夏の終わり、君との始まり。 昼過ぎからの曇天は、日が沈む頃には叩きつけるような豪雨へと変わっていた。大粒の雨を伴う強風が洗面所の小窓を揺らしている。
しとどに濡れた髪をタオルで拭きながら、ダイは細く開けた窓から厚い黒雲を窺った。今日は一日快晴との予報だったため、すっかり油断してしまっていた。外に干した洗濯物は全滅で、傘を持たずに外出したダイも濡れ鼠である。
「じいちゃん、怒るだろうなぁ」
同居する祖父ブラスの怒り顔が目に浮かぶ。町内会の会合があると言っていたが、そろそろ帰宅する頃合いだ。洗濯物は仕方ないとは言え、全身ずぶ濡れの姿を見られたら最後、家の中なのに雷を落とされてしまう。注意力が足りない証拠だと、いつものように孫の手でぴしりとはたかれてしまうだろう。
孫の手で可愛い孫を叩くのは間違ってるんじゃないかなぁと常々思っているが、余計な口を挟むと倍以上のお説教が返ってくるものだ。見咎められる前にと、ダイは濡れそぼったシャツと取り込んだ衣類をまとめて洗濯機へと放り込んだ。
脱いだついでにシャワーを済ませ、風呂好きなブラスのために浴槽を軽く掃除する。祖父との二人暮らしでは、ダイも立派な家事要員だ。料理は何度やっても今ひとつだが、それ以外は難なくこなせるようになっていた。
ダイは今年で十七歳になった。父はバラン、母はソアラ。二人とも仕事が多忙で家を空けることが多いため、当然のようにじいちゃんっ子になった。もっとも、じいちゃんと慕いつつも、ブラスと直接の血のつながりはない。駆け落ち同然で結婚した両親を陰日向なく支えてくれた、遠い親戚である。
そのブラスは、まだ帰っていないようだった。掃除と洗濯を片付けている間にも、雨はさらに勢いを増している。一瞬、迎えに行こうかとも考えたが、ダイはすぐに頭を振った。ごうごうと音をたてて吹き荒れる風に、雷鳴まで交ざっている。この調子では、ブラスは集会所を出ることすらままならないだろう。ダイ自身も下手に動くと危険だ。
「夕飯でも作っておこうかな」
薄手のスウェットを履きつつ、冷蔵庫の中身を思い浮かべる。昼前に届いたメールでは刺身を買っておいたとの話だったから、米を炊いて漬け丼にしても良いかもしれない。
それくらいならば自分でも準備できると算段して、台所へと続く引き戸を開けた時。耳に飛び込んできた調子外れの鼻歌に、ダイは思わず身構えてしまった。
「おぅ、遅かったな。使わせてもらってるぜ」
振り向いた青年が軽く手を挙げる。その気安い様子にダイの心が波立った。
「……ポップ。来てたんだ」
そこには、この一ヶ月半の間、連絡ひとつ寄こさなかった幼なじみがいた。
「メシ、まだだろ? そうめんを茹でたから一緒に食おうぜ」
言いながら、ポップは少量の麺を流水でまっすぐに伸ばしてくるりと指に巻きつけた。勝手知ったる人の家とばかりに食材を探し出したのだろう。一口サイズに整えた麺を皿に乗せると、ミョウガ、大葉、オクラ、鮪の刺身やイクラなどを手際よく乗せていく。
ポップは歩いて数分の商店街に住む、三歳年上の幼なじみだ。彼の父が営む金物屋へブラスにくっついて出入りしているうちに、子供同士の付き合いも始まった。近所に同年代の子供がいなかったこともあって、ダイは年上なのに年長者らしくない、お調子者なのに何故か憎めない少年との遊びに夢中になった。
そんな彼がダイの家で台所に立つのは珍しい話ではない。今夜のように祖父が不在の時は、頼まれたわけでもないのにやって来ては、簡単な食事を作ってくれる。
「きれいな巻き方だね。おばさんから教わったの?」
どうかこの緊張が、あいつには伝わりませんように。
