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    tamagobourodane

    @tamagobourodane

    書きかけのものとか途中経過とかボツとかを置いとくとこです
    完成品は大体pixivにいきます

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    tamagobourodane

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    お互いのチャンネルに日参してるVtuberのフィガ晶♂の話
    ※Vtuberパロ注意/リバの気配というか左右曖昧注意

    なりゆきで弱小センシティブめ企業Vやってる晶くんが、厄介リスナーの「がるしあさん」に悩まされつつ「フィガロちゃん」の配信に通う話
    文字通りほんとに悪ふざけの産物です

    #フィガ晶♂

     手にはワセリン、傍らにはティッシュペーパー。ジェル、コットン、ブラシだ耳かきだのが並ぶ脇には、更に行程表が見える。『耳かき左右五分ずつ、ジェルボール五分、ここで耳ふーを挟む。数分おきに全肯定、“よしよし”』。アドリブに弱い晶が、慌てないようにと自分の為に用意したものだ。
     成人男性が普通なら机の上に並べないようなそれらのアイテムの真ん中に鎮座しているのは、奇妙な形をしたマイクだった。四角く黒い躯体の両側に、二つの耳がついており、その奥に小さなマイクが設置されている――最近流行りのバイノーラルマイクというやつで、このタイプは手軽に耳かきをされているような音声を録音することができる。
     そしてその奥にあるのはモニターとオーディオインターフェース――画面に流れるのは、大手配信サイトの管理画面と、コメント欄だ。配信のタイトルが目に入るといつもげんなりするので、いつもその画面は閉じているのだけれど、今日はその手順を忘れていた。――「ぐっすり眠れる耳かきとジェルボール――入眠用ASMR♡」。
     晶は、所謂、配信者というやつをやっていた。それも自分より遥かに可愛らしい“皮”をかぶった存在、バーチャル・ライバーというやつを。

     ワセリンでべたべたにした手をマイクの耳のところに這わせながら、晶はため息をついた。今やっていることは、彼が好きでやっていることでは決してなかった。事の発端は大学の友人だった――少々金に困っていたところ、いいバイトがあるからと誘われ、それにほいほい付いて行ってしまったところから全てが始まった。
    思えばいくら大学の学費を払うのが厳しくたって、そんな妙な話には乗らない方が良かったのだ――ちょっと怖そうな風貌のお兄さんのいる事務所に連れていかれて、自己紹介をさせられただけで決まるような仕事が、まともなバイトなはずはなかった。
    数日後怪しげなマイクと機材がダンボール箱で、それからインターネット世界の為の“身体”が添付ファイルで届けられ、配信のガイドラインを貰った。晶に与えられた仕事は、大手配信サイトで、その架空のキャラクターの皮を被って、空き時間に配信をすることだった――ゲーム配信、雑談配信、歌、それからASMR。中でも深夜のASMR配信は義務付けられたメニューだった。
     自分が所謂“ちょっとセンシティブ系”の配信者事務所に所属してしまったんだと気付いた時には、もう抜け出せない雰囲気になっていた。デビューの日は決まり、サクラが盛大に晶の演じるキャラクターのツイッターアカウントを盛り上げた。
    「かわいい!男の娘なの?」「絶対領域いいね」「これはシコれるわ」――初配信でそんなコメントが流れてきた時は、仰天して、危うく椅子から落ちそうになった。


     ぬる、と頭に装着したヘッドフォンから水音に近く、もっと粘着質な音が聞こえた――モニタリングの為に、自分の出した音を聞いているのだ。始めたばかりの頃よりは大分上手くなったと思うが、この音をマイクに向けて立てる瞬間が、晶はあまり好きではなかった。何故なら、この音を立てている時、画面に流れるコメントの質が、いわばセクハラに近いものになるからだ。
    「ああ~、気持ちいいよ~♡」
    「その耳の脇のところもっとやってください!」
    「やっぱこの音最高だよね」
     コメント欄には普通だったら口には出せないような言葉が一気に流れて、それを目にするたびに晶はとても変な気分になる。自分がマイクの前で出しているこのよくわからない、変な音で、インターネットの向こうのお兄さんやお姉さん達が“いい気持ち”になっているという事実は、なんとも奇妙なことに思えたし、時折いささか性的に過ぎる単語を見れば、胃の奥がずんと気持ち悪くなった。
     けれど、晶には神経に触るコメント以上に、もっと恐れているものもあった。大抵、いつもこの音を立て始めてコメント欄が賑わうと現れるそれ――それは多分普通の配信者であれば、小躍りして喜ぶであろうという類のそれ。

