<はやく付き合ってしまえばいいのに……>
中庭のベンチに座って晴れた空を眺めながら、隣の仲間と取り留めのない話をしていた。ともすれば眠りに落ちそうな穏やかな日だ。話すことは喧嘩の話。流行のゲーム。ボスの話。と、どんどん変わっていく。
今度はネロさんの話らしい。
「昨日さ、ネロさんからボスの香水の匂いがして、一緒だったんだなぁって思ってそう言ったら、慌てたみたいに説明されちまった。今更膝枕してたとか言われてもなんとも思わないのに、誤解すんなよって」
小さく溜息を漏らす仲間は何の誤解が有るのかと笑った。
「ネロさんほんと、自分たちの距離感分かってないんだから……」
仲間の呆れたような声を聞きながら、昨日の出来事を思い出す。
「そういえば、俺、昨日昼にネロさんに聞きたいことあって屋上に行ったんだよ」
最近のネロさんはよく屋上で1人勉強している。以前は俺達みんなの溜まり場のようになっていたが、今はなるべく勉強の邪魔にならないようにと控えているので、タイミングが悪く無いことを願いながら扉を開けたのだった。
「ネロさんボスの膝枕で眠っててさ、「疲れてるみてぇだから用があるなら今度な」ってボスがめちゃくちゃ優しい顔で静かに言うもんだからこっちが恥ずかしくなっちまった」
見事に、タイミングは悪かったと思っている。あんなボスは久々に見た気がする。声も目も、髪を梳く手も優しかった。俺が見てもよかったのかどうか……。
あまり見ない光景に少し慌てたのもあるが、普段は逆なのだ。ネロさんが勉強しているところにボスが膝を借りて眠っているのがいつもの図。そのときネロさんは小声で「わりぃな、なんか用事か?」と言いながら対応してくれる。もちろんこちらも最悪のタイミング。俺らは一刻も早く終わらせて戻る為に頭をフル稼働させなければならない。邪魔した結果ボスの機嫌を損ねたるなんて事があってはいけないからだ。ネロさんの方はいるのが当たり前のように対応するから最初に遭遇したときは戸惑ったものだ。
「あぁ、なるほど。昨日は膝枕する側じゃなくてされる側だったってことか。逆は慣れてるのに、なんか気持ち的に違うもんなのかね」
「さぁな。ほんと、はやく付き合っちまえばいいのに」
「まぁ、俺らには何もできねぇけどな」
周りから見れば、もう付き合って何年も経っているカップルのようなのだが、これがどうしてか付き合っていないし、ネロさんは自覚もないのではないかと思っている。ボスが動けば全て解決しそうなものなのに、この状態に満足しているらしい。下手なことが言えない俺達は、気をつけながら見守る以外の選択肢はない。
ほんとに、はやく付き合ってしまえばいいのに……。