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    aoitori5d

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    トーマの思い出話を膝枕で聞いている空くんという体で読んでください。後々、ほかの短編と合わせてpixivに掲載する予定です。
    トーマ好感度ストーリーのネタバレがあります。温和なトーマにしてはトゲのある台詞が印象的だったので取り入れました。本編でモンド人たちとの絡みが見たいです。

    #空トマ
    emptyToma

    きみの知らない道を歩く 鳥の歌声がトーマを微睡の淵から呼び起こした。体温の移った布団から這いだし、カーテンを開ければ澄み渡った青空がモンドの城下町を覆っている。窓を開けると爽やかな風が室内を通り抜け夜の淀んだ空気を追い出す。小鳥たちに合わせるように聞こえる歌声は隣の家の少女のものだ。いつかモンド歌劇団に入団しスタァになるのだと夢見て、毎日熱心に練習を続けている。ぐぐっと背伸びをして寝ている間に凝り固まった筋肉をほぐすと軽やかにベッドから飛び降りる。ポイポイとパジャマを脱ぎ捨て、クローゼットから石鹸の香りが漂うリネンシャツを取り出し着替える。父のお古のそれはもう随分と年季の入ったものだけれど、何度も洗われて繊維が柔らかくなったおかげで着心地は抜群だ。最後に鏡で身だしなみを整えてから、パジャマを抱えて焼きたてのパンの香りが漂う階下へと向かう。
     「おはよう、母さん」
     「あらおはよう、トーマ。今日もいいお天気ね」
     食卓テーブルの上にはテイワット風目玉焼きとカリカリになるまで焼いたベーコン、そして新鮮なサラダと焼きたてのパン。
     「わあ、アカツキワイナリーの葡萄ジュースだ」
     「そう、さっき朝市に行ったら最後の一本を運よく買えたの。人気だからいつもあと一歩のところで買えなかったのよね、今日は運がいいわ」
     アカツキワイナリーの現当主は歴代の中でも随一と言っていいほど商才に長けていた。武門の家であるラグヴィンド家にしては珍しく、武芸の才はそれほど秀でてはいなかったようだが、甘い果実ジュースや城下町での直営店の経営をはじめ、更なるワインの改良と長期輸送に耐える容器や販路の拡大によって、かの家の財は一代で倍、いやそれ以上になったと市民の間では噂されている。しかし教会や孤児院、騎士団の療養所への寄附を惜しまない姿から、ラグヴィンド家の人気は鰻登りだ。影では騎士団や西風教会ではなくラグヴィンド家こそがモンドの支配者だと言う者もいるくらいには。だがトーマたち一般市民にとって重大なことはラグヴィンド家がどうこうではなく、人気さゆえになかなか手に入ることのできないジュースが運よく買えた、それだけである。紫色のボトルを抱いて嬉しそうに頬擦りする母に笑い、椅子に腰かける。
     「いただきます」
     「はい、召し上がれ」
     食事の前には手を合わせる。これは父の国の習慣だそうだ。モンドでは風神バルバトスの風の恵みに感謝の祈りを捧げるが、毎朝毎晩、食事の度に祈る者は敬虔な西風教会の信者くらいのものだ。だが妙に身体に染み付いてしまった。モンド人の母も不思議なものねと笑って手を合わせるので、トーマも幼い頃からの習慣を特段思うこともなく続けている。だれに祈るの? 幼い頃、父にそう尋ねたことがある。ここはモンドだけど、遠い遠い稲妻の神様に祈っているの? 父はすこしの間目を閉じ考え込んで──ニカッと笑った。
     ──ちょっと違うなあ。雷電将軍だけじゃなくて、父さんはいまあるすべてに感謝しているんだよ。いま母さんとトーマと美味しいごはんが食べられて幸せだなあ。それはこのパンを作るために小麦を育ててくれた人や、獣肉となった猪、目玉焼きになった鶏の命すべてのおかげだ。そしてこのテイワットという世界が平和だからこそ、俺たちはこうやって穏やかな朝食を迎えることができる。それに感謝しているんだよ……──
     稲妻人らしく、普段から口数の多い人ではなかった。それでも、トーマが尋ねたことには一つ一つ丁寧に答えてくれる人だった。稲妻はどんなところなの、武士ってどういうものなの、騎士とはどう違うの……。
     「あっ、そうそう。これを買うときジョージさんが教えてくれたんだけど……」
     机に並んだすべてをきれいに平らげ、楽しみにとっておいた葡萄ジュースは町の人が噂する通り、甘くて芳醇な葡萄をそのまま食べたように幸せになるものだった。大事にこくり、こくりと一口ずつ味わっていると、同じように食後のジュースを愉しんでいた母が思い出したようにあっと声をあげた。
     「今日は午後からヒルチャールの討伐隊が出立するそうよ。隊長さん、ラグヴィンド家のディルック様ですって。ほら、先日騎兵隊長に叙任されたばかりの」
     「ふうん……って、母さん。目がキラキラしてるけど」
     「ね、町のみんなも見送りに出るって。トーマも見に行きましょうよ、きっと素敵な騎士様よ。隣の地区のメアリーさん、巡回中のディルック様に助けられてからすっかりファンになっちゃって」
     トーマの母は無口で無骨な稲妻人らしい父とは正反対の、自由気ままでおおらかで、吟遊詩人の詠う騎士道物語に恋するような……そんなモンド人らしい女性だった。瞳をキラキラと輝かせ、無邪気に何を着ていこうかしら、お化粧なんてしたらはしたないかしら、とくるくると表情を変えながら話す母を、トーマは困ったような笑みで見つめた。いいも悪いも、トーマの意志は決まっている。母がしたいと思うことを、トーマは叶えてやりたい。父がいなくなったあとも明るくトーマを照らし続けてくれた母の願いなら、なんだって。
     「わかったよ。お見送りに行こう、母さん」