    『――もうちょっと耳の奥のところ、強めにしてくれる?こう、ぐりぐりって』

     赤い枠に、¥50000の文字、それからちょっとある一定の常識的なラインを飛び越えてるんじゃないかと思うような、コメント。
     それがコメント欄に流れた瞬間、晶は、来た、と思って唇を噛んだ。
     所謂赤スパと呼ばれる高額の投げ銭付きのコメントで、配信者であれば喜ぶべきものだった。それが晶の給料になるのだから。けれど、そのコメントの脇に添えられた名前、半ば見ずとも最初から予想できたその名前を目にした時、晶はため息をつきたくなった。
     「がるしあさん」――数か月前から目にするようになったこの名前は、毎週のように晶の配信に現れては、高額の投げ銭をしていく、リスナーの名前だった。常連さん、というやつで、どうも晶のことを「推し」として応援してくれているらしく、頻繁にコメントもしてくれる。
     特に自分を熱心に応援してくれるファンもいなかった頃は、単純に彼のコメントを見る度に、嬉しいと思っていた。投げ銭のつかない、普通のコメントも拾って返すようにしていた。
    けれど、一ケ月が過ぎた頃から、何かがおかしいと感じるようになった。
    最初に違和感を覚えたのは、他のリスナーがASMRの間にやたらと「気持ちいい」とコメントをくれて、その途端「がるしあさん」が高額のスーパーチャットを投げまくった時のことだった。
    「耳の奥の方までやってほしいな」「眠れるまで一緒にいてくれる?」「きみの心音とか聞きながら寝たいな」……などなど。あからさまに他のリスナーを牽制するような、ある種の独占欲をちらつかせたそのメッセージに、コメント欄が静まり返ってしまった。
     運営のスタッフは乱発される、高額のスーパーチャットを見て喜んでいたけれど、晶としてはちょっと背筋にぞわぞわとした何かが走るような経験だった。
     そしてこれは本当におかしい、と思うようになったのは、ある日事務所に晶宛ての荷物が届いた時のことだった。――確か雑談の配信で、「本当はもっといいマイクとか買えたらいいいんですけど」と漏らした数週間後のことだったと思う。運営のスタッフが興奮しながら電話をして来たところによれば、荷物の中身はマイクだということだった。――それも、ASMR配信を始めた駆け出しの配信者であれば喉から手が出るほどほしい高級品――KU100。お値段はゆうに百万円を超える。差出人は、「がるしあさん」。
     これまた運営スタッフは大変喜んでいたのだが、このあたりからさすがに、晶にこの仕事を紹介した友人も心配しはじめた。彼曰く、がるしあさんは「ガチ恋勢」というやつに分類されるらしく、そういうリスナーは恐ろしいのだそうだ――人によっては配信者の中身を暴き出し、自宅に突撃しようとする者もあるらしい。
    『うちの事務所さあ、何度もライバーの情報漏洩やらかしてるから、気を付けた方がいいよ』。彼のそんな言葉を聞いた時は震えあがった。


