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    MASAKI_N

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    怪物jwds⑨

    ##怪物
    #怪物
    monster
    #ジュウォン
    #ドンシク
    #ジュウォンシク
    jewish
    #jwds

    遊戯「元気だった?」
    「ええ。忙しかったですけど。どうぞ、昼食はできてます」
     ジュウォンは宿直明けで、明日は非番。昼からドンシクが来た。
     ドンシクは、珍しくテレビゲームをやっているジュウォンの隣に座った。
    「あれ、あなたの分は?」
     ジュウォンは最近、ベトナム料理に凝っているらしい。小洒落た器に盛られたフォーが湯気を立てている。
    「僕は、ブランチを食べたのでまだ空腹ではありません。熱いので気を付けて」
     ブランチ。ジョンジェといたせいで割とお坊ちゃんの暮らしには慣れているし、ドンシクも両親が元気だった頃は、西洋文化寄りの行事や習慣も経験していた。でも、ナム所長と過ごすことが増え、離れていた文化だ。
    「俺のためだけにわざわざ作ってくれたの?」
    「駄目でしたか?」
    「いえ、ありがとうございます。優しいな。いただきます。……ゲームなんてやるんだ」
     随分やらない間に、CGも何もかも、とんでもなく進化している。ジフンもゲームはやるが、マリオやゼルダ、スプラトゥーン、ポケモン寄りの趣味だ。
     ジョンジェはゾンビや兵士を撃ったりモンスターを倒したりするのが好きで、ドンシクは謎解きやストーリーのあるロールプレイングゲームが好きだった。
     スタイルのいい制服姿の若い男性キャラクターが、室内を探索している。どうやら事件現場のようだ。
    「『デトロイト・ビカム・ヒューマン』というゲームです。アンドロイドの自我と感情が目覚めて、権利を求めて革命を起こす話だと聞いています。ヒョンが、このコナーというアンドロイドが僕と似てると言うんです」
     コナーは、長めの白髪、傷んだ革ジャケットに柄シャツを着た中年男性と会話している。
    「このおじちゃんは何?警察官か。あ、『ショーシャンクの空に』に出てたな、この俳優さん。かっこいい」
    「ハンク・アンダーソン警部補です。あなた、僕との年の差にうるさいくせに、自分もおじさんが好きなんですか」
     変なところで怒られる。おじさんが好き?
    「なぁに、ヤキモチ?ジュウォニがおじさんになる日も楽しみだな。全然老ける気がしないけど、どんな顔になるんだろ。その頃には俺はおじいさんだ」
    「……ヤキモチじゃありません」
     単に、ジュウォンと全くタイプの違う男を褒めたのがいけなかったか。
    「ふ~ん、わけあり警部補か。あなたと同じだな。買ったの?ヒョクさんに借りたの?」
     テーブルに置いてあったディスクケースを手に取り、外装を眺める。最近のゲームは説明書が無いんだな。と思う。
    「ゲーム機ごと貸してくれました。勉強しないといけないことがあるので、部屋にあると気が散るんだとか」
    「ふぅん。暇つぶしするほど暇ってわけでもなさそうだけど、ちゃんと休んでる?」
     若い頃はジョンジェが流行りのゲームをいち早く買ってはプレイしていて、それを借りたりしていた。ドンシクも嫌いではないが、事件以降は一旦やらなくなり、ジフンが大きくなってから付き合いで触るぐらいだった。それでもゾンビは倒せるし、マリオも操れる。世代的に、テトリスや格闘ゲームも得意だ。
     でもこのゲームは、そのどれでもなさそうだった。ジュウォンをよく知るヒョクが薦めるだけあって、ジュウォンに似合う感じがする。
     食事をしながら、軽くネット検索してみる。
     オープンシナリオアドベンチャー?一応、ロールプレイングゲームに近いのだろうか。
    「ちゃんと休んでも時間は作れます。気分転換になるし、ストーリーは興味深いです」
    「二人でゲームとかやるのもいいかもね。で、似てるの?コナーくん」
