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    sangatu_tt5

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    sangatu_tt5

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    戦鴆🤕🔮
    試し行動と増長した欲望の話

    #傭占
    commissioner

    試し行動 イライ・クラークは試し行動をする人間だ。
    いや、する人間になってしまった。

     カシャンと音を立てて落ちたスプーンを彼は見下ろす。かがんで、拾おうと手を伸ばしもせず、食事をする手も止めた彼がなにを望んでいるかなど簡単に理解できた。近寄り、スプーンを拾って、新しいものをテーブルのうえに置く。
     すると、再びカシャンと音がした。
     スプーンが床に落ちている。彼はまたつんと澄ました顔でそれを眺める。
    「イライ」
    「なんだい?」
    「行儀が悪いぞ」
     むっと唇を尖らせ、すねた真似をする彼は片肘をテーブルについて、スプーンを指さした。
    「拾って」
    「わざと落とすなら拾わない」
    「わざと落としたって証拠はあるのかい?」
     子どものような屁理屈にため息が出る。なんて餓鬼だ。しかして、彼はもうそんなわがままを許されるほど幼子でもない。
    「イライ」
    「君もわたしを裏切るのかい?」
    「裏切るってお前、そんな大それたことでもないだろう。行儀が悪いし、態度も悪いからやめろ、と言っているだけだ」
    「……」
     黙りこくって、ただただその青い瞳をつり上げた。
    「次は落とすなよ」
     拾って、また渡せば、そのまま目の前でイライはスプーンを床に捨てた。
    「君だってわたしを裏切るんだ」
     イライは立ち上がって、部屋を出ていった。食事はほとんど口がつけられていない。
     はあ、と大きくため息を吐き出せば、とんっと一度、扉をノックする音がする。

    「イライ不機嫌だったね」
     マイク・モートンがにやにやと笑いながら、イライが座っていた席に腰掛ける。そのままイライの食いさしを口に運んだ。
    「おいしいのに」
    「なにかあったのか?」
    「なにもないよ。僕は知らない。でも予測なんて簡単につくでしょう」
     まあ、そうだ。簡単につく。イライ・クラークが癇癪を起こす理由なんて限られている。
    「でも、まあかわいらしい癇癪だよね。スプーンひとつ床に落とすだけなんだもん。僕なら、このスープを床にこぼすし、このステーキを君に投げつけるね」
     彼は厚切りのステーキを切り分け、口に運んでいく。
    「はあ、面倒くさい」
    「あーあ、聞かれたらまた拗ねるよ。いや、”視られた”らかな?」
     けたけたと笑うマイクを無視して、侍女に片づけを命じる。この屋敷はそれなりに大きい。それなのに雇われている使用人たちは極端に少なく、入れ替わりも激しい。この新人の少女もイライの癇癪を初めて目にしたのか、不安そうな顔をしている。
    「大丈夫だよ、お嬢さん。彼は君たちに対してひどいことをするひとではないから。大丈夫、大丈夫。一応僕たちは“正義の味方”だからね」
     狡猾な狐がよく言う。正義とは強いものを指す言葉だ。いや、逆だ。弱いものが悪。負けたほうが悪。ならば、俺たちは現在進行形で正義と悪の陣地争いをしているところだ。
     正義になるために、マイクもイライも俺も手段を選ぶつもりは毛頭ない。だから、そんな善人面などするべきではない。非難の感情が視線に含まれていることに気が付いてか、マイクはゆっくりとまなじりを細めた。
    「それより、早く、イライを追いかけないと。面倒くさいことになるよ」

         ♢♢♢

     もともと、イライはマイクが言うとおりわかりやすい“善人”だった。彼は本当の意味で悪をくじき、弱者を守ろうとしていた。しかし、虚妄の宴によって、彼は本来の純粋さを失い、他人を疑っては試し、金銭ばかりに縋る人間となった。
     それは彼が持つ瞳の代償だったのかもしれない。
     他者への懐疑心は末端からついに俺にまで訪れた。