    『今日は心音聞かせてくれないの?』
     また赤スパが飛んで、晶の胸の奥がずんと痛んだ。
    それはセクハラみたいなコメントを貰った時の、ちょっと気持ち悪い、というのともまた違う感情で、よくよく分析してみれば、恐らく罪悪感なのだった。
    毎週自分に数十万の金を投げてよこすこの男は、この配信でコメントを読まれること以外、特に恩恵を受けることもないのだ。それなのに健気に晶の配信に通っては、「ガチ恋」ってやつを続けている。
     人は自分には到底返せないと思うような好意を向けられることを厭う傾向にある。晶もまたそういう一般的な感覚を持ち合わせた人間で、到底報いてやれそうもないこの好意に困惑していたのだ。
    「心音、ききたいですか?」
     晶はマイクを手に取ると、それをそっとそのまま胸に押し当てた。どくどくという心音が多分、リスナーの左耳に響いているはずだ。全世界に向けて自分の心臓の音を発信する、それでリクエストをよこした見知らぬ男を慰める、考えてみたらちょっと、躊躇してしまうような行為ではあった――けれど、投げてよこされた金額を考えたら、せめてこのくらいはしてやりたいなと思った。
    「気持ちいいですか」
     晶が小さく囁くと、「うん、とっても」とまたコメント欄に見知った名前が現れる。
     ただひたすら心臓の音をマイクに飲み込ませながら、一体この「がるしあさん」というのはどんな人物なのだろう、そう頭の中で想像する。ぽんぽんと投げてくる金額を見ると、多分金持ちなのだろう――孤独な医者とか、投資家とかだろうか。もしかしたら酒のグラス片手にえらく綺麗な部屋で、物凄く高級なイヤホンで晶の心臓の音を聞いているかもしれない。――そんな風景が目に浮かんだ時、晶はちょっとやるせない気持ちになった。
    『すきすき、って言って』
     再び赤スパが飛んだ。¥50000。
     最高額を積んでよこされるということは、よほど叶えてほしいリクエストなのだろう。これまた怯む内容ではあったが、それだけの金を積まれては、事務所の方針からしてもやらないわけにはいかなかった。それに、それだけの「好意」を見せつけられて何も返さないという選択が、晶の中にあるはずもなかった。
     お金を投げてもらうこんな言葉が、彼にとっては意味があるんだろうか――そんな風に心の中に隙間風を感じながらも、晶は唇をそのままマイクに近付けた。そして無意味なその二文字の羅列を繰り返す。
    「すきすきすきすき、あなただけが、だいすき」



     「がるしあさん」が現れた配信の後は、いつもぐったりとくたびれてしまうので、数十分はまともに動けなくなる。二十分ほど机につっぷした後で、ようやくシャワーを浴びて、冷蔵庫の中の炭酸飲料を飲んで、息をつくことができた。
     そのままパソコンの電源を落としてしまおうかとも思ったが、ちょっと考えてから、あるチャンネルのページを開いた。寝る前に、自分自身にもちょっとした癒しが必要だと思ったのだ。
    晶には、特に疲れる”仕事“の後にご褒美のように通っているチャンネルがいくつかあって、大抵は猫の動画のチャンネルなのだが、ひとつだけその中に、晶自身と同じような”Vチューバ―“のチャンネルが混じっていた。名前を「フィガロちゃん」という。
    フィガロちゃんは、猫耳の可愛らしいVチューバ―で、ちょっとセンシティブだけど笑いを誘う動画や配信が売りの配信者だった。やたら喘ぐアクションゲームの配信から辛い食べ物のレビューまで、色々な企画で視聴者を楽しませてくれるので、晶も自分の配信の参考にしようと、いつしか通うようになっていた。
    ゲーム配信からASMRまでその技術力は高いが、何よりフィガロちゃんはバーチャル・美少女・受肉おじさん、通称バ美肉おじさんで、そんなおじさんが一生懸命ASMRとかやっているというところも、恐らく視聴者を引き付けている。晶もまた、そんなフィガロちゃんを可愛いと思って応援しているうちの一人だった。
     一説によればフィガロちゃんの中の人は大手の事務所、まほライブの人気Vチューバ―で、趣味としてこの「フィガロちゃん」を運営しているらしいが、その「中の人」の話を聞いた時、晶は我が耳を疑った。この人物には晶もオフラインイベントで、会ったことがあったからだ。
     企業に所属する配信者が集まっての催しでのことだったので、短い会話をいくつか交わしただけの相手だが、えらく背が高くて、顔のいい男だった。そのままでも芸能人として通用しそうなのに、変わった選択をする人もあるものだと、そう思ったのをよく覚えている。

