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    あんこ

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    あんこ

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    悠仁の気持ちは勘違いだよ。女の子といっぱい遊んでみれば間違いだったって気づくでしょ。
    そう言って悠仁をこっぴどく振った五条が数年後、勘違いじゃなかったから責任取れよ、と迫られてドギマギする悠五。
    色々捏造。悠仁が女の子と遊びまくってるので苦手な方はご注意ください。

    #悠五
    yo-five

     一体どこで間違えてしまったのだろうか?

     見上げてくる双眸の鋭さに、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。決して逸らすことを許されない獰猛な瞳は、狂おしいほどの激情を孕んでいる。煮えたぎる怒りを隠そうともしない青年の気迫に柄にもなく気圧されて、じりじりと後ずさっていた。

     しかしそんな子供じみた抵抗はいつまでも続かない。あっという間に壁に阻まれ逃げ場を失った。背中に触れる硬くてひんやりとした感触にぎくりとする。悠仁が一歩足を踏み出せば、一瞬にして距離が縮まった。

    「先生、約束覚えてるよな?」


    ーー

     花を愛でる趣味なんて持ち合わせていない。けれども薄紅梅の花びらがぽろぽろとこぼれ落ちる様に、どうしようもなく心を惹きつけられた。純粋にうつくしいと、そう思った。丸く愛らしい花びらは、いつの間にか枯れてしまった五条の涙の代わりなのかもしれない。
     顔を上げれば視界いっぱいに広がる白い雲と透き通った青空が、喜びと希望が渦巻く子どもたちの出立を祝福している。
    「本当にこのまま何も言わなくていいのか?」
     ふうっと男らしく煙草の煙を吐き出した家入がぽつりとこぼした。校舎の裏ですぱすぱと煙草を吸う姿がこれほど様になるなんてとんだ不良教師だ。
    「やっぱり僕の趣味で修学旅行を仙台にしたこと、謝っておいた方がよかった?」
     せっかくの修学旅行がよりによって仙台かよ、と本気でショックを受けていたのはそんなに前の話ではない。そうしてぶうぶう文句を垂れながらも、現地につけば張り切って観光案内まで買って出ていた姿を思い出して、自然と笑みが零れた。
     突然にやける五条を家入は憐れむような目で見てくる。やだなぁ、そんな顔しないでよ。
     五条の気持ちは関係ない。彼にとっての最善を選んだまでだ。そこに後悔という二文字は存在しない。ずっと心の奥に蓋をして、厳重に鍵までかけて秘めた想いは地獄まで持っていくと誓ったのだ。
     それに今の彼にはもう、五条に対する恋慕の情なんて残っていない。他でもない五条がそう仕向けたのだから。
    「まぁ、お前がそれでいいのなら私は何も言わないけどな」
     昔から、家入のこういうところに救われてきた。変に気を使われたり、慰められるよりもずっといい。