     「うわ、すごい人だかりだ」
     昼下がりの城門前は祭りでもないのに人でごった返していた。ベランダから身を乗り出す少女に、屋根に上がる少年。吟遊詩人は若き騎兵隊長を詩にしようと前列を陣取り、トーマたちが着いた頃には巡回の騎士たちでも抑えきれないほどになっていた。
     「母さん、見える?」
     「ううん、全然!」
     どうにか人の波から外れすこし落ち着いたところに抜けたが、そこからでは騎馬の状態でも顔が見えるかどうかの位置だ。
     「なんとか前に出られないか、試してみようか?」
     トーマは身のこなしには自信があった。するすると猫のように、トーマ一人だけなら前に抜けられる。だが母はううんと首を横に振った。
     「この人混みじゃ危ないわ。大丈夫よ、ここからでも十分お見送りできるわ。だってディルック様は……」
     母がそう言いかけたところで、高らかにラッパの音が鳴り響いた。ざわざわと人のどよめきが大きくなる。いらっしゃったみたい、と母がトーマの腕に縋り付きながら囁くような小声で耳打ちした。やがてどよめきはさざ波のように揺らめき、その向こう側から騎馬隊の蹄が石畳を打つ音が近づいてきた。
     「ディルック様! 西風騎士団万歳!」
     誰かが叫んだ。すると群衆が一斉に同じように叫ぶ。西風騎士団万歳、ディルック様万歳、西風騎士団に栄光あれ……。まだ討伐もなしていないのにこの騒ぎか、とトーマがどこか白けた感想を抱いた瞬間、透き通るように透明な声が耳朶を打った。
     「ありがとう。でも賛辞は帰ってきてからにしてくれ。モンドの安寧を脅かすものをすべて討ち滅ぼし、僕らはまたここに戻ってくる」
     陽の光を浴びて輝く白銀の鎧をまとった白馬に少年が騎乗していた。率いた隊の面々に比べはるかに幼い……いやあどけない風貌の少年は、ろくに鎧さえも纏っていない。騎士団の制服の上から申し訳程度の胸当てや籠手を着けただけで、見てくれだけで言うなら冒険者協会の新人冒険者といったような風体だ。だが、そうではないことは戦いに疎いトーマでもよくわかった。周りの集まった人々もそう感じたのだろう。あれだけのざわめきは水を打ったかのように静まり返り、時折感極まって鼻を啜る音が聞こえるのみ。騎兵隊の行く先をみな黙って開け、その間を騎士たちが闊歩する。群衆の間を通り抜けるその一瞬、トーマはあれだけの人々をたった一声で沈黙させた少年の横顔を捉えた。
     「──きれいだ……」
     長い赤毛を一つに括り、白馬を駆って城下から討伐へ向かう少年……いやディルック・ラグヴィンド。その腰には一際美しく、炎の神の目が輝いている。そばかす一つない頬は林檎のように赤く、その瞳はまだ見ぬ敵を思ってかギラギラと燃えていた。統率のとれた騎兵隊から一頭の馬が躍り出、ディルックの半歩後ろについた。赤毛とは対照的な、夜の闇のような藍色の髪のこれまた少年が何事か囁く。ディルックは大きな瞳を瞬かせ、不敵に笑って大剣を振り上げた。
     「誇り高き西風の騎士たちよ、いくぞ!」
     オオオオ……! ディルックの勇ましい、それでいて伸びやかで穏やかな檄のあとに、野太い騎士たちの喊声が上がる。地響きを上げてあっという間に草原の向こうへと消えていった騎兵隊に、残された人々は暫し呆気にとられ、それから歓声が沸き起こった。ディルック様の美しさを見たか、我が西風騎士団の勇猛さを見たか。吟遊詩人はいま見た光景を余さず書き残そうとノートを取り出し、男連中は仕事を忘れ酒場へ繰り出そうとする。倒れ込んで友人に介抱されている少女もいれば、風神バルバトスに感謝の祈りを捧げる老女もいた。まるでモンド建国の英雄譚のような光景だな、とトーマは思った。若く美しい騎士と屈強な騎士団。御伽噺のようで、それでも胸がドキドキと高鳴っていた。隣で母が、あんまりディルック様が見えなかったわ、とぼやいている。おれは見えたよ、かっこよかった、と言えば、母は唇を尖らせてずるいわと拗ねてみせたがそれも一瞬のこと、トーマはあっという間に身長が伸びたものね、とすぐに笑った。
     「ほら、ディルック様は遠目からでも赤毛が映えて美しかったでしょう。無事に帰って来られることを祈りましょう」
     「……うん、そうだね」