祈るような気持ちで目を閉じてから、ダイはシンク前に立つポップに歩み寄った。
「いや? 暇つぶしに見た配信でやってて、面白そうだったから真似してみた。腹に入っちまえば同じだけどよ、たまには風情があっていいだろ」
何でもないことのようにいってのけるが、ダイにしてみれば大事だ。育ち盛りの少年にとって、料理は見た目よりも味や量、そしてスピード重視である。また、老人と子供の二人では盛り付けにまで気が回らないことが多い。それに比べてポップは、料理に限らず探究心が旺盛だった。少しでも興味を惹かれたものは、それが何であれ、いとも簡単に再現してみせる。いわゆる天才肌というやつなのだろう。指摘するたびに、スポーツ万能の天才に言われてもなぁと肩をすくめられてしまうけれど。
味見してみっか? と問われて素直に頷くと、ポップは小さく切った鮪ときゅうりをダイの口に放り込んだ。
「ポップ様特製の醤油漬けだ。うめぇだろ?」
言われたとおり濃厚でまろやかな甘みだったが、それ以上に惹かれたのはポップのしなやかな指先だ。実験の邪魔になるからときれいに整えられた爪が、からかうように唇の縁をなぞっていく。その指にしゃぶりつきたい衝動を、ダイは必死に抑え込んだ。
「……うん。ポップが作ってくれるものは、いつだって美味しいよ」
「そりゃ、どーも」
返事まで間が空いてしまったが、不自然に思われなかっただろうか。
配膳の準備をするふりをしてポップに背を向けた。怪訝な顔をした青年の視線を感じ、自分の家だというのに居心地が悪い。食器棚から皿や箸を取り出している間にも、彼は上機嫌で話しかけてくる。それに半ば上の空で相づちを打ちながら、ダイはそっとため息をこぼした。
地元の商店街で行われた七夕祭りの夜、ダイはポップに告白した。戻り梅雨で開催が危ぶまれていたが、奇跡的に晴れ間が覗いた日のことだった。
本当は伝えるつもりなどなかった。人当たりが良く、機転も利くポップは男女問わず人気がある。加えて、無類の女の子好き。可愛い子にはすぐに鼻の下を伸ばす、スケベが服を着て歩いているような奴だ。恋人の存在は聞かされていなかったものの、普段の言動からして脈があるとは思えなかった。だから、いつの頃からか自覚した疚しい気持ちは、ずっと告げることなく抱えていくはずだった。
きっかけは何だったのか。
あの日の記憶は曖昧で、細部を思い出せない。驚いたポップがわずかに身を引いた、その一瞬だけが、色褪せた無声映画のように繰り返し再生されている。
「ごめん」と一言だけ送ったメッセージアプリを開くこともないままに、部活と課題に明け暮れる夏休みが始まった。ポップもバイトなどで忙しかったのだろう。この一ヶ月半、ダイのスマホがポップ専用の着信音を告げることはなかった。
それなのに何故、今になって。
うつむくダイの顔をポップが覗き込んだ。
「なんでぇ、皿ばっかりじろじろ見やがって。……あ、あれか」
「な、なに?」
「エビ天、狙ってんだろ?」
母さんがたっぷり持たせてくれたから、心配すんなって。
言いながら、茶目っ気たっぷりにウインクしてみせる。その以前と変わらぬ様子に、ダイは無性に苛立った。ポップは昔から場の空気を読むのが得意だった。二人の間に漂う気まずさを払拭しようとしているのだろう。
そんな彼の意に沿うならば、ここは笑うところだ。もしくは、おばさんの天ぷらは渡さないぞと凄んでみせるか。だが、今は調子を合わせることなどできるはずもない。ダイはさらに深くうつむいて足の爪先を睨みつけた。
ひどいよ、ポップ。おまえは、おれの告白をなかったことにしようとしてるの?
