海の墓標、それから、恋の死にざま初めて彼の本を読みおえたとき、雷に打たれたような衝撃を感じた。
『海の墓標』。
それは文壇期待の新人、月島基による初のベストセラー本だ。
普段、恋愛をテーマにした本はそれほど読まないが、友人の江渡貝が是非にと押し付けてきたものだから、数ページ捲るうちにその文体の美しさに虜になった。
「これ、読み終わったぞ。ありがとう。」
「どうだった?ねぇ、すごくいいでしょ?切ない恋模様が丁寧に描かれてて、ほんと、もう、たまらないでしょ?!」
ずいずいと感想と同意を迫る友人を押しやると、鯉登は素直に良かったと言えず、まあ、悪くなか、と答えた。
「こういうのも、たまには悪うなかね。」
「なーんだ、意外に早く読み終わったから気に入ったかと思ったけど。」
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