     トーマはモンドが好きだ。一日中涼しくて爽やかな風が風車を回している町の光景が好きだし、食べ物は美味しく、一歩城下から外にでれば広大な草原が広がり、遠くに見えるドラゴンスパインや璃月の山々の稜線、海岸は穏やかな波が打ちつけ、雄大な切り立った崖から見渡すモンドの風景はどこの国よりも美しいと思う。だが、好きではないところもある。トーマはモンド人と稲妻人との間に生まれた子供だった。見た目は典型的なモンド人らしい、金髪碧眼ですらりと背が高い。下町の子供たちはトーマを同じモンド人だと思っているし、大人たちは流れ者の父を持つ子供として同情を含んだ優しさをくれる。だがそんなことは大した問題ではない。与えられた優しさの裏を勝手に推し量って悲しみに暮れるほど悲観主義でもなかった。だがそれとはまったく別の問題がある。旧貴族と呼ばれる、モンドの嫌われ者。ローレンス家などは未だに自らを特権階級と信じ込み、平民を下賤なものと蔑む。それだけならトーマはへらへらと笑ってやり過ごし、あとで下町の仲間内でやいのやいのと笑い話に変えていただろう。だが彼らはトーマの生まれを侮辱した。モンド人以外と交わり子を為した母を嘲笑った。別に何を言われたわけでもない。ただ身振りが、犬でも追い払うかのような手つきが、すべてを物語っていた。そんなものだから、トーマは貴族というものが……いや人の上に立つ者というのがどうにも苦手になっていた。だからラグヴィンド家の坊ちゃんが騎兵隊長として絶大な人気を誇っていても、それを遠くから白けた目で眺めていたのだ。どうせ貴族、どうせ金で買った地位、そんな風に。だがそれは大きな間違いだったと認めざるを得ない。彼の持つ天性のカリスマ、いや魅力と言った方がいいか。それは本物で、彼のためなら命を擲ったって構いやしない、そんな風に思わせる男だった。もちろんトーマは戦うのがからきしダメなので、思うだけに留まるだろうけれど。夕食時、そんな風に母に話すと、母は少しだけ眉を下げて笑った。
     「トーマ。お父さんはよく言っていたわ。忠義を捧げると誓った者が現れたとき、あれが苦手、これはできない、なんて道理はどこかにすっかり飛んでいってしまうって」
     「……? へえ、そうなんだ。稲妻人って面白いね」
     この時、トーマは母がどうしてそんなことを言ったのか、また、父がどういう気持ちでその言葉を語ったのかわからなかった。トーマの気のない返事を聞いた母は、そうね、面白いわね、と言って微笑むだけだった。

