、現実には有り得ない光景。ただ、夢で片付けるには不可解な部分もある。目覚めた時の満腹感もそうだし、眠り続けたのに凍死しなかったのも変だ。
    「でもさ、ここは隣の村か? 見覚えがまったくないぞ」
     童の頃ひどく遠く感じた距離は、成長した今では四半刻もかからず、要たちはとっくに隣村に足を踏み入れているはずだが、辺りに建物ひとつなく、人が暮らしている気配もしない。
     気が済むまで歩いたら引き返すつもりだったが、これはもしや――あの日と同じ空間にたどり着いたのだろうか。
     やがて、記憶にあるのと寸分違わぬ湖が視界に飛び込んできた。不気味なまでに澄んだ水で満ちた湖は、どこか重苦しい。寒い季節というのに周りの木には実がたわわに成っており、その美味しさを思い出した要はごくりと唾を呑んだ。
    「おや、君は――大きくなられましたな」
     あれから七年も経ったのに、巽の外見は些かも変わっていなかった。派手やかな服装をした同じ年頃の青年を、ひめるは興味津々に観察している。物怖じしない度胸がつくづく凄いと思う。
    「この地に二度、生きたまま訪れる人は珍しいです。せっかくお家に帰してあげたのに、なぜまた来たんですか」
     呆れたように言われたが、要は怯まずに心の中で何度も練習してきた科白を唱えた。
    「丑神様、どうか俺たちの村を救ってください」
     両手を地に這わせて頭を垂れる。慌ててひめるも倣ったが、交渉するのはあくまで要一人だ。
    「対価は、この身ひとつで足りますか」
     ひめるに聞こえないよう小声でささやいた。代償なしで願いだけ叶えてもらおうだなんて烏滸がましい。籠一杯の果実と引き換えに、己が命で済むなら安いものだ。ただし、ひめるには指一本触れさせない。
     巽の穏やかな微笑がはじめて歪んだ。綺麗な双眸に睨まれると数段迫力が増した。
    「自己犠牲とは感心しませんな。村の人たちは君だけ差し出して助かるつもりなのですか?」
    「いいえ、俺の独断です。村人全員を助けて欲しいとも思っちゃいない。父母と、将来を担う子どもたちだけでも生き延びさせてください」
     非常用食料は、働き盛りの男に優先的に割り当てられる。けれど男たちが無事でも、女や子どもが死に絶えたら、著しく人口が減る。長い目で見れば、女性や幼子を保護するべきだが、頭の堅い老人ばかり発言力があるからどうしようもなかった。……大人になったら改革に着手するつもりだったのに。
     村そのものが存続の危機に瀕しているのだ、次世代への課題は片割れに託そう。自分も傍に居て補佐したかったのだが仕方ない。
    「俺は、神様などではありません。ここから動けませんし、村を救うなど無理な相談です。けれど、木の実を摘むのはご自由にどうぞ」
     要とひめるが瞳を輝かせると、次の瞬間釘を刺された。
    「ただし、君の言葉は取り消せません。要さんはここに残って、俺と共に暮らして行くことになります」
     食べられるのを覚悟していたので、命を奪うわけではないと言われて逆に驚いた。あの赤い実は明らかに普通の果実じゃないし、持ち帰ったら恐ろしい高値で取り引きされそうだが、要もひめるもそんなつもりはない。どうにか目先の冬をしのぎたいだけだ。
    「……私利私欲の願いなら却下したのですが」
     短い沈黙ののち、巽は深く溜め息を吐いた。
    「要さん、ひめるさん、二人で手分けして赤い実を採ってください。俺も手伝います。それから、まずひめるさんと籠を村にお帰ししましょう。要さんには俺から話があります」
     ひめるは素直に頷いたが、要はぎゅっと目を瞑った。最愛の片割れとの、永久の別れ。赤い実を摘み終えたら、要は故郷にも学問所にも戻らずこの地で生きる。
     巽の気が変わったら、すぐに殺されるのかもしれない。それでも良い、ひめると離れて生きる日々なんて責め苦みたいなものだから。
     学問所の仲間たちに別れの挨拶も出来なかったのは残念だが、仕方ないだろう。

     この時の要は、巽のことを何もわかっていなかった。
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    にし乃

    REHABILIマシュマロでアイディアを頂きました、『夏♀に暴言を吐く五』の呪専時代の五夏♀です。
    ここには捏造しかないので、何でも楽しんで下さる方のみどうぞ!
    ちなみに夏♀の寮の部屋は二階にあることになっています。学校の見取り図が欲しい。

    冬に書き始めた冬のお話だったのに、気付けば三月になっていました。遅くなってしまって申し訳ありません…。マシュマロを投げて下さった方、本当にありがとうございました!
    冬の寒さに書いた文字冷え込みの厳しいある冬の朝のこと。

    「さむっ。」

    家入はぶるりと身震いをしながら、古びた校舎の廊下を歩いていた。窓から見える空は鈍色をしていて、今日の午後から雪の予報が出ていたことを思い出した。気象予報士の話が本当ならば、それなりの積雪になるであろう。彼女は雪が積もって喜ぶような子どもではないので、邪魔くさいな、と思うだけであった。

    教室が近付くにつれて、聞き慣れた喧騒が耳に届く。たった二人しかいない同級生が、また何やら騒いでいるらしかった。
    半開きになった扉から中を覗くと、案の定夏油と五条が言い争いとまではいかぬ口喧嘩を繰り広げていた。

    「いちいち突っかかってきて君は本当に鬱陶しいな!」
    「鬱陶しいのはお前のワケ分かんねー前髪だろ!」
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