再会「ジフンがこの前マニャンで会ったって――何だったの?」
ナム所長の命日。精肉店でプデチゲを食べてから、墓参り兼、散歩に付き合わされている。ジェイたち一行とは違う道にそれ、ジュウォンはドンシクと二人で話しながら歩いている。
顔を合わせたのは逮捕の件の後では初めてだが、電話やメッセージは何度かしていた。
「家出人がマニャン出身者だったので、ジフンさんに案内してもらいました。ジェイさんの店に近かったので裏に車を停めさせてもらって、お水をいただきました」
「ジフンは忙しかったから、ハン警部補が店に置き去りにされてたって、ジェイが言ってたよ。絡まれたでしょう」
「ええ。ドンシクさんに感謝しているんなら、今後も元パートナーとして恩返ししろとか、過ちを償うために頑張っていることを報告しろとか、人を挟んで伝言ゲームをしないで、直接ドンシクさんに電話しろとか、馬鹿だとか臆病だとか――散々、いじめられました」
「ふふふふ」
ドンシクはずっと笑っている。
「笑わないでください」
そうじゃない。笑うべきだ。やっと、何も考えず笑えるようになったのだ。
晴々とした顔を見ていると逆に、今までどれだけ良くない精神状態だったかうかがえて胸が苦しくなる。
「あれでも、あなたのことを気にかけてるんです。ジェイだけじゃなく、ジファもジフンも。俺も、ジファには色々言われるしなあ。ジュウォンの話もよくする」
この様子では、ジュウォンの動きは全方位からドンシクに報告されている。
ハン・ジュウォン警部補ではなく、度々ジュウォンやらジュウォナと呼ばれ、なんだか落ち着かない。
「どんな話ですか?」
「野良猫みたいだった俺が所長とあなたには懐いたとか、ジファの前では泣かないのに、ハン警部補の前では泣いてて嫉妬するとかね」
「……そうなんですか?」
ジュウォンも、顔を見ているだけで泣いてしまいそうになるのを堪えている。悲しいわけではない。懐かしいような、切ないような、ほっとするような。
「うん。言われて気付いた。あなたが随分、特別な存在だってことなのかもって」
「そう、なんですか?」
目の前で息をしているこの人を好きなのだと、感情が波打っている。
この人の前では何も隠さなくていいのに、意地を張る自分に苛立ちながら。
明るい陽射しと春風が、ドンシクの柔らかい髪をかきまぜる。
「最初から変わった人だなとは思ってましたけど」
こんなに眩しく笑う人だったのだなと、目を細める。
「それはお互い様です」
「俺には特別な人です。これからもずっとね」
一瞬、照れたようないたずらっぽい目で笑ったドンシクと、抜きつ抜かれつ進んでいく。
「僕は……」
今、何をどこまで伝えたら、また会えますか?
「うん」
「また、会ってあなたと話がしたいです。迷惑ですか?」
今はこれが精一杯だ。
言葉を重ねればきっと、二人で正解が導き出せる日が来るだろう。
「迷惑?なんで?相棒でしょう。あなたが電話してくれるのは嬉しかったし」
そうか。特別だと言ってくれたのだから、迷惑ではないんだ。
「元相棒でも有効ですか?」
僕はこれから、あなたの何になれますか?
「最後の相棒で、最強の相棒だよ。最悪の相棒かな」
「僕にとっても大事で――特別な人です」
想いの強さだけでも伝えよう。
それがどんな欲と情を含んでいるのか、まだ自分でも全部はわからない。
「嬉しいけど、照れますね。じゃあ、たくさん話そう」
「はい」
僕にはまだ、秘密があります。
何を伝えずにいれば、去らずに済みますか?
全部伝えたら、困りますか?
ジェイに見られたらまた怒られそうだと思いながら、ジュウォンは頷いて見せた。
そんなに甘い関係じゃなかったはずなのにと思ったが、それは自分の態度が悪かったせいだ。初めからマニャンの人たちは、ジュウォンのことを警戒などしていなかったのだろう。全員に、弱みと秘密があっただけ。
「最近はあちこち走り回って、忙しいそうですね」
ドンシクが様子をうかがってくれるのが、くすぐったい。
切ない気持ちで唇を結んだジュウォンに、ドンシクはまた柔らかく笑んだ。