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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    シャディミオの皆様の素敵なシャディミオを拝見している内に自分でも書いてみたくなった、高校生で幼なじみのシャディミオ現パロSSです。
    ※シャ高二、ミオ高一設定、つきあってません。

    #水星の魔女
    theWitchOfMercury
    #シャディミオ

    ウェザーリポート 雨の日はきらい。
     湿気のせいでせっかくスタイリングした前髪がはねちゃうし、スカートのプリーツだってあっちこっちへとっちらかっちゃうから。
     特別教室の鍵を返し、職員室を出る。窓の外へ目を向けて――あ、ヤバい。天気予報だとそんなこと言ってなかったのに、空が今にも泣き出しそうだ。
     足早に昇降口へ向かう。スクールバッグには(奇跡的に)折りたたみ傘が入っているけれど、いつ雨が降り出すか分からない。本格的に振ってくる前に、帰るに越したことはない。
     廊下の角を曲がる。ほんの数メートル先、二年生のげた箱の前に、スマホを見ながらひとり佇む男子生徒の姿が見えた。長髪で背が高くて、後ろ姿だけで誰だか分かる。ひとつ年上の幼なじみ。
     万事において――嫌味かと思えるほど――用意周到な彼なのに、こんな時間にまだこんなところにいるってことは、ひょっとして傘を持ってないの? 帰り道の途中で雨が降り出したらどうしようって心配しているの?
     帰る方向は同じ。だから、もしも今雨が降り出したら、「わたしの傘に入れてあげてもいいわよ」って言っても、それは不自然なことじゃない。――ええ、そうよ。小さな頃みたいに、一緒に観た映画を真似てひとつ傘の下で雨音を聴きながら帰っても、それはちっとも、全然、不自然じゃあないわ。
     前髪とプリーツを手で撫でつける。その間に、口の中で「傘ないの? わたしの傘に入れてあげてもいいわよ」と十回繰り返す。
     念のため十一回目の「傘ないの?」を唱えようとしたとき、スマホから顔を上げて彼――シャディクがこちらを振り返った。
    「やあ、ミオリネ」
     わたしに気づいて、シャディクが微笑む。
    「今帰りかい? ずいぶん遅いね」
    「委員会があったのよ。それをいうなら、あんたもじゃない」
    「クラスメイトが補習の課題を仕上げるのを手伝っていたんだよ。帰る前に雨雲レーダーを確認していたところさ」
    「ふうん」
     クラスメイトって女子?
     ――なんて、聞けない。
     訊きたいけど、聞きたくない。
     知りたいけど、知りたくない。
    「雨」
    「え?」
    「降ってきたね」
    「あ……」
     シャディクの視線の先、半分開いたガラス張りの引き戸から甘ったるい匂いがする。雨の匂いがする。
     シャディクに向き直り、わたしはきゅっ、拳を握りしめた。深く息を吸った。
    「あ、あの、かさ……」
    「傘、持ってないの? 俺のでよければ入る?」
    「……っ!」
     心臓が跳ねる。口もとが弛む。
     傘に入らないかってシャディクが誘ってくれた! シャディクから誘ってくれた!
     うれしい! うれしい! うれしい!
     すぐに頷けばいいのに――できない。
     だって、それはうそだから。
     傘を持っていないと、うそをつくのは簡単。
     でも……、ねえ、ミオリネ。あんた、うそをついたという後ろめたさを抱えたまま、平気な顔をしてシャディクの傘に入れる?
     シャディクと相合傘したいがために、傘を持っていることを押し隠そうとするうそつきを、シャディクの傘に入れていいわけがない。そんなのわたしが許さない。第一、そんな浅ましい人間を、シャディクが自分の傘に入れたいと思うはずがない。
     胸の左側で、雨雲よりもどす黒いかたまりが渦を巻く。
     制服に纏わりつく甘ったるい匂いが気持ち悪い。
     雨の日はきらい。きらい。きらい。
     うそつきな自分がいちばんきらい。
    「ミオリネ?」
    「――入ってあげてもいいわ。だけど、わたしも傘を持ってるのよね」
    「ああ、知ってる」
    「え……」
     思考が一時停止する。
     こくんと息を飲んで、わたしはシャディクを見つめた。――知ってるって、どういうこと?
    「知ってるっていうか……」
     額に落ちかかる長い髪を、シャディクが左手で掻きあげる。
     わたしはそのしぐさを知っている。そのしぐさの意味を知っている。
     ねえ、シャディク。小さな頃から何か照れくさいことがある度に、あんたはいつも照れ隠しにそうしていたわね。
     いたずらが見つかった子どもみたいな笑みを浮かべて、シャディクは言葉を継いだ。
    「何となくそうじゃないかなと思ったんだ。でも、ミオリネと相合傘したくて。断られるかもって思ったけど、敢えて訊いてみた」
    「――!」
     堪えきれずに、わたしはシャディクに駆け寄った。彼の腕にぎゅっとしがみつく。
    「訊き方ってもんがあるでしょ!」
    「そうだね」
     くすっと笑う声が降ってくる。はねた前髪をシャディクの大きな手で撫でられる度に、わたしの胸の底に渦巻くわだかまりもするするほどかれていく。
    「俺の傘に入りたい?」
    「……いじわるっ!」
    「ごめんごめん」
     少し猫背になって、
    「ミオリネ」
     大型犬みたいな瞳が、わたしの瞳を真っ直ぐのぞき込む。
    「俺は君と相合傘したい。俺の傘に入ってください」
     ねえ、シャディク。今の台詞、プロポーズっぽくない? ――ってドギマギしたのは内緒。
     ひとりでに熱くなる頬を見られるのが面映ゆくて、わたしは彼の腕に顔を押しつけた。
    「濡らしたら許さないんだからね」
    「大丈夫。俺の、でかいから。――ああ、でも」
    「でも? でも、何よ?」
    「帰り道でも今くらいひっついてくれたら、濡れるリスクは減るし、俺もうれしい」
    「――っ!」
     どうしてそんな、胸がくすぐったくなるようなことを言うのよ。ぴょこんって、思わず飛び跳ねてしまいたくなるようなことを言うのよ。
    「足を踏まれても文句言わないでよ」
    「言わないよ」
     雨の日はきらい。
     だけど。
     あんたの隣に立てるのなら、ちょっぴり好きになってあげてもいいわ。
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