     彼の寝室の扉を叩く。トントン、返事は当然ない。トントン、追加で叩いても、返事はなく、彼の不機嫌具合が伝わってくる。
    「イライ、いるんだろう? 次、返事がなかったら入るからな」
     トントン、と先ほどよりも強く扉を叩く。そして、彼の返事を待つ間もなく扉を開けた。
    「っ! なんで‼」
     イライは悲鳴のような声を上げるが知ったことではない。硬貨が転がったベッドに彼を倒して、上に覆いかぶさる。彼は少しだけ暴れるそぶりを見せて、すぐにくつくつと喉奥で笑った。
    「そうだ、そうだ。君も裏切るんだろう? いいさ、予言のとおりだ。彼女もそうだった。わたしを捨てた。この世で裏切らないのはこればかりだ」
     手首を縫いつけられたままにもかかわらず、彼はすとんと体から力を抜いて、空いた手で転がった硬貨を撫でた。
     腹が立つ、腹が立つ。この男は諦観を覚えてしまった。自分を置いて行ってしまった婚約者を追いかけることもせず、いまそばにいる人間の心を信ずることもできず、楽なほう、楽なほうへと逃げている。馬鹿な男だ。愚かでどうしようもなくて、いとおしい。
     ぺらぺらとこっちの感情を決めつけて、喋る口を塞ぐ。噛みつくような口づけにイライはきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。
    「普通はナイフかなにかで刺すものだ。毒でも飲ませるなら、口に流しこまないと意味がない」
    「なんで、俺がお前を害す前提で話が進むんだ」
    「じゃあ、なんで、君はわたしを押し倒しているんだい」
     イライ・クラークはひとが信じられなくなった。ただその反面で、まだだれかを信じたいと願っていて、そばにいてほしいと心が泣いている。だから、何度だってひとを試すような行動をとる。子どものような大人だ。かわいそうに、だからこんな大人をそばに置くことになる。こんな、身のうちまで潜りこませてしまうのだ。
    「……その目を使えば、俺がこれからすることなんてわかるだろう?」
     怪訝そうに眉をひそめたイライは素直にその目の力を使った。こういうところが幼く、純粋なままだ。
     大きく目を見開いて、イライは体をよじった。一生懸命抜け出そうとしている。この先、なにが起きるか理解したのだろう。
    「イライ、お前がひとを信用できないなら、俺はわからせるまでだ」
    「ッ、いらない、そんなの、わたしはただ」
     彼の詰まった襟元を開いて、白い首に噛みつく。
     虚妄の宴、あれはひとの弱さ・欲望を増大させる。イライは過分の力によって燻っていた自尊心を増長させ、同時にすべて失った自分を受け入れてくれる存在を求めた。同様に、同じ宴に参列した俺だって同じように欲望が増長している。
     はねる体に、こぼれる吐息。さんざめと涙をこぼすイライを見下ろして、俺は喉奥で小さく笑う。孤独なんていくらでも埋めてやるのに。

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    kawauso_gtgt

    DOODLE探占続き。それぞれの価値観とは。それ故にか荘園には定期的にメンテナンス日が設けられる。
    イライはどうやら同世代の女性陣に捕まっているらしい。
    元来そういった性格なのか。小さなものではあれをとって欲しいだの何を探しているだの、大きな物なら代わりに試合に出てはくれまいかと。余程の事でなければイライは大抵の頼み事を請け負っていた。
    ノートンにはわからない感性だ。なんの見返りもなしに誰かに奉仕するだなんて理解ができない。正直にそう告げたとしても、きっとイライは困ったように笑うだけなのだろうが。
    今日はエマとトレイシーに捕まったようで庭の片隅にある花壇の手入れを手伝っているようだった。庭師である彼女が丹精込めて育てた花は色とりどりで、どれもが活力に満ちた鮮やかな色を纏っている。
    「……不細工な笑顔」
    窓の外。エマに腕を引かれながらイライは及び腰で彼女の跡をついていく。柔らかな日差しの中で色鮮やかな花々に囲まれるその姿はまるで一枚の絵画のようで。
    ノートンはそうした芸術には明るくないから分からないが。
    似たような絵画が館のどこかに飾ってあったのを見たことがあった気がした。
    ***
    コンコンと軽いノックの後、「ノートン、入るよ」と 1329

    kawauso_gtgt

    PROGRESSここからすけべに発展するなんて誰が思っただろうかの探占今日のハンターはどうにもやる気がなかったらしい。
    一人黙々と暗号機を回していれば無線越しに聞こえてきたのはなんとも気の抜けた鼻唄とその向こうできゃっきゃと騒ぐ味方の声。ハンターと馴れ合う気などさらさらないがそれならそれで都合がいいと次から次へと暗号機を解読して脱出を果たしたのが今朝のことだった。朝一番の試合がそんなだったおかげでまだ昼前だというのにどうにも小腹が空いて仕方がない。見つかれば叱言を言われるだろうと思いつつも腹の虫を放って置くこともできない。出来ることならば誰にも会いたくないと思いつつも、ノートンの足は自然と食堂へ向かっていた。
    「イライさんの婚約者さんってどんな人なの?」
    食堂の扉を開けた瞬間聞こえてきた声に、ノートンはぴたりと一瞬足を止めた。それから声のする方へと視線を向けて、再び歩き出す。
    「え、ええと。私の話なんて別段面白くないと思うよ」
    「そんなことないよ! ボクも聞きたいなぁ、あ、話したくなければ無理にとは言わないけど!」
    どうやらノートンの予想は大外れだったようで、食堂には既に幾人かの先客がいたようだった。ノートンと同じように小腹を満たしにきたのか、個別で席に 1465