     東京及び呪術界に壊滅的な被害をもたらした渋谷での事件から六年半の月日が流れていた。五条が封印され、当時の学長がこの世を去り、一度は機能を停止した呪術高専の再起を図ったのは他でもないこの男、五条であった。
     封印が解かれ、再びこの地に足を踏み入れた瞬間のあの絶望を忘れることはない。崩壊寸前の世界を目にした五条を襲った心臓を抉られるような痛みと自責の念は今でもずっと深く胸に刻まれている。
     いっそのこと、本当に抉られてしまえば良かったのに。何度そう思ったことか。上層部の連中は五条の復活に良い顔をしなかったが、近しい人間は誰も五条のことを責めなかった。ぼろぼろと大粒の涙を零して抱きついてくる者も、変わらない笑顔で冗談混じりに揶揄ってくる者も、皆がおかえりとあたたかく五条を迎えてくれたのだ。そしてそれが罪の意識をさらに深めた。何もできずにただ暗くて狭い箱の中で過ごすしかなかった日々を悔やみ、暗澹たる思いを抱えていた。
     だが、いつまでも立ち止まってはいられない。五条は再び教育の道を選んでいた。強くて聡い仲間を育てる意志は今でも変わらないし、何より可愛い教え子たちを学業という大切な青春の一ページを奪われたままにはしておけなかった。再建の準備に多少の時間はかかったが、五条がその気になれば難しいことではなかった。
     そうしてついに、当時一年生だった彼らが今日、この学校を卒業する。可愛い教え子たちが巣立っていく瞬間というのは、何度経験しても寂しさを感じてしまうものだ。喜ばしいはずの門出にやけに感傷的になってしまうのは、目の前にひっそりと佇む儚くも美しい梅の花のせいだろうか。
     はらりとこぼれ落ちる花びらを目で追っていると、ジャリという音がして、いつの間にか地面に大きな影ができていた。
    「お前は良くても、どうやら向こうは納得してないみたいだぞ」
    「は……」
     すぐに家入の言わんとすることを理解した五条はぎくりと顔を上げる。そこには出会ってから七年の月日を経て、すっかり逞しく成長し精悍な顔つきになった青年の姿があった。
    「やっと見つけた」
    「ゆうじ……」
     柄にもなく緊張して声が引き攣った。その口ぶりから五条を探していたことは明白である。もう別れの挨拶は済ませたはずなのに一体なぜ? そんな疑問が全て顔に出ていたのだろう。悠仁はキッと目を吊り上げた。
    「俺の話はまだ終わってないんだけど」
     いいからきて、と悠仁が手を伸ばしてきたのを咄嗟に無限で弾こうとして、寸前のところで止めた。目の前の顔がくしゃりと歪んで今にも泣き出しそうだったからだ。そんな顔をされては拒めない。抵抗を見せない五条の手首をがしりと掴まれた。悠仁の馬鹿力に捕らえられてしまえばもう、五条に逃げ場はない。助けを求めるようにちらりと家入に視線を向けた。
    「観念しろ、五条。これで最後なんだ。しっかり話を聞いてやれよ」
     くそっ、あっさりと売られてしまった。内心で舌打ちをする。
    「ありがと、先生。少しだけこの人貸してもらうわ」
    「ああ、全部ぶちまけてやりな」
     当人を無視してしっかりと家入の許可を取った悠仁は五条を連れ出した。そしてほんの数時間前までは彼の教室であった場所へと足を踏み入れる。
     ここまで来ればさすがの五条も観念した。家入の言う通りだ。悠仁が今さら自分に一体何の話があるのかは分からないが、これで最後なのは間違いない。それならばここでキレイさっぱり終わらせて、後腐れがないようにしておいた方がいいに決まっている。
     覚悟を決めて冷静を装っていても、バクバクと可愛くない心臓の音がうるさかった。
     