     確かに、きちんとした身なりと生真面目な話し方は近い気がする。
    「……さあ。僕が人間らしくないってことなのかな。落ちぶれた警部補に感情を目覚めさせられるそうですが」
    「俺たちみたいじゃない。似てるけど、好きな感じじゃないのか。なら、同族嫌悪かな」
     ヒョクは一番、ジュウォンを見てきた人間だろう。彼と兄弟のような関係なら、人並みに俗っぽいことをジュウォンに教えてきたのは彼だ。
    「僕が好きなのは警部補の方です。あと、マーカスというアンドロイドもかっこいいです。画家の老人と暮らしていて――この、家のインテリアが凄く素敵で」
     ジュウォンは画面を素早く切り替えて、マーカスが画家の家を歩き回る様子を見せてくれる。なるほど、人間を介護するアンドロイドもいるわけか。
    「おー!この人『エイリアン2』のビショップの人だ。爺さんになってもかっこいいな」
    「俳優の話はやめてください」
     キャラクターや世界観に浸っていたいタイプか。ちょっと面白くなってしまった。
    「あなたはそういうとこ気にするんだ。俺は、作中で殺されちゃったりしても現実には俳優が元気で生きてるんだって思わないと辛いかなぁ。それに『エイリアン』のビショップはアンドロイドなんだよ。多分そういうリスペクト?オマージュ?での起用なんだな」
    「はぁ……わかりました。諦めます」
     ジュウォンは画面を戻して、今度は警察署らしき場所に移動する。
    「俺に似てるキャラクターはいないの?この、革ジャンの人かな」
     何やら一癖ありそうな男に、コナーが絡まれている。
    「リード刑事はどうかな……警部補の方が似ているかも」
    「ハンク?どの辺が?」
    「エリート捜査官だったのに家族を亡くした事故に縛られていて病んでいます。それから、ダウンタウンでは慕われていますし、昔の仲間や署長には信頼されてる」
    「なるほど、事故ね。で、コナーくんが警部補を救うのか」
     確かに今説明された感じだと、コナーとジュウォン、ハンクとドンシクが近い。
    「この二人は相棒で、事件を解決していきます。でも、もう少し複雑で、奴隷解放の歴史や人種差別による社会問題を寓話化した話です。もう一人、女性型のアンドロイドも出てきて、それぞれが接点を持っていく――初めから一緒にやりますか?マルチエンディングなので、選択肢で分岐して違う結末になるんです。あなたが進めたら、僕が選ばないルートが見られそう」
     マルチエンディング。なるほど、『クロノ・トリガー』の事件ものバージョンか。
    「んー、あなたがいない時は暇だから、やろうかな」
     ドンシクは今、無趣味だ。休みの日にジュウォンと会えないと、ひたすら暇ではある。
     母を見舞ったり家の片付けをしたりするのは趣味とは違う。釣りは好きだが、あれは、ぼんやりしている時間が好きなだけだし、家にいるとニュースを観ながらぼーっとしていつの間にか寝ているから、ちょうどいいかもしれない。
    「僕がいない時にここでやりますか?」
    「セーブデータとかが面倒なら、ジュウォンがやってるの観てる方がいい」
    「ドンシクさんがいればゲームをやる気にはならないです。今日はあなたがいつ着くかわからなかったのでプレイしていましたが、もう切り上げますよ」
     健全な男だな。と思う。
     自分なら暇な時にはまったら、ずっとそればかりやってしまう。
     ドンシクの誕生日に、ジュウォンに二十歳からの青春を今からやり直せばいいと言われたのが、ずっと頭に残っている。熱中できるなら、それもいい。
    「あなたの仕事が終わるまで待つ時とかなら、いいかもね」
    「――あの」
    「無理なら――」
    「いえ……いいですよ。それ、食べ終わってから、チュートリアルだけやりましょうか」
     少女を人質に、アンドロイドが騒いでいる。コナーになって室内を探索し、彼を説得。
     世界観を少し味わったところで切り上げる。意外と順応出来た。
     その内、ヒョクに借りずとも何かやりたくなることもあるかもしれない。ジョンジェの古いゲームをもらうのもいい。ジフンにバレたら多分、みんなでやる何かをやらされる。ヒョクとジフンを会わせたら確実に巻き込まれるだろう。