    kawauso_gtgt

    PROGRESS下書き。書き初め探占。hmhjmないで初詣に行くゆらゆら、とぷん。
    薄暗い水底に沈んでいた意識がゆっくりと引き上げられる。うっすらと重たい目蓋を開けるとぼやけた視界に己を起こそうと躍起になっている同居人の姿が映った。
    嗚呼、どうやら自分は炬燵で眠ってしまっていたようだ。
    寝落ち特有の気怠さからノートンはもう一度卓に頭を突っ伏す。少しだけ首を動かし腕の隙間から覗いた先には几帳面に積み上げられたみかんの山と、その隣に転がる中途半端に皮の剥かれたはぐれものが一つ。
    その隣に並んだ度数の割に飲みやすい! とCMで最近よく見かける缶チューハイの空き缶を眺めながら、ノートンは自身が寝落ちる前の記憶を思い返していた。
    そういえば、寝落ちる前に食べようとしたんだっけ。
    ぼんやりと右往左往していると思考を引き戻すように、同居人──兼恋人であるイライ・クラークは再度ノートンの腕を掴んで小さく身体を揺すった。
    「ノートン、ノートン。起きて」
    「……眠いから嫌」
    「炬燵で寝るのは身体に良くないよ。それに外を見て、雪だよ。ほら」
    「うわ、最悪……」
    思わず本音が溢れてしまったのは仕方のないことだろう。
    イライが指差した窓の外ではしんしんと降り積もる白い雪。眠 2534

    sangatu_tt5

    MEMO死神✂️と冬コミ現パロ🔮のリ占小さい頃から不思議なものが見える🔮。
    幼なじみである💍に黒い影がずっと取り憑いているのを見かける。薄い黒いモヤだったそれは段々と人の形に近くなっていく。随分と昔に死期の近かった祖母の近くで見たアレにそっくりな黒い影を🔮はすぐに死神だと理解した。
    幸せになるべきである💍が死ぬのは納得できないと🔮が💍の真後ろを歩き続ける影に話しかけた。
    🔮「……君は死神だろう?なんだってするから、彼女だけは連れていかないで欲しい」
    そう懇願すれば、黒い影は輪郭がハッキリとしていく。首を真上まで上げて見上げないとその死神の顔は見えない。表情の分からない死神を🔮が震える唇を噛み締めながら見上げていれば、死神の手が🔮の頬に触れる。
    尖った爪が🔮の頬に当たりながら、青い目を大きく見開かされた。
    ✂️「私が見えるだけでも珍しいのに……。これはこれは稀有な目をお持ちですね。本当に何でもするんですか?」
    🔮「……何でもする」
    ✂️「私は魂を食べないと生きていけないんですよ。このレディの代わりに貴方を頂いても?」
    🔮「僕の命で彼女が助かるなら……、構わないよ」
    震える身体で睨みつけてくる🔮に✂️ 969

    hirokii_04

    MAIKING暴 🧲×狐🔮のプロローグの冒頭の冒頭
    完成がいつになるかわからないので供養…
    ただこの身が朽ちて消えるその日を待っていた。



    ***

    身に余る大儀を任されて幾百年。

    人々の願いにより神として祭り上げられたその存在は、今はもう薄れていくばかりであった。

    神と成ったばかりの頃は真白であったはずの装束は、力の衰えとともに黒く染まっていき、以前は人里まで降りる事も出来ていた身は今では社のある森の中でしか行動することが出来ない程に弱まっていた。

    消えかけの落ちぶれた神。それが今の己がおかれた立場だ。

    元々は神ですらなければ、その使いでもない。神格など備わっていないただの野狐だった身だ。役目を果たし、人々から必要とされなくなれば消えゆくのは当然のことだろう。 

    その自分の末路に、不満はなかった。

    そもそもの身分を考えれば、神として在ることが出来たこと自体が既に奇跡なのだ。

    そしてそのまま神として往くことが出来るのなら、これ以上の名誉はないだろう。



    「私の最期は君が見届けてくれないか」

    身の内にある力が衰えはじめ、いずれ自分が消える定めにあるとわかった時、古くからの友である鬼にそう言うと、彼はその美しいかんばせを歪ませてしばらく姿を見せてはくれ 1847