2022.05.07
あたたかな食事。和やかにはずむ会話。ソファには、ここが我が城とばかりにくつろぐクーと、腹いっぱいになってすやすや眠るショコラ。招いてくださった羽佐間先生に、いの一番におめでとうを伝えてくれた来主。迎え入れてもらえた空間の、今日の主役は俺らしい。
リビングへ足を踏み入れて早々、覚えたてらしく音の外れたバースデーソングと、美羽ちゃんに借りたらしいクレヨンの成果を贈られて、おまけに紙の輪を結んだ首輪まで掛けられて。それらを与えてくれた、俺を会場へ誘い込んだ当人はずっと上機嫌に揺れている。
「きれいなごはんとー、主役の証とー、おめでとうの歌の次はねえ。おかあさんのケーキ! すごいよね、なにをお願いしてもぜーんぶきれいなの」
「操も手伝ってくれたのよ。生クリーム、一生懸命泡立ててくれてね」
華やかなテーブルクロスの真ん中には、真っ赤ないちごを乗せたホールケーキが陣取っている。むらなく塗り広げられた純白の生クリーム。リボンのように絞り出された土台。咲く花を模して飾られたいちご。包丁を入れるのがもったいないくらい、きれいに作り上げられたもの。
「さ、どのくらい食べられる? 欲しいだけ言って頂戴ね」
「ありがとうございます。この……くらいなら、おいしくいただけると思います」
「いちごたくさん乗せたから、どこを選んでもおいしいよ」
「ああ。来主もありがとう」
シンプルなケーキは、同級生から伝え聞くばかりで、俺には与えられなかったものだ。俺も頼んでおこうかなと、冗談めかして名を舌に乗せた事もあったけれど。
「これも、俺のために作ってくださったんですか?」
「もちろん。最初のお祝いだから、まずはスタンダードなものにしたの。来年は甲洋くんの好きなケーキを作るわね」
「次も、呼んでくださるんですか?」
「ええ。一緒にお祝いしましょうね」
覚えていてもらえるだけでじゅうぶんうれしい。だけどこれは俺のためのケーキ。俺を主役にしてくれるもの。
羨んだ薄暗い感情を消し飛ばすほどにいっとう輝いて見える紅白が、切り分けられてそれぞれの皿に並ぶ。
眠っている二匹は同じ物を食べられない。たしか、彼女たち用のケーキレシピも探せるはずだ。来年も招いてもらえるならば、小さなものでも用意しよう。
「……来年もこれがいいです。来年も、その先も、できれば、この五人で」
「未来のことまで決めちゃっていいの?」
「いいんだ。こうして欲しいって希望だから」
望むことを許される場所。それを口にしても、疎まれない場所。どんなに居心地が良くっても、決して俺の家、とは言えないだろうけど。
「ずっと、このケーキを誰かと食べてみたかったんです。だから、来年もこれがいい」
微笑みを与えてくれる人が、ここも俺の居場所だと教えてくれる。生まれたことを喜んでいいのだと伝えてくれる。人のまま祝ってくれるこの場所に、これからもいていいのだと。
「楽しみにしていてね。腕によりをかけて作るから」
「はい。楽しみにしています」