     それは悠仁と出会ってから初めての夏の日のことだった。青々と茂る木々から幾匹もの蝉の声が降り注ぐ。灼熱の太陽がじりじりと身を焦がすのに、空気はじめっとしていてひどく蒸し暑かったのを覚えている。
     その日、五条は一点の曇りもない澄んだ眼差しで真っ直ぐに好きだと伝えてくれた悠仁のことを、こっぴどく振ったのだった。
     ただ気持ちを伝えたかっただけだという悠仁の健気な告白に対して、酷い言葉をたくさん吐いた。悠仁の気持ちは勘違いだ。恋愛の好きじゃない。憧憬の念を恋心だと思い込んでいるだけだ。一言一言口にする度に、悠仁の顔がくしゃりと歪んでいく。その今にも泣き出してしまいそうな表情を見ていると、ズキンと胸が痛んだ。
     それでも悠仁の気持ちを受け入れることはできなかった。大人として、教師として、大切な生徒を正しく導く義務がある。そんなふうに言えば聞こえは良いが、本当はただ臆病だっただけなのかもしれない。いつか悠仁がこの恋は勘違いだったと気づいた時、自分から離れていってしまうことが怖くて堪らなかった。不安に怯える日々を過ごすくらいなら、初めから手を取らなければいい。
    「とにかく、悠仁は今まで近くに頼れる大人がいなかったから、困ったときに手を貸した僕のことを好きだと勘違いしてるだけなんだよ」
     一体何度同じことを言えばいいのか。自ら傷を抉っているようなものだ。早く諦めてほしいというのに悠仁は一歩も引かないどころか、否定されたことでますます意地になって突っかかってくる。
    「そんなことない。何で頭ごなしに否定すんだよ。ただ気持ちを伝えたかっただけなのに……」
    「一回り以上も年上で、しかも男を好きだなんて否定するに決まってるでしょ。悠仁の黒歴史になる前に目を覚ましてあげてるんだよ」
     人を小馬鹿にしたようにへらりと笑ってみせた。自分でも嫌な性格をしている自覚はある。誰がどう見たって悠仁とは不釣り合いだ。
    「どうしたら、信じてくれるんだよ……」
     それなのに悠仁は、こんなに一生懸命に五条のことが好きだと訴えてくる。なんて不憫な子なんだろう。悠仁の言葉をそのままそっくり返したい。どうしたら、諦めてくれるのかと。
    「悠仁ってさ、女の子とデートしたことないでしょ?」
    「なっ、かっ、勝手に決めつけないでよ…………まあ、ないけど」
     むすっと唇を尖らせながらも顔を赤くする悠仁の反応は予想を裏切らない。真剣な話をしているはずなのについ笑ってしまって、じとりと睨まれた。
    「やっぱりね。確かに僕みたいないい男は中々いないけど、悠仁だって男なんだから可愛い女の子といっぱい遊んでみなよ? そうしたら、きっと僕への気持ちは勘違いだったって気づくよ」
    「俺には先生だけだし、そういうのは興味ないって言ってんじゃん」
    「そんなの分かんないでしょ」
     五条の言い草に悠仁の機嫌がますます悪くなる。五条だってただの意地悪でこんなことを言っているわけではない。悠仁に残された時間はそれほど長くない。その限られた時間の中で、隣にいるのに相応しいのが自分だとは、どうしても思えなかった。だからこそ、今ここできっぱりと断ち切るべきだ。たとえ悠仁を傷付けたとしても。
    「じゃあそうだね……もし悠仁が女の子の良さを知って、それでもまだ僕のことを好きだって思うんだったら、その時は信じてあげるよ。悠仁の気持ち」
     そんなことはあり得ないと分かっていて出した条件だった。悠仁は五条が初恋だといった。初恋は実らないと相場が決まっている。酸いも甘いも知らない子どもの恋心なんて儚いものだ。人のいいところだけに目を奪われて美化しておいて、少しでも理想と違っていれば勝手に幻滅されるのだからうんざりする。どうせ悠仁だってこれからたくさんの出会いと別れを経験するうちに、五条のことなんてキレイさっぱり忘れるに決まっている。そう思っていた。
    「わかった」
    「へ?」
     けれども、なぜか急に聞き分けがよくなった悠仁の態度に胸がざわついた。とてつもなく嫌な予感がする。
    「先生、その言葉忘れんなよ」
     唸るように吐き出された台詞から、有無を言わさない圧力をひしひしと感じる。さっきまで泣きそうな顔をしていた少年は、もうどこにもいなかった。けしかけたのは自分だというのに、悠仁のあまりのキレっぷりにさすがの五条も困惑した。
    「えっと、悠仁……?」
    「大人になっても気持ちが変わってなかったら、その時は、俺と付き合ってくれるんだよな?」
    「は、何言ってんの……」
     信じてあげるとは言ったけど、付き合うとまでは言っていない。それなのに悠仁は、覚悟しておけよ、とだけ言い残すと訂正する間もなくその場を去ってしまった。
    「はぁ、めんどくさいことになったな……」
     初めこそどうしたものかと身構えていた。しかしそれから悠仁の様子に変化が見られなかったため、すっかり拍子抜けしてしまった。悠仁の態度があまりにも今まで通りで、まるであの日の告白は全て夢だったのではないかと疑ってしまうほどだった。
     五条はそんな悠仁の態度にほっとしながらも、心のどこかで寂しさを感じていた。あんなに熱烈な告白をしてきたくせに、やっぱり勘違いだったんじゃないか。それはそれで面白くない。だけどどうしようもない。全て自分が望んだことだ。
     いくら五条が悶々とした想いを抱えていようとも、当然月日は流れていく。今の五条と悠仁の距離は、ただの先生と生徒に戻っていた。たとえ任務を共にしようとも、そこに以前のような熱烈な想いは感じられなかった。
     そして数ヶ月もすれば街で悠仁が女の子と二人で歩いている姿を見かけた。身長は平均より高めだが、すらりとしていて華奢な印象の可愛らしい女の子だった。制服を着た年頃の男女は誰が見てもお似合いのカップルだろう。そんな二人が並んで歩く姿を微笑ましい気持ちで眺めていた。これで良かったんだ、とチクリと胸を刺す痛みには気づかないふりをして。