     母のその言葉が身に染みて、いや天啓のようにその身に落ちたのは、自分が父の言う“忠義を捧げる”と誓う相手ができた日のことだった。着の身着のまま、稲妻に漂着した自分を拾ってくれた少女と、少年と青年の狭間に立つ嫋やかな男。彼らの家が存亡の危機を迎えた日の夜、トーマの眼前にかつて煌々とモンドの陽の光を浴びて輝いていた神の目と同じものが現れ出でた。稲妻を離れるべきだ、と諭された瞬間、トーマは全身の血が沸き立つような、ふつふつと煮えたぎって収まらないような、そんな心地に包まれた。
     ここでモンドに帰ったら──きっと母は喜ぶ。もとからさして父の行方に興味はなさそうだった。見つからなかった、残念だったと告げたなら、お疲れ様と労って、あなたの好きなシチューができているわと優しく出迎えてくれるだろう。けれどその瞬間、トーマの身体に流れる稲妻の血はそこで永遠に失われる。稲妻人としてのトーマは死ぬのだと直感的に悟った。だがここで稲妻に残れば──悪意に満ちた策謀がトーマを縛ることになるだろう。どこへだって好きな時に好きな場所に出かけることはできなくなる。風に誘われるまま出かけることもできず、足元を掬われないように、幼い少女と主となる男の弱みにならないように、面従腹背の輩どもの裏をかき、薄氷を渡るような心地でいることになる。
     「──それでも」
     ぎゅっとこの地に来てから与えられた着物の裾を握る。金髪碧眼のトーマに幼い少女がくれた赤い着物。心無い者から、稚児が増えたかなんて言われたこともあった。稚児、の意味するところがそのとき理解できなかったのは幸いと言えた。そうでなかったら、天領奉行の兵を一人殴り殺していたかもしれなかった。それでもその着物を脱ぐことはなかった。これを着ていたなら、自分も稲妻に溶け込めたような気が、稲妻人としてのトーマになれた気がした。たとえ自分の心のうちだけのものだとしても。震える声で続ける。
     「それでも、おれはあなたと共にいる。ここでおめおめと逃げ帰ることなんてできない」
     「おれに忠義を果たさせてほしい。綾人様、あなたの──あなたと綾華様のために、おれを死なせてほしい」
     戦いは苦手だけれど。きっと自分はモンドの貴公子のように、先陣を切って皆を率い、敵を討ち滅ぼすことなどできない。けれど誰よりも主人のそばにいて、主人を守るために武器を取ることならできる。煌々と輝く炎の神の目を前にそう呟くトーマを見つめ、綾人は唇を薄く持ち上げた。
     「きみを信じてよかった」



     そんな話が終わったのは、夜も随分と更けた真夜中のことだった。稲妻式の布団のなかでぽかぽかと温かなトーマに半分抱きかかえられながらの昔話に、空はさっきから落ちて戻りそうにない瞼を擦りながら頷いた。
     「たしかに、トーマってモンド人でもあり稲妻人でもあるんだね、お得じゃん」
     「……ハハッ! お得、お得かあ……そう考えたことはなかったかも。そうだね、おれってお得な人間だ」
     「ディルックさんって昔からかっこよかったんだ……」
     うとうとと眠たげな声の空の言葉に、トーマも力強く肯く。
     「そうそう。きみと出会って彼とも何度か一緒に戦う機会があったけど、やっぱり思った通り、とても強くて頼りになる、美しい人だね」
     でもおれの記憶にあるよりちょっと暗い、いやいや落ち着いた雰囲気の人だったけど。もっとこう、天真爛漫を絵に描いたような、そんな印象だったように思ったけれど。
     「ねえ空、きみは何か知ってる……って、ふふ……おやすみ、空」
     すうすうと寝息を立てて眠る子供の前髪をかきあげ、つるんと丸い額にキスを落とす。結局あれから一度もモンドへ帰っていない。神里家が落ち着くまでの数年はもちろん、鎖国令からの目狩り令、天領奉行と勘定奉行の他国への内通など目まぐるしく事態は急変し続け、トーマも主人の綾人も家でのんびりするどころか顔を合わせることさえめったにできない日々が続いてしまった。その最中、トーマは自身の忠誠と忠義の化身である神の目を奪われそうになった。神の目が無情にもトーマの腰から離れ、美しく冷たい神の手に落ちそうになったとき。捕らえられたトーマの横を飛び神の目を取り戻したのは、懐かしいモンドの風の匂いがする少年だった。
     「モンドに帰ったら、母さんに話したいことがたくさんあるよ」
     おれはいま、命を捧げられる主人のもとで働いているんだよ。大変なことはそう、色々とあったけれど。
     「……ごめんね」
     結局母を一人にしてしまった。突如行方をくらませた父を連れ戻すと息巻いておいて、消息を出したのも随分前の話になってしまった。人付き合いの上手な母のことだから、なにかあってもうまく切り抜けて楽しく過ごしているだろうとは想像がつくが、それでもたった一人の息子さえも遠くの地に行ったきり戻らないというのは、ひどく残酷なことのように思えた。
     ──なに言ってるの。トーマのやりたいことをやっているのが、母さん一番幸せなんだから。
     「母さん……」
     ──トーマ。ありがとう、私たちを選んでくれて。
     「若……うん、おれはいつでもあなたのお傍に」
     モンドに帰ろうと思えばいつでも帰ることができたのだ。名高い璃月の南十字船隊の船長、北斗に頼むなりなんなり、手段はいくらでもあった。鎖国令が発される前、そして今。チャンスは無数にあり、そのどれもをトーマはただ見過ごしてきただけ。言ってしまえば怖かったのだ。故郷に帰るのが。母の顔を見るのが。稲妻に戻ろうとしなくなるのではという己自身が。
     「……空、きみがいてくれたら」
     今度こそ胸を張って帰ろう。稲妻の櫻と、美しい着物。流行りの八重堂の小説に、長野原の花火を持って。そして戻るのだ。セシリアの花束を抱いて、永遠の神が見守るこの国、トーマが命を賭して守ると決めた主家のもとへ。
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