「武器を交換したい?」
モクマは、相棒の突拍子もない申し出に、素直に首を傾げた。
「この先何があるかわかりませんから」
チェズレイはしたり顔で続ける。万が一の事態に備え、鎖鎌の使い方を知っておきたい。だが、とモクマは戸惑いを口にする。あれを振り回すには、チェズレイはいささか膂力不足ではないだろうか。
逗留しているホテルは流石のハイクラスで、かつ続き部屋タイプを借りているため、武器を振り回すだけの広さがある。とりあえず、モクマは鎖鎌をチェズレイに渡した。すると、チェズレイは愛用の仕込み杖を渡してきた。
「……大丈夫なの、手放して」
真っ先に、それが心配だった。一人の時はもちろん、モクマと二人の時間でも、決して手放さない仕込み杖。転ばないように歩くのに、それが必須なのではないのかと。
だがチェズレイは眉を顰めるだけ。
「転ばぬ先の杖、という言葉をご存知ない?」
再びの突拍子もない言葉に、モクマは素直にお手上げだ。首を振ると、チェズレイが笑う。
「私、左目は見えていないわけではないのですよ」
実際、普段の生活において、杖の先で行き先を探る様な仕草はない。杖なしで歩いているところはあまり見かけないが、杖に頼った歩き方でもない。まだ何か言いたげなモクマを無視し、チェズレイは鎖鎌を持ち上げて、振り回してみた。なるほど、ただ回すだけなら問題はないが、殺傷能力を持たせるスピードとなれば、手に余る武器だ。
だが、それは大した問題ではないのだ。
「あのですね、モクマさん」
チェズレイは、モクマに鎖鎌を返す。
「私はあなたに、これの使い方を知っておいてほしいのですよ」
ミカグラの刀と剣はまた違う。あちらは斬るもの、こちらは突くもの。とはいえ、無用の心配だったかもしれないと、チェズレイは思い直す。いざとなれば、モクマは何でも器用に使いこなす。それこそ、ボウリング球でも、バールのようなものでも、その辺の爪楊枝でも。
その実、自分のことを知っておいてほしいだけなのかもしれないなと、チェズレイは自分自身に呆れるのだった。