     過去を振り返っているとそんな思い出したくもない感情まで一気に蘇ってきてしまい、慌てて打ち消した。まだ大丈夫だ。心の蓋には厳重に鍵がかかっている。このまま悠仁に知られることさえなければ、全てなかったことにできる。
     そのはずだったのに。
     一体どこで間違えてしまったのだろうか?
     見上げてくる双眸の鋭さに、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。決して逸らすことを許されない獰猛な瞳は、狂おしいほどの激情を孕んでいる。煮えたぎる怒りを隠そうともしない青年の気迫に柄にもなく気圧されて、じりじりと後ずさっていた。
     しかしそんな子供じみた抵抗はいつまでも続かない。あっという間に壁に阻まれ逃げ場を失った。背中に触れる硬くてひんやりとした感触にぎくりとする。悠仁が一歩足を踏み出せば、一瞬にして距離が縮まった。
    「先生、約束覚えてるよな?」
     ぞっとするような低い声が鼓膜を震わせて、息が詰まった。忘れていない。忘れることなんてできなかった。だけど、そんなこと、言えるはずがない。
    「やだなぁ、何のこと?」
     大人は狡い。自分の保身のためなら、平気で嘘をつく。早く幻滅してこんな最低な男のことなんて忘れてくれ。それだけを切に願う。しかし、現実はそう上手くいかないことも分かっていた。
    「ふざけんなよ!」
     怒気を爆発させた悠仁がドンッと五条の顔の横に手をついてきた。所謂壁ドンというやつだ。やはり悠仁には下手な誤魔化しは通用しない。
    「先生が言ったんだろ。俺が女を知らないから、勘違いしてるだけだって」
    「そうだっけ?」
    「言ったんだよ! だから、言われたとおり、いっぱい女の子と遊んだよ。俺なんかでも相手をしてくれる人は結構いたし」
    「へぇ、よかったじゃん。それで僕への想いも勘違いだったって気づいたわけ?」
     嫌だ、本当は聞きたくない。悠仁が女の子にモテることも、たくさん遊んでいたことも知っている。恵と野薔薇が自棄になっているんじゃないかと心配していたことも知っていたが、それでも止めようとは思わなかった。たとえ女の子をとっかえひっかえしていようとも、同性の教師を好きになることに比べたら、ずっと健全だ。
    「やっぱり覚えてんじゃん。でもさ、俺、いくら女の子と遊んでも結局好きとかよく分かんなかったんだよね」
     淡々と語る目の前の男は、感情が全て抜け落ちたような乾いた笑いを浮かべた。その不気味さにゾッとする。
    「だから、今度は先生で試させてよ? そうしたら勘違いだったかどうか分かるじゃん」
     酷い提案だ。まさか悠仁の口からそんなことを言われるとは思っておらず、内心かなりショックを受けていた。
    「は……そんなの、ダメに決まってるでしょ」
     渇いた喉から何とかそれだけを絞り出す。眩しい笑顔の印象が強い悠仁に冷ややかな視線を向けられると、かなり居心地が悪い。堪らず視線を逸らしたというのに、右手でグイッと顎を掴まれ殺気立った瞳に射抜かれた。近距離で目が合えば、心臓がズキズキと痛みを訴える。眉を顰めて痛みに耐えていると、一瞬だけ悲しそうな表情をした悠仁が、すぐに険のある目つきをして凄んできた。
    「責任、取ってもらうから」
     冷淡な口調でそれだけを吐き捨てると、五条の話も聞かずに教室を出て行った。昔の素直で可愛くて屈託のない笑顔を向けてくれた悠仁は、もうどこにもいない。五条が彼の純粋な想いを全て壊したからだ。
     昔から、悠仁の一挙一動にいちいち反応して振り回される自分が嫌だった。
     だからあの日、悠仁の告白から逃げ出した。
     それなのに、散々突き放しても尚、五条に激情を向けてくる悠仁の姿に仄暗い喜びを感じている。どこまでも最低で浅ましい自分を嘲笑した。
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    あんこ

    MAIKING悠仁の気持ちは勘違いだよ。女の子といっぱい遊んでみれば間違いだったって気づくでしょ。
    そう言って悠仁をこっぴどく振った五条が数年後、勘違いじゃなかったから責任取れよ、と迫られてドギマギする悠五。
    色々捏造。悠仁が女の子と遊びまくってるので苦手な方はご注意ください。
     一体どこで間違えてしまったのだろうか?

     見上げてくる双眸の鋭さに、ぞくりと背筋に冷たいものが走った。決して逸らすことを許されない獰猛な瞳は、狂おしいほどの激情を孕んでいる。煮えたぎる怒りを隠そうともしない青年の気迫に柄にもなく気圧されて、じりじりと後ずさっていた。

     しかしそんな子供じみた抵抗はいつまでも続かない。あっという間に壁に阻まれ逃げ場を失った。背中に触れる硬くてひんやりとした感触にぎくりとする。悠仁が一歩足を踏み出せば、一瞬にして距離が縮まった。

    「先生、約束覚えてるよな?」


    ーー

     花を愛でる趣味なんて持ち合わせていない。けれども薄紅梅の花びらがぽろぽろとこぼれ落ちる様に、どうしようもなく心を惹きつけられた。純粋にうつくしいと、そう思った。丸く愛らしい花びらは、いつの間にか枯れてしまった五条の涙の代わりなのかもしれない。
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