「どうしたの悠仁」
悠仁が急に立ち止まったせいで、数歩先を進んでいた五条が振り返った。
悠仁の心臓は激しく鼓動を打ち爆散秒読みに入っている。
言うか言うまいか、悠仁はもうずっと頭を悩ませていた。しかしこれ以上黙っているのは無理だという考えに至った。
任務帰り。もうすぐ日付が変わる頃、まだ開いているラーメン屋に入って、共に腹を満たした。店を出ると、火照った肌に夜風が気持ち良かった。
人気の無い遊歩道を並んで歩いているうちに、気持ちが込み上げてきて、声に出さずにはいられなくなってしまった。
「俺、五条先生のことが好きなんだ」
心臓がこんなにも速く打つのは初めてのことで、それなりに死線を越えてきたつもりだったけど、それとこれとはまた別なんだなと悠仁は思った。
五条は振り返ったままの姿勢でしばらく止まっていたが、首筋をポリポリと指で掻いてから、体ごと悠仁の方を向いた。
「悠仁はどうしたいの?」
どうしたいか、そんなこと聞かれるなんて思ってもなかった悠仁は、自分がどうしたいのか考えてみた。わからなかった。
「どうしたいんだろう」
と、困ったように五条を見る。
すると五条はフハッと吹き出して、笑った。
「僕に好きだって言うだけ?言ってどうするつもりだったの?」
「いやぁ、そこまで考えてなかったわ」
「なんだよそれ」
「ごめん」
「謝ることないけど。悠仁に好きって言われて気分はいいよ」
「でも先生ゲイじゃないだろ」
「そうね。悠仁はゲイなの?」
「違うと思う」
「だよね。タッパとケツのデカい女が好きなんだもんね。僕はタッパはあるけどケツのデカい女じゃないし」
「もーっそれ今いいからっ」
「付き合ってみたらいいんじゃない?」
「え?」
「告白したら返事が返ってくるもんでしょ。イエスかノーか。僕はノーじゃないから付き合ってみたらいいじゃん。恋愛は青春の醍醐味だもん。あ、もちろん僕のじゃないよ。悠仁のね」
口角を上げたままぺらぺらとしゃべる五条に、悠仁は呆気に取られた。
「本当なら相手は同年代の女の子とかがいいんだろうけど、悠仁が僕のこと好きならそこは変えられないから、僕が悠仁の恋人になるよ。それでオッケー?」
五条は腰を屈めて、ぽかんとしたままの悠仁の顔を覗き込んだ。
「悠仁?」
「……あ、うん。オッケー……」
悠仁が状況を把握しきれないままで答えると、五条はにかっと笑って言った。
「じゃあ今から僕と悠仁は恋人同士ね」
それが一ヶ月前の話。
五条は多忙であり、二人きりの時間はそんなに作れないものの、時間が合えば二人で食事をしたり、任務がてら二人で街をぶらぶらしたりした。
五条は意識的に二人の時間を作ってくれているようだった。
悠仁としては一緒にいられる時間があれば嬉しいし、五条と過ごす時間は食事や映画鑑賞のほか、任務や特訓でも充実感があった。
ただ一つ、悠仁には気にかかっていることがある。
それは二人の間に恋人らしさがないこと。
二人で過ごす時間は増えたが、これまで通り稽古をつけてもらったり、冗談を言い合いながら笑ったり。楽しいけれど、そこにイチャイチャなど存在しない。
それどころか、一度手を繋いだ時にはすぐに離されてしまったし、ハグを試みたときにも、すぐに引き剥がされてしまった。
薄々気づいていたけど、五条先生は無理に俺の青春に付き合ってくれてるのかもしれない。
悠仁はそう思うようになった。
それでも五条のことを好きなので、二人で過ごしていると触れたくなってしまう。
「なぁ五条先生」
「ん?」