     二人でいて退屈だと思うことはない。話は尽きないし、ドライブも買い物も好きだ。泊まると決まっていれば食事をして、欲しいだけ触れ合って眠る。ジュウォンにとっての娯楽も今のところ、ドンシク自身のようだから。
    「そうだ。これ、持っといて」
     先日、ドンシクの自宅の前で長時間待たせてしまった。
     彼はこうして、食事まで用意して待っていてくれるというのに。
     泊まりに来た翌朝に起きられなくて、彼の出発後に鍵の受け渡しだけのために行き来させてしまったこともある。時間に余裕があればドンシクが動くが、そういう時は調子が悪い時で、いつも気を使ってくれるのはジュウォンだ。
    「合鍵、ですか」
    「一緒に暮らすのは当分無理だろうけど、今までみたいに一時的に貸すんじゃなくて……これは、あなたの分です」
     ジュウォンは鍵を見つめたまま十数秒黙る。
     疑問があれば問い詰めてくれるはずだ。
    「――じゃあ、うちの合鍵と交換しましょう」
    「え、いいの?」
     ジュウォンはマンションの予備キーをデスクから取り出して、ドンシクに渡した。
    「いつ来てもいいですよ。ゲームもご自由にどうぞ」
    「うちにも勝手に入っていいけど、あなた、何かの最中とか、誰か来てたりしたらびっくりしない?この部屋はワンルームだし、玄関からすぐ中が見えるのに」
    「あれだけお互い不法侵入しておいて今更ですよ。ここはドンシクさん以外来ませんから。元々、見られて困るようなことは、玄関から見えるところではしません」
    「そう?ヒョクさんは来ないの?あなたも寝てたりしたら、連絡したりチャイムを鳴らすのはかわいそうだ」
    「来客がある時だけ、先に知らせます」
     落ち着いた声が心地好い。こういう時、所長やマニャンの仲間と支え合えていた自分と違って、ジュウォンがほぼ独りで生きてきた大人っぽさを感じることがある。
    「……なんか、不思議だな」
    「不思議?」
     使い込んだキーケースにキーを加え、ジャケットのポケットにしまった。ジュウォンは、ドンシクが付けたキーホルダーごと、小物をまとめてあるトレイに置いた。
    「恋人同士ってこういう感じなのかな。自分はそういう相手ができないと思ってたからよくわからなくて。それに、あなたは自分の予定はきっちり分けるタイプかと思ってました」
     社交辞令はジュウォンが、それ以外の人間関係の駆け引きは自分の方が得意で、でも二人とも、恋愛関係は不得手だ。
    「僕は――そういう相手は想定していませんでしたから。でも、実家で父の来客やハウスキーパーと予定を合わせるやり取りはしていたので、あなたより、家族以外が出入りすることに慣れてはいるのかも」
     なるほど、家族とのやりとりがよそよそしかったのが逆に、情と関係ない合理化に向くのか。待ち時間の有効活用や、行き来しなくていいメリットを合理的に選んだのだ。
    「一人になりたい時もあるだろ?」
    「最近……そういう時はあなたに会いたくなります」
     真っ直ぐな恋心が雄弁な瞳に宿り、ドンシクを見る。
     合理主義での選択かと思ったばかりなのに、全然違った。
    「……そっか、俺もだ」
     答えがわかって肩に頭を預けた。視線で届いた熱に引き寄せられ、身体を任せる。
     甘い口付けを覚えた二人の唇が甘く、気持ちを伝え合うようだ。
     独りだとずっと何かが足りないのに、二人でいると何をしていても関係なくなる。
     暇を持て余した時の今までにない空虚な気分は、この人が不足していたのか。
     孤独でなくなってから知る、孤独感。そういえば彼が現れてから、自分が遠ざけていた仲間たちとの絆さえ、捜査を通して深まった。
     ドンシクが自ら逃げ込んだ孤独との闘いは、いつの間にか終わっていた。
    「会いたかったです。声も全然聞けなかったから」
     髪を撫で、ジュウォンが囁くのを聞きながら、ドンシクは安心と幸福で満たされていくのを感じた。
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