紫の章1談目「父の行方」① 語り手︰紫坂一
おれの父は歴史学者で大学教授だった。日本中の遺物や呪物とそれにまつわる歴史について研究し、何故それが存在するに至ったのかを導き出す仕事だ。
そのため父は全国を駆け回っており、一週間から一ヶ月ほど出張で家を空けることも度々あった。頻繁に連絡してくるような人じゃなかったけど、そんなことがしょっちゅう起きるのだから、どこへ行っても、どうせケロッとした表情で帰ってくるのだろう。漠然とそんな風に思っていた。
一年前、父は行方不明になった。
茹だるような暑さが続く七月。おれは東京都内にあるT大学に訪れた。第一学舎が文系学科が集まる学舎で、そのうち三号棟が歴史学専攻の研究室だ。おれが学舎のロビーに入ると、グレーの背広に眼鏡をかけた男性が待っていた。
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