「……もういいよ」
「あん? なにが」
「準備してくれてありがとう。じいちゃんが帰ってきたら二人で食べるよ。おばさん達が心配するから、ポップも戻ったほうが」
「帰らねーよ」
帰宅を促す言葉は、無遠慮に遮られた。ポップは蛇口をひねって水を止めると、盛り付けたそうめんに埃よけの蓋を被せた。
「夜中まで止みそうにねえから、じいさんは店に泊まることになった。つーか、オレが勧めた。オレがダイのところへ行くから心配すんなってさ」
「おれ、もう十七だよ。そんなの、別に必要ないのに」
「おまえが構わなくても、じいさんは困るんだぜ。かわいい孫を案ずる気持ちを汲んでやれよ」
「……なんだよ、それ。じいちゃんは気遣うくせに、おれの気持ちはどうでも良いんだな」
「ダイ……?」
我慢の限界だった。思わず口を衝いて出た本音に、ポップが首を傾げた。そして、うつむいたままのダイの頬に手を伸ばしてくる。ふいに視界へと飛び込んできた指先を、ダイは反射的に払い退けてしまった。
ハッと息を呑む気配で我に返った。謝罪の言葉を口にしようとしても、声が喉の奥で絡まって出てこない。表では強風が吹き荒れ、篠突く雨が屋根を叩いているのに、狭い台所には痛いほどの静寂が横たわっている。壁時計の針が刻む無機質な音に、焦りだけが募っていく。
早く、なんとか取り繕わなければ。本当に終わってしまう。不毛な片思いだけでなく、幼い頃から培った友情すらも。けれど思えば思うほど空回りするようで、ダイは途方に暮れるばかりだ。
「……ったく、しょうがねえなあ」
重苦しい沈黙を破ったのはポップだった。バリバリと頭をかきながらため息をついたかと思うと、次の瞬間にはまなじりを上げてダイをひたと見据えた。
「ダイ、そこの壁を背にして立ってろ」
「え? どうして」
「いいから。んでもって、そのまま両手を高く挙げてくれ。あぁ、安心しろ。おまえの思ってるようにはならねえよ」
「……それってどういう」
声の調子とは裏腹に、ポップの表情は真剣そのものだった。説明はない。退く様子もない。意味がわからなかったが、ここは従うしかなさそうだと判断し、ダイは指示どおりに手を挙げた。
これで良いのかと問いかけようとしたものの、最後まで話すことはできなかった。一息で距離を詰めたポップが、いきなりダイを抱きすくめたためだ。
「ポップ……︎⁉︎」
「あーあ、ちょっと見てねぇ間に、またデカくなりやがって。ついに抜かれちまったか」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
鼻先が触れ合う距離なんて久しぶりだ。それこそ、ただの幼なじみだった小学生以来かもしれない。ポップの声が遠くに聞こえる。引き離そうとするも抵抗され、かえって腕の中に閉じ込める結果になってしまい、ダイは低く唸った。
無謀な賭けに出て、無惨に砕け散った恋心が慟哭している。離れたい、けれど放したくない。相反する思いがせめぎ合い、息が苦しくなる。あまりにも強い感情に翻弄されすぎて、ぎゅっと閉じた目尻から涙がこぼれ落ちた。
「ポップ、やめてくれよ……おれにどうしろって言うんだ。こんなの、どうしたって期待しちゃうじゃないか……!」
「……いいぜ、期待してろよ。言ったろ? おまえの思ってるようにはならねえって」
「はっ……え……?」
ポップの表情は見えない。ダイの胸に顔を深く埋め、互いの鼓動が伝わるくらいに隙間なくしがみついているためだ。だが、夏の間にポップの背丈を追い越したダイには、彼の耳がかすかに赤らんでいる様が手に取るようにわかった。
「なんで……」