     フィガロちゃんのチャンネルのトップページを開くと、ちょうど配信が行われているところで、可愛らしくデザインされたサムネイルがおどっていた。タイトルを見ると、ASMRの文字がある――夜も遅い時間なので、入眠時に人気の配信を行っているのだろう。
     晶はヘッドフォンを装着すると、そのまま配信の再生ボタンを押した。すぐに画面には猫耳をつけた、藍色の髪の美少女の絵が広がって、宝石みたいに描かれた翠色の瞳が、魅惑的な視線をこちらに送って来る。
     ヘッドフォンから聞こえてくるのは、ざりざりという何かを擦るような音――多分、耳かきとか、指かきの音だった。
    『きもちいい?』
     フィガロちゃんはリスナーに向かって囁く。コメント欄には、そんなフィガロちゃんを賞賛するメッセージが「最高です!」とばかりに飛び交うが、それを見て平然としていられるのはさすがだな、と晶はほとほと感心した。
    『――みんな、素直だから、今日はいっぱいサービスしてあげるね』
     目を閉じると、かさこそという心地よいノイズが、耳を満たした。自分でやっている時は何がいいのかわからないただの雑音だったが、時折差し挟まれるフィガロちゃんの囁き声と共に聞けば、不思議と心が落ち着いた。
     ストレスのたまるコメントやら投げ銭やらで重くなった心も、ちょっぴり解れて眠れそうな気分になってくる。
     ふと目を開けると、配信画面の隅に、「今日は新機材だよ♡」という字が見えた。これだけの音質だから相当の投資をしているのだろうなと考えて、ふとフィガロちゃんのお財布のことが気になった。この手の配信が心労のもとになりがちなのは、晶もよく知っている――仕事疲れの自分を癒してくれる、このアイドルのフィガロちゃんに、美味しいものでも食べて欲しいな、と考えた。
    『いつも聞かせてもらってます、頑張ってください』
     アカウントを普段使いの実名のものに切り替え、そっとスーパーチャットのボタンを押す。以前も少額の投げ銭を送ったことはあるが、今回はそれとは比べ物にならないほどの額を――最高額を送っておいた。――もしかしたら、自分が数時間前に受け取った、身に余るお金を手っ取り早く使ってしまいたかったのかもしれない。金を送ってよこした当の男に還元されないのは悲しいが、せめてこのお金で多少業界が回れば、などと考えていると、心はだいぶ軽くなった。
    『晶、ありがと』
     耳元で囁くような、ひどく近い声が右耳から聞こえた。
    『――むりしないでね。でもうれしいな……お礼に、舐めてあげちゃうね』
     じゅるり、数秒後に聞こえたのは多分、そんな音だった。
     耳舐めだ、と背筋にぞくりとするような感覚が走った。所謂“スレスレの配信”で行われる類のもので、フィガロちゃんが普段はリスナーへのサービスとして行っていないものだった。ある種チャンネルの“BAN”、削除を覚悟して行われるものなので、高額とは言え、投げ銭への対価としては、いささか過ぎるような気がした。
    『は、……ん、――あったかいね、きみの耳のなか』
     くちゅ、くちゅ、と唾液の音が聞こえて、耳の中まで舌がさし込まれたかのような、脳を震わせるような深い音が聞こえた。フィガロちゃんが猫のキャラクターであることを考えると、今自分は猫ちゃんに耳を舐めてもらっているのだ、いや、中の人の噂のことを考えれば、あの彫刻みたいなイケメンに――様々な妄想が巡って、なんだか頭がくらくらするような、変な気がした。
    「気持ちいいです、ありがとうございます」と遠慮がちに、届くかはわからないメッセージを打ちこむと、思いのほか、フィガロちゃんはすぐに反応してくれた。
    「――ふふ、そんな喜んでくれちゃうと、嬉しくなっちゃうな。――会いに行きたくなっちゃうかも。……こんど、行っちゃおうかな」
     ぺちょぺちょと、可愛い子猫みたいな、舌を這わせる音がする。
     今夜は良く眠れそうだなと思いながら、晶は配信をスマートフォンの方に移し替えて、それからイヤホンを耳に突っ込んで布団に入った。
     相変わらず時々耳を舐めてくれる、フィガロちゃんの囁きを聞きながら。








