夏になると、校舎脇のプールに水が張られる。体育の授業に入る機会しかないそれは、日差しを浴びてゆらゆらと煌めいている。刑部からしてみれば風呂とは違う、泳ぐための施設と教えられても、何が楽しいのか今一つ理解できなかった。
海も市民プールも、カタギの人を驚かせてはいけないからと山浦や祖父から行けないのだと昔から教えられていた。
たがら余計に、自分とは縁のないものと思っていたのかもしれない。
「晃、本当に行くのか?」
夏とはいえど、八時も過ぎれば夜の帳が降りてくる。その暗闇に便乗して、桐ケ谷とともに夜の学校に潜入した。
「当たり前だろ。なんだよ、怖気ついたのか」
「そんなことないさ。先生に見つかったら、俺は桐ケ谷を止めに来たと言うからね」
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