あまりにも自身に都合の良い展開で、まったく現実味がなかった。ちょっとからかっただけなのに本気にしやがって、などと鼻で笑われるのではないかとすら疑ってしまう。そんなこと、こいつがするわけがないのに。
ダイは唾を飲み込んだ。先ほどまで萎れていた心が勝手に騒ぎ出す。
これは、ひょっとすると。
「もしかして、ポップもおれを好き……なの?」
上擦った声で恐る恐る問いかけると、ポップは肩を大きく震わせてから息を吐き出した。
「……これでもハゲそうなくらい悩んだんだぜ。ダイはオレの幼なじみで弟分で、親友で。そういう対象として見たことなんかなかったんだけどな。でもよ、女の子といい雰囲気になっても、おまえの顔がちらつくんだ。その先へ進む気にちっともなれなかった。それってつまり、そういうことだろ?」
ポップは微苦笑して、ダイの頬に手を添えた。
「不安にさせて悪かった。おれも好きだぜ、ダイ」
「……おい。そろそろ離せって。そうめんが固まっちまう」
「嫌だ。せっかく手に入れたんだもん。もう少し堪能させてよ」
「だったら、なにもこんな狭いところでくっついてねえで、食いながら話せばいいだろ」
膝の上に乗せたポップが呆れている。
あのあと、ダイは膝から崩れ落ちてしまった。極度の緊張状態から解放され、力が抜けたのだ。とっさに受け身を取ったものの、ポップを巻き添えにして湿気た床に倒れ込む。起き上がることもできたが離れがたく、そのまま彼を抱きしめて今に至る。
「なんだか胸がいっぱいで食べられそうにないよ。ねぇ、本当に夢じゃない? ポップがおれを好きだって言ってくれたの、嘘じゃないよね?」
まだ半信半疑で詰問口調になってしまうけれど許してほしい。
ポップの頬に灯った熱が、常よりも速い鼓動が何よりの証拠だとわかっているが、それほどに長く苦しい一ヶ月半だった。部活にも集中できず、何度手厳しい指導を受けたことか。課題の出来は、さらにひどかった。休み明けの実力テストは、本当に『実力』で受ける羽目になった。業者テストだから結果が出るのは少し先だが、ブラスからの叱責は免れないだろう。
繰り返される恨み節にうんざりしたのか、ポップが唇を尖らせた。
「嘘でも酔狂でもねえよ。おまえこそ、『ごめん』って、あれは何なんだよ。返信しようにもブロックされてたし」
「……え?」
「やっぱり気づいてなかったか」
苦笑いするポップに、ダイは慌ててスウェットのポケットからスマホを取り出した。だが、指先が震えて操作がままならない。すると、見かねたポップが手から端末を抜き取り、慣れた様子でロックを解除する。なぜ解除コードを知ってるのかと胡乱な目で訴えかけたら、きょとんとした顔で「一度見れば覚えるだろ?」と返された。それは、おまえが天才だからだよ。
「……本当だ」
ダイは呆然と呟いた。よほど気が動転していたらしい。アプリの通知を切るだけのつもりだったのに、操作画面を間違えてポップ自身をブロックしてしまっていた。
とは言え、疑問は残る。
「だったら、電話してくれば良かったじゃないか」
大学生のポップとダイとでは生活時間が異なる。同じ中高一貫校へ通っていた頃は登校時間を合わせていたが、それができなくなってからは毎日のように短文メッセージを送り、時にはアプリ通話で他愛のない話をしてきた。互いの番号も知っているのだから、ブロックされていても電話をかけることくらいできるはずだ。
ダイの主張に、ポップは鼻に皺を寄せて嫌そうな顔をしてみせた。
「おまえだってかけてこなかったくせに、なに言ってんだか。それにこんな大事なこと、電話で済ませるわけにはいかねぇだろ」
