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    moldale912

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    moldale912

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    一次小説冒頭のつづき。

    まだ先は未定ですので、変わる可能性大ですがもし良かったら読んであげてください。
    現代イギリス・少し不思議話・多分兄弟ブロマンスもの。

    #オリジナル
    original
    #小説進捗
    novelProgress

    わたしとワルツを(仮)何故こんなにも緊張しなければならないのか。ステラは一口、また一口とエールを口に含む。異様に口が乾くのだ。
    その緊張の根源であるセスはと言うと特に話させようと急かすでもなく、時間をかけて煙草を吸っていた。時折、器用に煙の輪っかを作っている。
    「あの」
    「うん?」
    「占い師か何かなんですか…?」
    「そう畏まらなくても」
    ようやく話し出したステラがあまりにも強張った様子だったからか、セスは肩を揺らして笑った。
    「占い師とか探偵とか大したもんじゃないよ。ただ昔から第六感みたいなのが強くて」
    「……超能力ってこと?」
    超能力ねえ、とセスは呟いてから、煙草を持っていない方の手で人差し指をすっと立てる。
    「人の考えてることとか、場に残った念みたいなのを感じやすい。だから」
    そこで切るとセスは指先を口元に当てて、ニヤと笑った。
    「お姉さんが今えっちなこと考えてるのも分かるよ」
    「考えてないけど!?」
    聞き捨てならない台詞に思わずステラが顔を赤くして抗議すると、わかってるよとセスは楽しそうに笑った。ステラ側は真剣なのにセスはあくまで緩い空気を纏っていてまるでどこかの会社の面接のようだ。
    「今のは冗談だけど、植木鉢が落ちてきたのは本当だろ?」
    鋭く睨んだステラがエールの残りをぐいっと飲み干した。
    「そうだけど……それで?そういうの、解決ってできるの?」
    半信半疑を隠すことなく尋ねると、セスは首を横に振った。
    「それはまだ分からない。とりあえず話を聞いても?ええっと」
    「ステラよ。ステラ・ハント。……そういうのは分からないのね?」
    「お姉さんが全力で名前を念じてくれたら分かるよ」
    一瞬の沈黙。セスが初めて眉間に皺を寄せた。
    「……なんでレディ・ガガ?」
    「すごい!本当に分かった!」
    「…思ったよりメンタル強そうなのは何より」
    セスは煙草の灰を灰皿に落とすと、テーブルに前のめりになった。煙草にはまだまだ燃える余地がある。
    「…それで聞くんだけど、運が悪くなったのは一か月ぐらい前から?」
    「そうね……最初はスニーカーの紐が切れたのよ。それで次の日に靴紐を買いに行ったら、探してるメーカーのやつだけ無くて…」
    「分かりやすく運悪いな」
    「でしょう?それから細かく言うとキリがないぐらい」
    詳細に語った方が良いかと聞けば、セスは首を振った。正直ステラとしては思い出すほどに頭が重くなっていく内容なので、聞かずにいてくれるのは有難かった。
    「一か月前に何かあった?」
    「何かって例えば…?」
    「他人の恨みを買ったとかさ」
    セスの出した例に、ステラはどこか腑に落ちず唸った。
    真面目に毎日を生きているし、特別他人に冷たく接しているわけではないが、人間生きていれば恨みを買うことぐらいあるだろう。
    それで運勢が悪くなっていては、本当に対処のしようなど無いのではないか。
    「逆。人間の仕業なら対処のしようがあるんだ」
    「……頭の中を読まないでもらえる?」
    ステラがじとりと睨むものの、効果はほとんど無いようだ。セスは肩を竦めて煙草を咥えた。
    「これが本当に謎の力で起きている不運ならどうしようもない。諦めてお祈りでもしながら毎日を過ごすしかないよ」
    「でも恨みなんて誰から……」
    「ん…?あー、ごめん。言い方が悪かった。恨み、執着、恋……なんせ人から熱心に思われるようなことは無かった?そうだなぁ…」
    とんっ、とまたセスが煙草の灰を落としてステラの眼を見つめた。
    まただ、何かを見られているのだ、とステラは視線を外して少しだけ身を引いた。きっとそんなことをしても意味は無いのだろうけれど、まるで裸にでもなっているようで落ち着かなかった。
    時間にして数十秒、しかしステラにとっては長すぎる空白の後、セスは煙草の火を向けながら口を開いた。
    「……その、猫のぬいぐるみは誰に貰った?」
    「え?」
    ステラは一瞬何を言われたか分からなかった。ぬいぐるみなど持っていないが、セスは真剣そのものだ。
    ステラがきょろきょろと自分の周りを軽く見渡してぬいぐるみを探そうとすると、セスはその動きを制して言った。
    「ちがうよ。家に、無い?」
    「家にぬいぐるみはあるけど…、たくさんあるわね」
    二十五歳にもなって、と思うがステラはぬいぐるみが好きだ。見た目は可愛いし、ふわふわのさわり心地に癒される。
    猫のぬいぐるみも確かに持っているが、思い出せるだけで三つあるのだ。それぞれ貰い物なので、どれのことだろうかと首を傾げていると、セスはまるで遠くのものを見るような目をして続けた。
