習作 続き 夏侯惇の手からS市の市長の手に大ぶりののし袋が渡った瞬間、一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。市役所のホールに報道陣を集めて行われたこのセレモニーの映像を、曹操は工房の事務室で観ていた。夕方の地元ニュース番組だ。
市の歴史的建造物の保存会に、夏侯惇が多額のポケットマネーを寄付したことをキー局のアナウンサーが伝えている。続けて流されたインタビュー映像では、夏侯惇が今掛けている眼鏡が同市の曹工房のものであり大変気に入っていることが当人の口から語られ、商社という立場で同市のビジネスをサポートし共に発展してゆきたい、との常套句で締められていた。
お陰で今日の午後は取材の申込み電話が鳴り止まず大変だったのだ。工房の名を出すならせめて事前に知らせてくれ、と思いつつ少し首の角度を変えて室内を見遣ると、今しがたニュースに出ていた男が部下達と談笑している。
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