ここで突然、ポップがダイの腕からするりと抜け出した。慌てて腕を掴んで引き戻そうとするも、片手で制される。
「そもそも、だ。おまえ、男同士のやり方って知ってんのか?」
「えぇっ⁉︎」
いきなり話が飛躍して、ダイは目を白黒させた。
よほど間抜けな顔をしていたのだろう。「まさか、付き合うって遊びや買い物とかじゃねえよな?」と変な念押しをされてしまった。交際経験こそないが、性知識はメディアや周囲の友人達から仕入れている。けれど、さすがにそのまま口にするのは気恥ずかしくて、明後日の方角を見ながらぼそぼそと返した。
「いや、うん。それは、なんとなくだけど」
「知ってんなら話が早い。あのな、女の子と違ってそのまんまじゃ入らねえんだよ。いや、女の子でもそっちは事前に解さないとダメだけどな。他にも、いろいろ必要なものがあるらしい。ゴムとか、ローションとか」
「……つまり?」
要領を得ない話しぶりに首を捻ると、ポップはいきなり叫んだ。
「つまり! いきなり今日の今日でヤれるもんじゃねえってことだ!」
耳どころか、シャツから覗く鎖骨あたりまで朱に染まっている。その姿に閃くものがあり、ダイは恐る恐る問いかけた。
「……それじゃあ、ずっと連絡がなかったのって」
「あぁ! そうだ! お互いガキじゃねぇんだから、いい雰囲気になったらエロいことの一つや二つ、したくもなるだろーが! けど、オレにも心の準備が必要だったんだよっ!」
自棄になったポップが繰り出した拳をまともに食らってしまった。ダイは「痛いなぁ」と顎を撫でつつ、幼なじみから恋人へと昇格した青年を引き寄せた。指先を交互にからめて、きゅっと握り込む。これまで何度も手をつなぎ、肩を抱き合ってきたけれど、あくまでも親友としての距離だった。それが今、巡る季節とともに変わろうとしている。
屋根を激しく震わせていた雨音は、いつしか聞こえなくなっていた。荒れ狂う嵐の間、息を潜めていた虫たちがためらいがちに歌い出す。秋がすぐそこまで来ていた。
「夏休み、終わっちゃったね。おれ、ポップと海に行きたかったな。花火大会も一緒に見たかった」
「そんなもん、これから何度だって行けるじゃねえか」
「十七の夏は一度きりだよ」
「……だから、悪かったって言ったろ」
返事を先延ばしにしていた罪悪感からか、腕の中のポップが居心地悪そうに身じろぎする。少し意地悪だったかとも思ったが、これくらいの意趣返しはかまわないだろう。
だが、ダイの優位はそこまでだった。
「でも、来年は受験生だぜ。ダイならスポーツ推薦も余裕だと思うけどよ、それでも遊んでる暇なんかねえぞ。こないだの実テもさんざんだったんだろ?」
「うっ、思い出させないでよ……」
「まぁ、この天才ポップ様が見てやっから。大船に乗ったつもりで任せとけ」
その代わり、高くつくぜ? と、ポップがからかうように笑う。
「ポップに教えてもらえるなら最強だな。言い値で買うよ。いくら?」
「そうだなぁ……。一時間につき、本気のキス一回とか?」
自分から言い出したくせに視線を泳がせるポップに、つい噴き出してしまった。
「それじゃあ、おれにとってはご褒美だよ」
「だったら、他のものでもいい」
「それがいいっ!」
食い気味に答えたダイを見て、ポップの瞳が甘やかに緩んだ。その照れくさそうな笑顔に、ようやく実感が湧いてくる。こんな表情もするのか。ポップのことで知らないことなど一つもないと思っていたのに。ひどく新鮮で面映ゆい気持ちを持て余していると、ポップがダイの頬をするりと撫でた。誘うように伏せられた睫毛に鼓動が跳ねる。
これは授業料に入るのかなと考えながら、ダイはその優しく上向く唇に顔を寄せた。