    「大き目の白い、女の子から貰ったやつ…」
    そこまで言われれば、ああアレのことかとステラも思い至った。一体セスに何が視えているのかとも思うものの、確かに“女の子”から貰ったぬいぐるみはある。
    「あるわ。妹から貰ったものね」
    「ふーん、妹……」
    「何よ…それがどうしたの…?」
    前のめりにテーブルに肘をついていたセスが、ギッと音を立てて椅子にもたれた。あーとかんーとか呻きつつ、しばらく考えるように目を閉じた。
    ステラがねえ、ちょっと、と声を掛け続けてもセスは反応を返さない。待つならすっかり飲み切ったエールをまた頼もうかと思ったその時だ。
    セスはパッと目を開いて大きく頷いた。
    「今日はもうここまでにしよう!」
    一瞬、呆けたステラを誰が責められるだろうか。肝心な情報が何一つ得られないまま放り出されるのかと、思わず体を乗り出して声を荒げた。
    「ちょっと!一番気になる所で止めないでくれる!?それに今日はって、またここに来いってこと!?」
    「いや、次はこっちに来て」
    話を聞いているのかいないのか。ステラが噛みつくのも構わず、セスはポケットから財布を取り出すと、そこから一枚のショップカードを差し出した。
    困惑しながらもステラはそのカードを受け取った。どうやらこの付近にあるカフェのカードのようだ。『アンジェリカ』という店名、簡単な地図付きの住所、そして電話番号が記されている。
    「カフェ…?」
    「そう。できればそのぬいぐるみも持って来てくれ」
    「だから、あれが何なのって…」
    噛みつくステラにセスはひらひらと手を振った。
    「俺もまだ分かんないけど、これ以上視るとお姉さんの一人エッチまで視えるんだよ」
    後半は小声で伝えられた。しかし思わず右手を振り上げそうになったステラである。
    「な……ん…ッ」
    震える手はなんとか赤い顔を覆うだけに留まったが、そんなことは気にもせずセスは続けた。
    「あと、まっすぐ家に帰るなら今日はもう大丈夫だよ」
    大丈夫。大丈夫とは。とステラが一瞬呆けた顔をした。そしてすぐに思い至ったのはつい先ほど落下してきた植木鉢だ。
    もしや家に帰るまでの安全を保障されたのだろうかと、到底信じられない話にステラは疑惑の表情を浮かべた。
    「ええ…?」
    「そのカードご利益があるんだ。ほら、ちゃんと仕舞って」
    カードはよくある厚めの紙に文字がプリントされているだけで、特に変わった点は見られない。しかし、セス自身が説明のできない能力の持ち主なのだから、このカードにも本当に“ご利益”があるのかもしれない。
    ステラはどことなく異様なものを扱う気分で、カードを鞄の内ポケットに仕舞った。
    「……このカードがあったら私の不運は無くなるの?」
    「あんまり長持ちしないから、またすぐおかしなことが起きるんじゃないかな」
    「はぁ、解決にはならないのね…」
    「お姉さんが思ってるより、厄介事かもよ」
    セスはそう言うと椅子から立ち上がって、さきほどの男性店員が佇むカウンターへ向かった。まだこのバーにいるつもりなのか、新たに注文している。
    ステラが鞄を肩にかけて、同じ店員にグラスを返す。どうも、と晴れやかな笑顔を向けられて店内なのに少し眩しい気分になった。
    「……今日はもうこれ以上何も教えてくれないのよね?」
    「うん。ひとまず今日は早く帰って大人しく寝るのを勧める」
    「そうするわ……明日、絶対行くからちゃんと説明してちょうだい」
    セスはまたひらひらと手を振って了解を伝えた。
    これ以上は食い下がっても無駄なのだろう。
    またのお越しをという男性店員の声と、どこからか聞こえるみゃあという鳴き声を背中に受けて、ステラは店を後にする。
    外に出れば、どこか生温い空気が頬を撫ぜた。
    急に降りかかった災難の数々も奇妙ではあるが、それらを上回ってここ一か月で一番奇妙な夜だったとステラは思う。
    それから帰宅するまでの徒歩十五分ほどは、何のアクシデントも起こらなかった。
    半ば唖然としながら家の玄関で立ち尽くしていたが、時刻はすでに二十二時近い。ステラはてきぱきと遅い夕飯を食べて、珍しく湯舟に浸かり、スマートフォンでSNSをチェックしながら就寝の準備をする。
    ついでに、と鞄からショップカードを取り出して、明日向かう予定のカフェをネットで検索することにした。しかし店名を検索にかけても大してヒットする情報が無い。
    今時SNSもやっていないカフェだなんてどういう場所なのだろうか、と情報ページをスライドしていく。
    ようやく見つけたのは、店にひどく美形の店員がいる、と騒いでいる一人の女性のSNSだ。穴場的なカフェで人の入りも少なく、メニューに何故かグリーンティーがあるらしい。
    「なんでグリーンティー…?」
    写真もアップされているが、残念ながらコーヒーとケーキの画像だけだ。
    行ってみるしかないか、と腹を括ったステラがふとカードの裏を見ると、そこには丁寧な文字で『幸あれ』と書かれていた。セスが書いたものだろうか。
    「幸運、か」
    ステラはカードを仕舞ってベッドに転がると、枕元の猫のぬいぐるみを撫でた。
    妹から貰った大きな白猫のぬいぐるみは可愛らしくウインクをしている。そのぬいぐるみの首には、同じく『幸あれ』と刺繍された首輪が付いていた。
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