    ========================

    ■この話を読む為の誰でもわかるV用語集■
    Vチューバ―→動くLIVE2Dの皮を被った配信者
    ASMR→バイノーラルマイクで配信される、感覚をぞわぞわさせるような音(焚火とか、耳かきとか)
    バーチャル美少女受肉(おじさん):LIVE2Dの美少女の皮をかぶったおじさん。バ美肉。
    スーパーチャット(スパチャ)投げ銭。赤が1~5万円で最高額ライン。
    耳舐め→センシティブVが行き着くYOUTUB〇最後のギリギリライン。やると大抵収益化をはく奪される。この先には健康器具配信もあるけど大体BANされる
     
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    🙏🙏💕😭💴💴💴😭💴💴🙏💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴☺💕💴💕💴💴💯💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴😍💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴
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    tamagobourodane

    DOODLEお互いのチャンネルに日参してるVtuberのフィガ晶♂の話
    ※Vtuberパロ注意/リバの気配というか左右曖昧注意

    なりゆきで弱小センシティブめ企業Vやってる晶くんが、厄介リスナーの「がるしあさん」に悩まされつつ「フィガロちゃん」の配信に通う話
    文字通りほんとに悪ふざけの産物です
     手にはワセリン、傍らにはティッシュペーパー。ジェル、コットン、ブラシだ耳かきだのが並ぶ脇には、更に行程表が見える。『耳かき左右五分ずつ、ジェルボール五分、ここで耳ふーを挟む。数分おきに全肯定、“よしよし”』。アドリブに弱い晶が、慌てないようにと自分の為に用意したものだ。
     成人男性が普通なら机の上に並べないようなそれらのアイテムの真ん中に鎮座しているのは、奇妙な形をしたマイクだった。四角く黒い躯体の両側に、二つの耳がついており、その奥に小さなマイクが設置されている――最近流行りのバイノーラルマイクというやつで、このタイプは手軽に耳かきをされているような音声を録音することができる。
     そしてその奥にあるのはモニターとオーディオインターフェース――画面に流れるのは、大手配信サイトの管理画面と、コメント欄だ。配信のタイトルが目に入るといつもげんなりするので、いつもその画面は閉じているのだけれど、今日はその手順を忘れていた。――「ぐっすり眠れる耳かきとジェルボール――入眠用ASMR♡」。
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    りう_

    MAIKINGフォ学オンリーの新作です。
    完成は後日になりますが、登場人物数人で繰り広げられるフォ学サスペンス?のようなもの。
    出来上がり次第、追記していく予定です。
    あんまりフィガ晶♂ではないですが、追々そうなっていくと思います。
    ※開幕で人が死んでいますので要注意。
    フォ学なんちゃってサスペンス「……っ」
     ぴちゃり、と音を立てるものはなんだろう。ぼんやりと足元を見下ろす先に、見覚えのある色が見えた。
     ふわふわと柔らかそうで、けれど冬の海のような、どこか冷たさをはらんだ灰と青。
     暗闇に目が慣れて来たのか、ゆっくりと目の前の光景が像を結ぶ。いつも清潔に整えられているはずの髪が乱れて、その色が床に散っていた。
    「…ぁ…」
     知らず、声が漏れる。視線が、無意識にその先を追う。
     ぴちゃり。もう一度あの音がした。
     その時初めて、嗅ぎ慣れない何かの匂いを感じる。生臭く、空気ごと重くするようなその匂い。
     灰青の先。多分、背中のあたり。ベージュのベストが赤黒くグラデーションしている。
     どうしてだろう。
     鮮烈すぎる光景は思っていたよりも彩度は無い。それでも、『それ』が赤いのだ。赤かったのだと分かる。分かってしまう。
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